「お前など家から出ていけ!」と勘当されたので、ガッツリ庭で生活を始めました
サクッと3千字。
「お前など、今すぐ家から出ていけ!」
「わかりました」
私があっさり頷くと、お父様は拍子抜けしたような顔をした。
事の発端は、私が王子との婚約を解消したことだった。あの方とは昔から気が合わず、結婚して一生顔を合わせるなんて考えただけで憂鬱だったので、思い切って話をつけてきたのである。幸い、王子のほうも私との結婚には乗り気でなかったらしく、話は驚くほど円満にまとまった。
まとまらなかったのは、お父様の機嫌だけだ。
「いいか、勘当だぞ! 二度とこの家に入れると思うな!」
「はい。では失礼します」
そうして私は、さっそく自室に戻って荷物をまとめた。
実を言うと、私には前世の記憶がある。日本という国で普通の会社員をしていた記憶だ。そして、当時の私は休日になると、最低でも月に一度くらいはキャンプに出かけるほどのアウトドア好きだった。
ところが、貴族令嬢として生まれ変わってからは、礼儀作法だの社交界だのと忙しく、そんな趣味を楽しむ機会がほとんどなかった。
しかし今、ついに自由の身になった。
(よーし、久しぶりにキャンプでもするか!)
荷物を抱えてウキウキで向かった先は、屋敷の裏庭である。
「……お嬢様?」
私についてきたメイドが、不思議そうに首を傾げた。
「何をなさるおつもりですか?」
「ここで暮らすの」
「ここって……お庭ですよ?」
「うん。お父様は家から出ていけって言ったでしょ。だから家から出たの」
「…………」
メイドはしばらく黙り込んだあと、「お嬢様、それはさすがに……」と小さく呟いた。
だが、お父様も意地になっていたらしい。報告を受けると、「放っておけ! どうせ一晩もすれば泣きついてくる!」と怒鳴ったそうだ。
ありがたい。これでしばらくキャンプができる。
とはいえ、ここは西洋風の異世界。前世のように、店へ行けばテントや寝袋、携帯コンロが何でも揃うわけではない。しかも勘当された身なので、金遣いにも気をつけなければならない。
そこで私は、手元に残っていた小遣いを握りしめ、街の市場へ向かった。
買ってきたのは、古道具屋で見つけた小さな鉄鍋、縄、傷物の麻布、藁束、小刀、それから火打石と火打ち金、火口(着火剤みたいなもの)など。あとは野菜とパンを少々。専用のキャンプ用品こそないが、暮らしに必要な道具なら、この世界にもちゃんとある。
「お、お嬢様! そんな重いものをお持ちにならなくても、私が……」
「大丈夫、大丈夫。こういう準備から楽しいんだから」
まずは寝床作りだ。
庭の端には、木が二本、ちょうどよい間隔で立っている。その間に縄を渡し、厚手の麻布を掛けて、端を木の杭で固定する。雨には弱い簡単な屋根だが、幸いしばらく晴れが続く季節なので、ひとまずこれで十分だ。
地面には藁を厚く敷き、その上に持ってきた古い毛布を重ねる。寝るときに大事なのは、何より地面の冷たさを防ぐこと。ここを手抜きすると、翌朝ひどい目に遭う。
「まあ……! お庭にお部屋ができました!」
「でしょ? 案外いい感じだよね」
メイドが目を丸くしている。うんうん、この反応は悪くない。
続いては夕食の準備である。
火を使う場所は木や布から十分離し、土の見える一角に石を並べて囲いを作る。水を張った桶もそばに置いた。焚き火は楽しいけれど、火事を起こしたらさすがに笑えない。
乾いた小枝を集め、火打石と火打ち金で火口に火種を移す。ほぐした麻くずに火を移し、そっと息を吹きかけて細枝を足す。何度か失敗したものの、ようやく小さな炎が上がった。
「ついた!」
「わあっ! お嬢様がご自分で火を起こすなんて!」
「普通の火起こしだよ。むしろ昔の人はすごいよねえ」
前世なら着火道具を取り出して終わりだったのに、今回はなかなかの達成感だ。
