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隠れ御曹司の恋愛事情(全年齢版)  作者: 秋月朔夕@書籍発売中


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 毎朝設定していたスマホのアラームの音が聞こえる。

 億劫な気持ちでそれを探そうとした。

 いつもだったらもっとシャッキリ起きれるはずなのに、今日は朝から疲れていて、目も開けられない。


 瞑ったままの状態で探そうとしても、当てずっぽうだからか、手にスマホが当たる感触がなかった。



「う、ん」


 仕方なく目を開けようとしたら、そこで音が止まる。

 じゃあ、いっか。あと五分だけ寝よう。

 そしたら、起きる。そう決めて、布団へ潜り込む。

 そこへ、誰かがこっちにやってくる足音が聞こえた。


(あれ、どうして……?)


 一人暮らしをしているわたしの部屋で足音が聞こえるなんておかしい。そろりと目を開けると知らない天井が見えた。


 ーーそこで、ようやくわたしは昨日のことを思い出す。


(わたし、昨日桐山くんに抱かれたんだった!)


 それも自分から誘って……。

 ガバリと勢い良く飛び起きると、桐山くんが驚いた様子でこちらを見ていた。



「あ、起こしてしまいました? まだ六時ですし、もうちょっと眠っていても大丈夫ですよ。朝食の用意はしてきましたけど、フレンチトーストはお好きですか?」

「えっと、うん。好きだけど……」

「良かった」


 満面の笑みを向けられると彼の顔の良さもあいまって、眩しく見える。


(どうしよう。桐山くんにどんな顔したら良いのか分からない)


 今すぐにでもスマホで、『一夜の過ち 次の日』のキーワードで調べたい。

 


(いや、でも昨日のアレ。一夜の過ちって言って良いものなの?)


 自分から誘ったわけだし。桐山くんは何度も可愛いと言って、わたしの名前を『桃子さん』と呼ぶようになったけど。

 ーー昨日のことを桐山くんはどう思っているんだろう?

 チラリと桐山くんを見上げると、彼は困ったように笑った。


「良かったら、ご飯食べませんか?」

「……うん」


 彼に手を引かれて立とうとすれば、腰が痛くて、不自然に動きが止まってしまった。


「大丈夫ですか? すみません。僕が昨日無理をさせ過ぎたから……」



 申し訳なさそうに謝っているけれど、彼は昨日、わたしがどれだけ「もう無理」と言っても、聞かなかった。

 恨みがましい視線を向ければ、もう一度彼が謝った。


「本当にすみません。だって桃子さんが可愛かったから、つい」

「可愛くなんかないよ」

「いえ、桃子さんは可愛いです。今も僕に可愛いって言われて、顔が真っ赤になっていて、食べてしまいたいくらいに可愛い」


 頬を撫でられると、昨夜の余韻からピクリと身体が反応してしまう。



「…………ぁ」

「ああ、本当に食べてしまいたい」

「桐山くんが言うと冗談に聞こえないから止めて」

「冗談ではありませんからね。でもさすがにこれ以上の無理はさせられません」


 額に口付けて、横抱きにされる。

 突然の浮遊感に驚いて、咄嗟に彼の首筋にしがみ付く。


「きゃ……」

「このままリビングまで案内します」


 重いから、と辞退しようとしたのに、彼は「軽いですよ」と言って譲らなかった。



「桃子さんは華奢なんですから、もう少し食べた方が良いくらいですよ」


 真剣に言ってのけるのだから、反応に困る。

 俯けば、自分が着ている服が目に入って慌てた。




「これって……」


 寝起きの動揺から自分が何を着ているのかまで頭に入らなかったけれど、わたしが身に纏っているのはワイシャツ一枚だけだ。


 それも大きさからいって彼のもの。

 下着も身に付けないでワイシャツだけの状態で横抱きにされていると、太ももの辺りの裾が捲れ上がってくる。

 肌が露出しないように必死に裾を抑えると、彼がまた「可愛い」と口にした。



「桐山くん」

「すみません。桃子さんの服はまだ洗濯中でして……乾燥もしているので、あと一時間くらい掛かりそうです」


 一時間なら会社に行く時間までには間に合うだろう。


(だけど同じ服で行くのは……)


 いらない憶測をよばないか心配になる。



「もし桃子さんが良ければ、妹の服もありますけど……」

「あ。じゃあそれを借りても良い?」

「はい。もちろん」


 その話をしているうちにリビングへと辿り着く。

 アイランドキッチンの向かいには二人分の席があり、そこにサラダやオレンジジュースが用意されていた。

 壊れ物を扱うように降ろされると、彼は「朝食の準備をするから、もう少し待ってください」と言って、キッチンに向かおうとした。


「準備ならわたしも手伝うよ」

 そう提案して立ちあがろうとしたら、彼に肩を押さえられて止められる。



「駄目です。桃子さんはゆっくりしてください。じゃないと僕が落ち着きません」

「でも……」

「少しでも桃子さんの好感度を上げておきたい下心ですよ」

「それを言うと駄目なんじゃ……」


 彼の冗談にクスクスと笑うと、桐山くんがふっと目を細める。



「やっぱり笑った桃子さんの顔が一番好きです」

 そう言って、触れるだけのキスをした。

「桐山くん!」

「桃子さんが可愛いから悪いんです」



 極上の笑みを向けて戸惑うわたしに、彼はそのままキッチンへと向かっていった。

 取り残されたわたしの顔はきっと赤い。


(なんであんな恥ずかしいことばっかり言えるの?)



 それとも自分が知らないだけで世の男性達はあのようなことを好きな人の前で言っているのだろうか。


(分からない。だってそんな経験ないんだもの)


 諒一のことはノーカンだ。

 だって諒一はきっとわたしのことが好きじゃなかった。

 でなければ、あんなことしないはずだ。



(もう二度と会いたくない)



 朝から嫌なヤツを思い出した。

 その記憶を振り払うように部屋を見渡す。





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