アイテムボックスのご利用は優しく!
こんなアイテムボックスいやだ。
世界の各地の昔話や童話、逸話に伝説。
どれも“かつて”をお話として後世に伝えているという共通点が見られる。
――だいたいそれらには、“おうじさま”や“おひめさま”、良きも悪きも“まじょ”を始めとした“にんげんではないそんざい”が登場する。
彼らもそんな“にんげんではないそんざい”である。
彼らは、今は物語の定番のジャンルと化したファンタジー世界で、妖精の一種としてその不動の位置を獲得した。
彼らを人間は小人と呼ぶ。
白雪姫の七人の小人や、靴屋の小人が一番有名だろうか。どちらも大きさが違いすぎるが、人間のいう小人のサイズはあまりにも大雑把なのである。
白雪姫の七人の小人は、どう見ても人間の子供サイズであるし、靴屋の小人は靴くらいのサイズの等身なのだ。
――彼らは声を大にしていいたい。
そんな気持ちで、今日も黙々と作業をする。……靴作りではない。
「あんなにでかくねぇよ。七人の小人じゃなくて、七人の小柄な人間だろう」
一人が薄い板をつつきつつ、時に周囲にヤジを飛ばしながら呟いた。よく見れば、薄い板はタブレット端末(サイズは小人に対応済み)である。
これはちなみに一人言である。ぼやかないとやっていけないのだ。
「靴屋の話なんて、俺ら真っ裸で描かれて服恵んでもらってんぞ」
その呟きは、無線によって他の担当の耳に届いた。
近くにいる小人が突っ込んだ。彼は、ベルトコンベアを流れる様々なアイテムにタグをつけていく。大変手際が良い。
「どっちかってぇと親指姫とか一寸法師じゃね」
その呟きは、さらに突っ込まれた。突っ込み主は、ベルトコンベアから流れてきたアイテムを、それぞれ該当する倉庫へと運び込む小人である。
一本のベルトコンベアは、一ヶ所で何本も何本も枝分かれをする。それぞれの終着点は、属性や目的別に分けられた倉庫である。
その倉庫のオペレーターが、突っ込みにさらに突っ込んだ。
「いや花からは生まれねぇよ。てかホムンクルスじゃねぇよ」
使用されると判明したアイテムを、ユーフォーキャッチャーで運びあげて“右、この先入り口”という立て札のあるベルトコンベアに載せた。ちなみにリモコン操作であり、立て札は手作り感満載である。
「なら一寸法師でよくね」
オペレーターの言葉に応じたのは、大きな穴の前にたつ小人だった。大きな穴は木の柵で囲われ、“ここは入り口、入ったら失業”の立て札がでかでかと存在を主張している。
「よくねって何が」
隣にたつ小人が突っ込んだ。彼は荷車につまれたアイテムを穴に放り投げた。ちなみに、ユーフォーキャッチャーでつり上げられたアイテムは、この荷車に載せられるのである。
「ほら、“小人による小人のためのイメージ戦略についての法律”の法案可決したからさ、イメージってそもそもどれが俺たち(リアル)に近いかって」
んしょ、と一緒に穴に放り投げた小人が説明口調で長々と応じた。一寸法師でよくねの発言者である。
「え、ただのぼやきなんだけど」
それに、最初にボヤいた小人が呟いた。何でそんな壮大なネタになっている。何で法律が出てくるんだ。確かに先日可決された法案だが、確か野党が“我々はコビトであり小さくはないのだ、人間はでかいだけだ宣言”をし、国民に是非を問うとかで国民選挙だとか何だとかいってたが。
「……アイテム使いの荒い、契約者の勇者へのぼやきが政治に対する意見陳述になった件」
小人はさらにボヤいて、頭をポリポリかきながら業務に戻っていった。
「あれ、いつもよりアイテム出てくんの遅いな」
念じたアイテムがすぐ出なかったことに、持ち主の勇者は首をかしげた。
「アイテムボックスの小人がボイコットしてんじゃないの?」
パーティーの魔法使いがやれやれと首を振る。勇者は異世界から呼ばれたから、アイテムボックスのことをよく知らないのだ。使い方は妙に理解しているのだが、感謝のこもらない使い方をしている。
「小人ってなんだよソレ。お伽噺?」
笑う勇者に、
「アホ、アホ! アイテムボックスはな――」
真剣に怒鳴る魔法使いは、勇者にきっちり再度教え込むことにした。
アイテムボックスは、便利魔法でも何でもない。
空間魔法により創造した“どこまでも広がる空間”を、使用者たる者の魔力で維持する。その維持した空間は、ただ放り込んでも中で整理なんてされることはない。
空間はただのエンドレス空間な物置と化すだけで、入れても取り出せない魔空間へと至るのだ。
そこで、ある賢者が考えた。
他世界にも進出していた器用な種族の小人たちが、昨今人間界での扱いや不当なイメージに泣き寝入りをし、他世界での仕事と住む場所を失い、こちらの世界にも流れ込み、一気に難民となった。
そんな彼らに、魔空間をアイテムボックスとして管理してもらってはどうか。
――思い付きは瞬く間に、小人たちが抱える問題を解決した。
魔空間をもて余した人間界と、利害が一致したのだ。
魔空間を整理整頓し、整備し、空間ごとに小人の住居シェルターとする。住居シェルターのある空間に住むことを条件に、アイテムを整理し、使いたいときにすぐに対応し、仕舞いたいときにすぐに対応するようにする。
……つまり、魔力の強い人間が空間を作って小人の住居とし、その住居をアイテムボックスとして貸し出し運用する。一種の商売なのだ、アイテムボックスは。
「きちんと扱わないと、ボイコットされた事例が過去にある」
「え、まじで……?」
「モンスターと戦い瀕死になったときに、アイテムボックスを閉じられ、ギルドの救急隊に救出されたことがあるぞ、おれは」
「嘘だろ……?」
勇者は、半信半疑でアイテムボックス――念じるだけで空中から物を出し入れできる――からポーションをためしに取り出そうとし、
「え?」
「ほら、いわんこっちゃない」
――虚しく手が空中を切るだけに終わった。
四次元ポケットの仕組みがものすごく気になって、「四次元ポケット、アイテムボックスと同じじゃね」と思い、なんとなく書きました