歌い手とオペラ座
初めに歌があった。
生まれた時から、母が、父が歌ってくれていた。
子守唄。
いや、それだけじゃない。
甘い愛の囁き。
勇敢な英雄の挑戦。
悲しみの鎮魂歌。
だから、私は歌が好きになった。
だって、いつも聞かせてくれる父と母の歌は、本当に美しかったから。
私も父と母のように歌いたい。
でも……もう、それは叶わないかもしれない。
最初の不幸は、母が事故で亡くなったこと。
そして、次の不幸は、父が流行り病で亡くなってしまったこと。
きちんとした教えを乞う前に、私はあの美しい歌を失ってしまった。
絶望に打ちひしがれているときに、手を差し伸べてくれたのが、私の親友、リズ。
「ねえ、ティーア。実はある劇団に欠員が出ているの。それも歌い手よ。そう、オペラ座の歌手! そこでなら、あなたの願う歌に近づけるんじゃない? それに……そこに私も行く予定なのよ!」
その一言で、私はなんとか住む場所と職場を得たのだった。
そして、数か月後。
私はそのオペラ座の劇団に入団する。
どんなことが起きるのか、不安と期待を混ぜこぜにした気持ちで、ゆっくりとオペラ座に入っていく。
煌びやかなシャンデリアの下で、紡がれていく夜の物語。
―――そう、これから始まる出会いと、そして別れの物語を。