表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: 栗栖紗那
1/7

 青、黒、青、黒、赤。


 見つめる先で明滅し、切り替わった信号。赤になれば、当然車道を車が走るものと思うが、生憎夜も明けぬ四時過ぎ。通る車は皆無だった。

 それでも、信号無視はしない。規則を守ることにそこまで意味は感じないけど、守らなくて加えられる予想外の危害の方は恐ろしい。


 しゃがみこみ、シューズの紐を確かめる。問題ない。

 立ち上がって待つ。車の通らない車のための道を見つめ、待つ。

 静寂ではない世界だけど、それでもその場でたった一人の自分。

 目を閉じて、息を吸う。昨日の残り香を体に取り込み、そして吐く。また一日、日を重ねる実感として。


 信号が青に変わった。

 走り出す。初めはゆっくりと。横断歩道を渡り切るまでは徐行。

 アスファルトの川を渡った先は本当に水を湛えた河川がある。川辺は土手になっていて、道としても整備されている。

 もう少し遅ければ、他のジョギングをしている人と会うこともあったろう。


 しかし、今は誰もいない。

 誰にも邪魔されることなく、一定のペースで、崩さぬリズムで息を吸い、吐き、腕を振り、地面を蹴る。


 光を映さない黒い川面は見た目にアスファルトと大差ない。両側に黒い川を置き、走る。がむしゃらでもなくなく、無気力にでもなく。

 何かを思うことはあっても、それが長く心に留まることはない。取り留めのない思考を置き去って行く。


 この道を走るのは七回目だ。この町に越してきて、まず真っ先にさがしたのはコンビニでも、本屋でもなく、走る場所だった。

 オレは陸上選手でもなければ、運動部員ですらない。

 どちらかというと、休日は家でゴロゴロと無為な時間を過ごしていたいタイプだ。でも、この早朝の時間だけは余程のことがない限り、続けてきた。

 何が自分をそうさせているのか、まったくもってわからなかったけど、習慣って意味を求めるものでもないだろうし。


 そんな取り留めのない、というより無意味な思索にふけりつつも、足は地面を蹴り、走りは止まっていない。それこそ、習慣だ。習性と言い換えてもいい。

 だから、


「ねえ」


 という、なんてことないはずのセリフに、習慣上にないイレギュラーにオレは大いに驚き、こけた。

 そして、さらに間の抜けたことに、土手から転げ落ちた。そのことに気付いたのは、回転が止まり、川辺の柵の近くでうつ伏せになってさらにしばらくしてからだったが。

 その瞬間はなにがなんだかわからず、踏ん張るとかそういうことにも頭が回らなかった。


「…………」


 一度に色々なことが起きて、何がなんだか。


 よし、今日一日を振り返ってみよう。

 三時半ちょっと過ぎに起きて、ストレッチ。いつも通りだった。

 玄関で靴を履く。きちんとランニングシューズを履いた。信号で止まった時にも確かめたから間違いない。

 土手を走る。いつも通り、日も登らない時間なので、川面は黒かった。うん、いつもの景色。


「おーい」


 うつ伏せになったオレの頭上から女性の声。……いつも通りじゃない!

 習慣を邪魔した闖入者を確かめるべく、オレは起き上がって、土手の上を見上げた。

 そこにいたのは、有名だけどお手頃価格なメーカーのウィンドブレーカーを羽織った少女だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