【3話こころの一句】
「慎太郎っ!」
「なぁに?」
寛治が居間に入ってくるなりソファの上で本を読んでいる慎太郎に言った。
「最近な、かの子とお母ちゃんがなんかよそよそしいんだ。何か知らないか?」
「えっ!ぼっ、僕何も知らない」
「そっ、そうか。気のせいだといいんだけど。なんかお父ちゃん寂しいよ」
「きっ、きっ、気のせいだよ。うん」
「そうか。あまり気にしないほうがいいかな?ふうっ」
寛治は寂しそうにため息をつくと、息子の頭の上に手を置いた。
気にしないほうがいいとは思いつつ、最近自分が避けられているのが気のせいではないと分かっていた。
次の日、家へ帰ると中は真っ暗だった。
「ただいま。誰もいないのか?」
ため息をつきながら電気を点けた。
「・・・?」
「おめでとっ!」
「えっ?」
突然の事に寛治は唖然とした。
「えっ?お父ちゃん誕生日じゃないし、結婚記念日でもないよ?」
呆気にとられながら寛治が言うと、かの子が答えた。
「えー、実はお父ちゃんがこないだ毎朝新聞に送った俳句が佳作をとりました」
「みんな拍手っ!」
パチパチパチパチっ
「えっ?本当?」
「お父ちゃんには悪いけど今日の祝賀会まで内緒にさせてもらいました。最近冷たくしてごめんね」 涙ぐむ父にティッシュを2、3枚渡しながらかの子が言った。
「そっ、そうだったのか。ううっ、みんなありがとう」
「泣かないでお父ちゃんっ!」
「ううっ、それで慎太郎も最近冷たかったんだね?」
「え?僕は知らなかったよ?」
「あっ、あぁそうなんだ」
少しだけ反抗期を迎え成長した我が子にうれしいやらかなしいやら、複雑な父寛治だった。
佳作
東京都 巨人愛さん
かぞくみな
元気でいれば
いとうれし
選評
東京浅草文芸大学教授 中畑清次郎
温かい作品ですね。
とても素敵な家族とお幸せにお過ごしください。
私は先月嫁と子供に逃げられ、残ってくれたのはポチだけです。
ありがとう、ポチ。
ほんまにありがとうやで。