その火に石を三つ据えて鉄鍋を載せ、刻んだ玉ねぎとカブ、塩漬け肉を煮込む。味付けは塩と乾燥ハーブだけ。パンは買ってきたものを軽くあぶった。
豪華な食事ではない。けれど、外で食べる温かいスープと焼きたてのように香ばしくなったパンは、何とも言えずおいしい。
「……ああ、生き返る」
「お嬢様、本当に大丈夫なんですか? 屋敷に戻りたくは……」
「全然。むしろ、すっごく楽しい」
そう答えていたら、メイドのお腹が小さく鳴った。
「食べる?」
「よ、よろしいのですか?」
「もちろん。多めに作ったから」
一口飲んだメイドは、目を輝かせた。
「おいしいです! 外で食べると、こんなに違うんですね!」
「でしょ!」
その様子を、お父様が書斎の窓から見下ろしていたらしい。
「なぜあいつは楽しそうに飯を食っているんだ!」
と、夕食の席でたいそうお怒りになったそうだ。ご愁傷様である。
翌朝。
鳥の声で目を覚ました私は、思い切り背伸びをした。昨夜は少し冷えたものの、毛布を重ねたおかげで、思いのほかよく眠れた。顔は裏門の井戸で洗い、用を足すには庭師用の外厠を借りる。朝食には残ったパンと、市場で買ったリンゴを焚き火で温めて食べる。
(ああ、最高……!)
せっかくだから、今日はもう少し居心地をよくしたい。
庭に落ちていた太い枝を利用して物干しを作り、古い木箱をひっくり返して机代わりにする。日差しが強い昼間は木陰に椅子を置き、本でも読みながらのんびり過ごす。ちなみに椅子は、庭師が自宅で使っていた古いものを安く譲ってもらった。
すると、どういうわけか使用人たちが入れ替わり立ち替わり覗きに来るようになった。
「お嬢様、この屋根、ご自分で作られたんですか?」
「ええ。縄と布があれば案外なんとかなるものよ」
「昨日のお料理がおいしかったと聞きました!」
「今日も作る予定だけど、よかったら食べる?」
気づけば、夕方にはメイドが二人、庭師が一人、私の焚き火を囲んでいた。みんなで焼いた芋を分け合い、おしゃべりをしていると、まるで前世の友人たちとキャンプに来たような気分になる。
そして数日後。
「お前は一体、いつになったら反省するんだ!」
ついに我慢できなくなったお父様が、庭へ乗り込んできた。
「反省ですか?」
「そうだ! 勘当された娘が、なぜ毎日楽しそうに暮らしている!」
「だって、楽しいですもの」
「そういうことを聞いているんじゃない!」
お父様は、縄に干された洗濯物、屋根付きの寝床、焚き火の跡を順番に見て、こめかみを押さえた。
「お前……まさか、ずっとここに住むつもりか?」
「ひとまず、飽きるまでは」
「飽きるまで!?」
「家から出ていけとのことでしたので。お約束どおり、一度も家には入っておりませんよ」
「ぐぬぬ……!」
お父様はしばらく唸っていたが、結局、何も言わずに屋敷へ戻っていった。
その後ろ姿を見送ったメイドが、こっそり耳打ちしてくる。
「お嬢様。実は、ほかのメイドたちも今夜、ご一緒したいそうなんですけど……」
「いいよ。じゃあ、今夜はちょっと多めに作ろうか」
「ありがとうございます!」
さて、今日は何を作ろう。市場で安く売っていた魚もいいし、野菜を串に刺して焼くのも楽しそうだ。
王子との婚約はなくなり、父からは勘当された。
それでも私は今日も元気に、屋敷の庭でキャンプを楽しんでいる。
……ちなみに最近、お父様が書斎の窓を開けている時間が妙に長い。
メイドの話では、昨夜も「庭では何を焼いている」としつこく尋ねていたらしい。
(ふふ。キャンプ、ちょっと興味が出てきたのかな?)
よし。今夜は、お父様の分も一串多めに焼いておこう。
注:作者はキャンパーではなく、現実だといろいろ準備とか移動が面倒に思って行けないけど、異世界でこういうシチュエーションならキャンプっぽいことしてみたいなぁ……と夢想するくらいのレベル感の者です
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