ゆるふわ婚約破棄騒動
側近の名前を思いついたらするする書けました。
最近の第一王子殿下の行動は目に余る。
婚約者であるエレノア・ソールスベリー公爵令嬢がいらっしゃるにも拘らず、毎日二学年下のフワン・ライト男爵令嬢と親しげに過ごされている。
しかもフワン嬢が、エレノア様から叱責を受けたからと、ご自分の側近達と共に、全校生徒が集まる生徒総会で糾弾し婚約破棄すると、声高にガゼボにて語っていらした。
しかも大声で楽しげに。
そもそもフワン嬢が、エレノア様に叱責を受けたのは、彼女が不躾にもエレノア様の名を呼び捨てにし、二学年上の教室に教師の許可なく立ち入り、殿下に纏わりついていたからであって、エレノア様に非は全くない。
にもかかわらず、殿下は自分を支え続けてくれていた婚約者を、全校生徒の前で婚約破棄してやると公言している。
「などと噂を聞いたのだが、一体どういうことだ?」
声の主が座るソファの向かいに、真っ青な顔で腰かけるのは、ユルーカ・ミゲル・リヒテンフェルド第一王子殿下十八歳。
その横には、名前の通りふわふわの水色の髪、可愛らしい容姿のフワン・ライト男爵令嬢十六歳が、大きなおめめをぱちぱちと瞬かせ
『ゆるたぁん〜ふぅたん、このオジサンこわいよぉふぇーん』などと、不敬にもこちらに聞こえる程度の、棒読み小声で宣い『私頭の足りてないバカ娘で〜すキャハ☆』と自己紹介をしている。
「恐れながら王弟とは言え、第一王子殿下に対して不敬ではないですか!」
「そうです!それに我らは、やましいことなど一切しておりません!」
「ソウだ!フワンを妬むエレノア悪いんダ!」
「お、おまえたち?!」
彼等の座るソファの周りに侍るのは、ジーファン侯爵次男ハイナン。リンチー伯爵三男ユウ。他大陸より留学して来たバーン商会会長四男チキ・ンナン。
三人とも最近第一王子殿下の側近として、取り立てられた将来を期待されつつある令息達─と言えば聞こえはいいが、実態は時局を見定められない、ただのバカアホマヌケである。
「そうよ!だから優しいゆるたんが、ふぅたんをいぢめたあの意地悪女を、みんなのまえで、叱ってくれようとしてるんだから!」
「ふ、ふぅたんまで!しっ!だよ!しーっ!」
彼等は何故成人も近い十八の王子の側近に、自分達が『最近』取り立てられたのかを、全くちっとも理解していないようだった。フワ子も。
かろうじてユルーカ殿下だけは、自分を呼び出したのが王妹であり叔母であるキール・クリスティン・リヒテンフェルドだと言う意味を、薄々理解しているのか、キールに対する側近とフワ子の言動に、目を白黒させている。
そう、彼等の前に座するのは王弟でなく王妹だ。
顎のラインで短く切りそろえられた黒髪は美しく、女性にしては目立つ背の高さは凛々しく、鍛えられすぎない筋肉と、今は騎士装により目立たないが、ドレス姿のSラインが尊いキール様は、我が第二騎士団団長であらせられる。
キール様は普段は、この国の商業の要であるキリアンにて護りの要を務められている。
王族だからと、お飾りでその地位に就いていると、赴任された当初は揶揄されていたが、キール様は、実力で口さがない者共を黙らせ心酔させた。
キール様が着任されてすぐ起こった火事で、風に煽られ燃え広がった炎を、ただ一人で氷魔法で押し留められたのだ。
かく言う俺─ケイン・マッケイもその一人だ。
ついでにさっきから、地の文をべらべら喋っていたのも俺だ。
「何か私に言うべきことはあるか?ユールカ」
キール様に名を呼ばれたユル男は、びくりと肩を揺らした。
「え。ええと……あのう」
「ゆるたん?どうしたの?いつものゆるたんらしくないよ?いつもはかっこいいのに」
フワ子がそう声をかければ、
「そうですよ殿下!殿下は王位を継がれるのですからもっといつものように威厳を見せてください!」
「殿下!こんな無礼な輩なぞ手打ちにしましょう!」
「デンカ!殴るいやなら魔法でヤッチマウカ?」
バカアホマヌケまで、ぴーぎゃーと騒ぎやがる。
「ユルーカ、これらの発言は貴様の意志か?」
キール様が冷静に問うと、ユル男は視線を左右に動かしモゴモゴと口ごもる。
そんなユル男の態度が気に入らないのか、フワ子は立ち上がり、不敬にもキール様に指を突きつけた。
「ちょっとおじさん!!ゆるたんは次の王様なんだから!そんな偉そうにしてると、あの意地悪女みたいにねえ」
「ふぅたん!」
