いつか見た虹の橋
営業帰りの空は不機嫌で、溜まったストレスを発散するように雨粒を地面に叩きつけていた。
「まいったなぁ」
突然の夕立なんて予想できるはずもなく、スーツの上着を傘代りに会社への帰路を急いでいた。
これならもう少しスタバでゆっくりしてれば良かった。
でも、帰りが遅くなれば上司に叱られるのが分かってるだけにゆっくりもしてられなかった。
地下鉄に乗り込み駅に着くまでの間に営業先との契約書に目を通す。
契約内容はこちらにとってベストとまではいかないが、妥協案としては許される範囲内だと思う。
上司への報告を考えているうちに電車が駅に到着した。
改札口を抜けると夕立は降ってなく、ストレス発散に当てられたコンクリートが水溜まりをつくっていた。
機嫌を直した空は、街をオレンジ色に染めた。
オレンジ色の街を会社に向かって歩いて行く。
ビルに反射した沈みかけた太陽に目を細めながら、ふと見上げた先に虹を見つけた。
虹なんて、いつぶりに見ただろう。
懐かしい景色が頭を過る。雲と雲を架ける虹。背の高い花の草原に寝転び見上げた空に架かっていた。
あれはいつの頃だっただろう。思い出の中にある背の高い花の名前は、いったいなんだったろうか。
微かな記憶を辿っても何も思い出せそうになかった。