明
流麗な指捌き、というのは言い過ぎかもしれないが、キーボードの上を踊るように巡る指の動きは何故だかわからないが見とれてしまうものだった。
オレの視線に一瞬だけ物言いたげな視線を向けてきたが、その間も指は止まらず、PCのブラウザ上には1つのサイトが、正確にはその中の1つのコンテンツが表示されていた。
「WEBラジオ、ってやつか……」
「そ」
Community Of Amateur、略してCOA。イラスト、小説、動画など、ありとあらゆる創作物を投稿できるアマチュアのためのコミュニティサイトだ。
そして、マシロの表示したものはWEBラジオ。電波ではなく、インターネット上で放映される音声コンテンツだ。ネット上にデータが残るため、過去の放送を視聴できるのも大きな強みだが……
「お前が?」
「ワタシが、よ。イケナイかしら?」
「いや……」
悪いとは思わない。それこそ、個人の自由だ。だが、とも思うのも事実だ。
なんというか、この少女のコミュニケーション力でラジオというのは……
「含みがあるような言い方、やめてもらえるかしら。まあ、アナタが言いたいこともなんとなくわかるけど」
「わかっているなら、っていうのは違うか」
「そうだと思うわ。ワタシ自身、コミュニケーション力があると思ってるわけじゃないもの。でもね、それでも人にはやりたいことってのがあると思うのよ。それが下手の横好きなのか、好きこそものの上手なれ、なのかは別として」
「で、お前のやりたいことはラジオってことか」
ええ、と彼女は頷く。オレとて、そこをとやかく言うつもりもない。下手でもなんでも、やりたいようにやる。それがこのサイトの設立趣旨でもあるようだしな。
しかし、だ。
「なぜオレを巻き込む?」
「すごく言葉を選ばないで言うとね」
と彼女自身言ったものの、数秒黙り込んでから、
「……変人が必要だったのよ」
オレ、このまま帰ってもいいよね? そう思ったものの、だが、とも思う。常識人を気取るつもりはない。それこそ、変人と間違いなく言われる部類の友人が数人いる。類は友を呼ぶ、という言葉を引き合いに出すならば、オレ自身も変人であると言える。
「ふむ……」
つまり、オレに求められているのは変人としての、
「常識と違った観点、もしくは、枠にとらわれない視点、か……」
「ええ。ただ駄弁るだけのラジオにはしたくないの。ワタシがやりたいラジオの基本はディスカッションよ」
お前こそ変人だろう、という言葉は飲み込む。代わりに、
「しばらく考えさせてくれ」
「もちろん、いいわよ」
返答の先延ばしを鷹揚に受け入れる。そんな彼女にオレはさらに、
「もしオレが受けない場合、どうするつもりだ? ならやらない、というのであれば、この場で答えはノーと決まるが」
瞳を見据えて問う。彼女もまっすぐに見返し、
「それこそノー、よ」
挑発的に言いきった。