第一話「死亡」
マーシャは死んだ。
切り株だらけの森を歩いていたとき、突然死んだ。
唯一幹が残っていた木のそばに腰かけると、突然尻が熱くなって…
そこからは覚えていない。
気がつけば死んでいた。
マーシャは目を覚ました。
重い体を起こし、辺りを見渡す。
周囲には木々が生い茂っていた。
生前最後に見た木にも似てるが、場所は明らかに違う。
立ち上がって、もう一度辺りを見渡す。
やはり一面木だ。
自分が立っているここだけは、例外的に何も生えていない。
上を見ると青空が広がっている。
マーシャ「ここは…」
森に入ってみる。
さっきの開けた場所とは違い、入ると一気に暗くなった。
奥を見つめると、深い深い闇が限りなく続くばかりだ。
流石に進むのが億劫になった。
するとふと、足元に生えている一輪の花が目に止まった。
マーシャ「この花…」
図鑑で見たことがある花だ。
でも、実際に見たことはない。
とするとこの花は…
そこまで考え至ったところでこの花の名前を思い出した。
マーシャ「ニチゲツタンヨウジサン…」
???「ご名答」
マーシャが花の名を呟くと、どこからか声が聞こえてきたので、少し驚いた。
声の主を探してキョロキョロと四方八方に首を回し、さっき自分が通った、森の入り口に一人の人間が立っているのを見つけた。
少年だ。自分と年は同じくらいに見える。
逆光のはずなのに、何故かよく顔が見えた。
そしてもっと驚いたのは、少年が地に足をつけていないこと。
???「よく知ってたね。ニチゲツタンヨウジサンは、一昔前に中国っていう国で絶滅した植物だよ」
そう言いながら少年がこっちへ向かってくる。
地に足をつけずに。
マーシャは少し怖くて、まるで同じ極を近付けられた磁石のように後退りした。
???「怖がらなくてもいい。別に取って食ったりはしないから」
これは、俗に言うあれ、ユーレイというやつだろうか。
地に足をつけずに自力で進む人間なんてユーレイしかいない。
取って食ったりはしないから、と言われた側からあれだが、マーシャの恐怖心は割増しした。
おかげで足がすくんで、動けなくなってしまった。
ついに少年が自分の目の前に来た。
???「えーっと…御愁傷様だったね。運が悪かったよ。地雷を踏むなんて」
マーシャ「地雷…?」
???「もしかして、気付いてない?君は地雷を踏んで死んだんだよ」
気が付いた。
あの場に腰を下ろしたから、地雷が爆発して自分を粉々にしたのだ。
はっと気付いた。
この少年はユーレイ。
ユーレイになるのは死んだから。
私も死んだ。
じゃあ、私も…
急いで自分の下半身を見た。
だが、思い過ごしだったようだ。マーシャにはきちんと足があり、地を踏みしめていた。
安堵の息を漏らす。
???「まだ何も知らなくて困ってるだろうから、説明してあげるよ。この世界のことを」
マーシャ「この…世界…」
思考が追い付かない。
自分が死んだという事実でさえいまいち頭に入ってこないのに、
目を覚ませば知らない森。
絶滅したはずの、それも遠い国の花。
浮遊している知らない少年。
そして、知らない世界…
後にマーシャは、この世界を第二の故郷とするのだが、それはまだ、遠い日の話。