第五話「煉獄」
森は暗い。
物理的にそうであるはずなのだが、なんだかマーシャにはこの森の木々が妖しい光を放っているように見えた。
コスタヤ「この道を抜けたら、森を出るよ」
コスタヤはそう言って前方を指差すが、当の前方には道など無く、両サイドから生い茂ってきている木々が絡み付くように道を塞いでおり、とても道などとは言えない。
コスタヤ「通せ」
マーシャは「道なんて無いじゃない」と突っ込もうとしたが、その時にはすでにコスタヤが自身の力で道を作っていた。
***
~森の外~
外に出ると、森の中とは正反対な目映い光が射し込んできた。
一瞬目を細め、徐々に戻すと、マーシャの目に外の景色が飛び込んできた。
コスタヤ「現世じゃ『煉獄』って呼ぶのかな。ここは、あの世とこの世の間だよ」
マーシャ「あの世と…この世の間…?」
コスタヤ「うん。現世じゃ善人が死後訪れる場所が天国で、悪人が死後訪れる場所が地獄ってのが常識なんじゃない?」
マーシャ「う、うん…」
コスタヤ「その実、どちらも存在しない。選ばれた人は、善人だろうと悪人だろうとここに来るんだ」
マーシャ「そう…なんだ…」
コスタヤ「そうは言っても、ここじゃなかなか悪事を働こうって人は居ないんだけどねー」
マーシャは、まさに絵に描いたようなその美しい景色を見た。
最期の楽園…
ふとそんな言葉が頭に浮かんだ。
暖かい景色だった。
ここには、血の匂いも鉛の匂いもしない。
穏やかな雰囲気の集落が、いくつも連なって自然と共存していた。
マーシャ「この世界は…何て言う名前なの?」
コスタヤ「さあ?皆自由に呼んでるよ。君も好きに呼ぶといい」
マーシャは、そっと呟いた。
マーシャ「…煉獄」
一生を終えた人々が、最期に訪れる楽園。
マーシャはここを、「煉獄」と呼ぶことにした。