焦ったユル男に口を塞がれて、ソファに引き摺りたおされて、ムームーと唸っている。
「殿下!フーちゃんになんてことをなさるんですか!?」
「フワワン!大丈夫かい?!殿下一体どういうおつもりか!?」
「フーぴゃん、痛いないカ?殿下ブットバスカ?」
フワ子が乱暴に扱われたことに、バカアホマヌケはいきり立って、ユル男に詰め寄った。
「なんだその態度は?!お前らの主は誰だ!」
さすがのユル男も、側近三人の態度にはカチンと来たらしく不機嫌も顕に怒鳴り散らし、それを聞いたフワ子は、さっと顔をソファの座面に押し付けるように隠した。
バカアホマヌケも、ここで引いては男が廃る!とばかりに胸を張り、ユル男を睨めつける。
これは。あれか〜。あれだな。うん。
ちょっと露出度の高い女子と同席出来る酒場とかでまあまあ良くあるヤツだ。……すげーなフワ子。
などと俺が変な感心をしていたところ、キール様が呆れたように仰られた。
「なんだ。お前たちは兄弟だったのか」
「……ちょっ!キール様!」
「どうした、ケイン」
「どうしたじゃありませんて!直球すぎますよ!」
俺とキール様の会話に、真っ赤な顔で
「ひどい!なんてこと言うのよ!まだ誰とも最後まではしてないわ!」
フワ子が参加してきた。……こいつ男爵令嬢なのになんで下町スラング知ってんだよ。
「ほう、意味が分かるのか」
面白そうにキール様が問えば
「わかるに決まってんでしょ!アンタいいとこのお坊ちゃんのくせに下品よ!下品!!」
フワ子はキーキーと反論しているが。
「お前の男たちは意味がわかってないぞ?」
「……は?」
楽しそうなキール様の声にフワ子は、バカアホマヌケ+1を振り返る。
「フーぴゃん?今なにいったカ?」
首を傾げてチキことマヌケが聞き。
「フワワン……君……まだって」
拳を握り込みハイナンことアホも聞き。
「フーちゃん……なあ、嘘だろ?」
祈りをこめた視線でユウことバカも聞き。
「ふぅたん、誰とも最後までって」
ユル男兼+1ことユルーカ殿下は、口元を引き攣らせる。
「え、やだ、みんなどうしたの?」
フワ子は慌てて瞬時に、可愛いらしい私の雰囲気を作り、殿下に向かって手を伸ばし言い放った。
「だって私はみんなのフワンなんだから、みんなと仲良くするのは当たり前でしょ?」
何一つ自分は間違ってないと信じてる声音で、可愛らしく小首を傾げて。
「結局どうなったんすか」
キリアンへの帰途、並んで馬を走らせながら、俺はキール様に聞いた。
「ユルーカ有責で婚約解消だな」
「そりゃそうすね」
「あんな噂が広まらなくても、解消は秒読みだったと兄上が嘆いていたよ」
ユル男……じゃなかったユルーカ殿下は、勇み足を踏んだのか、バカだなー。
「バカアホマヌケは」
「は?」
「あ、側近達っす」
「醜聞の中心人物なぞ放逐だろ」
「やっぱな〜」
その上時局も読めないんじゃ、家に置いていたってただの無駄飯喰らいだ。
「あ、フワ子は」
「フワ子は」
今キール様もフワ子っつったな?
「使い道がありそうだからと、義姉上がユルーカと共に私邸に連れてったと」
なにに使う気なんだ……王妃様。
「と言うわけだ、エレノア様!」
馬を止めくるりと背後に振り返りキール様が笑う。
そこにいたのは、長い髪を一つに纏め、乗馬服に身を包み鹿毛の馬に乗ったエレノア・ソールズベリー様。
「私は有能な方が好きでね、ユルーカなどに君は勿体無いと思っていたんだ」
「光栄ですわ」
「キリアンは実力がある者であれば、性別身分関係なく身を立てられる街だ」
その言葉に俺は背を伸ばす。
「君がキリアンを好きになってくれたら、私は嬉しい」
「私もキリアンを好きになりたいと思います」
にこりと微笑みあうお二人、眼福だ。
「あの、キール様」
「なんだい?」
「私、キリアンにはいつごろ、向かってよろしいのでしょうか」
キール様が俺をみる。
「住居の用意ならある程度済んでます」
「だそうだよ」
ほっとしたように、エレノア様は息を吐く。
「では。明日お二人と共にキリアンに向かわせて頂きとうございます」
「……迅速な行動は有難いが、性急ではないか?」
「荷造りとか大丈夫すか?」
俺とキール様の問いに、エレノア様は眉を顰めて
心底嫌そうに言った。
「これ以上ゆるふわに捲き込まれるのはうんざりですもの」
エレノア様の言葉に、俺とキール様は声をあげて笑った。
鶏肉料理が好きなのですよ。




