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隠れ御曹司の恋愛事情(全年齢版)  作者: 秋月朔夕@書籍発売中


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13/25

13(side:桐山)


 結局僕は系列会社の営業として、出向することになった。


 表向きの名前は『花形』から『桐山』に変えてある。けれど『桐山』は母の旧姓だし、ちょくちょく本社の役職がわざわざ系列の子会社に電話を掛けるのは僕の出生をアピールしているに過ぎない。


 それで、子会社の誰が僕に擦り寄ってくるのか兄は確認したいのだろう。




(面倒な仕事だとは思うけれど、仕方ないか)



 そう思って、引き受けた。出向してから二週間。当たり障りなくやっているつもりだ。営業部長からはそろそろ僕を補佐する人物を選定すると言っていた。


(誰になるんだろう? まぁ、ある程度仕事が出来る人なら誰でも良いんだけど……)


 そう思って待っていたのに、なかなか決まらない。

 聞いたところによると、女子社員達が誰が僕の営業補佐になるかを巡って争っているらしい。


(くっだらない!)


 そんなことをしている暇があるなら仕事をしろ!

 給料に見合った働きをしておけ。

 第一、そんな相手が僕の補佐になったところで、きちんと仕事を片付けてくれるのだろうか?

 疑念でいっぱいになる。



(部長は俺に任せておけ、って言っていたけれど……)


 不安だ。だが、下手に女性社員のことで僕が動けば、余計に迷惑をかけてしまうのかもしれないという懸念があった。

 自分が動いてしまった方が早いと分かっているものの、今の立場上。動くことはできない。

 内心、重たい溜息を吐き出して、席から立ち上がる。

 気晴らしにコーヒーでも飲もうかと廊下を歩いていると、会議室の前で、女子社員二人が真剣な顔で立ち止まっていた。



「お疲れ様です。どうしたんですか?」


 背後から声を掛けると、あからさまにその女性社員達がビクリと肩を跳ね上げさせる。


「きゃっ!」

「ビックリした」


 二人が目を丸くして、僕の方へ振り返る。そして僕を認識すると猫撫で声で話し掛けてきた。


「今、会議室に営業部長が花咲さんを呼び出したから、なんとなく気になっちゃって」



 そう言い訳する女性社員はサボっていたことが露呈した後ろめたさからか、言葉を濁す。


「花咲さん、ですか?」


 花咲さんといえば、クールな印象を受けるものの、誰にでも礼儀正しくて、人事部からも高い評価をくだされた女性だ。そんな人がなぜ営業部長に呼び出されているのか。


「うん。この時期に呼び出しなんてねぇ」

「ねぇ……」


 女性社員達がチラリと僕を見て、意味深に二人が頷き合う。おそらく花咲さんは僕の補佐にならないか、と営業部長に声掛けられているのだろう。


 内心、彼女らが補佐役に選定されなくて良かったと安堵する。それをおくびに出さないようにして「そういえば、営業課長がお二人を呼んでいましたよ」と言えば、彼女らは腕時計を見て「ヤバい」と顔を引き攣らせて、去っていった。

 どうやら相当長い時間ここに居たようだ。



(仕事をサボるような人に僕の業務を手伝わせたくない)



 そう思って、会議室を覗く。

 営業部長と花咲さんは話に熱が入っているのか、扉が開いたことにも気付いていない。自分の話ではなかったらすぐに立ち去ろう。





(そういえば、花咲さんってどんな人なんだろう?)


 彼女の人となりは書類で見たに過ぎない。

 営業で入ったから、外回りが多くて、まだ全員とは話せていなかった。


 だから、彼女が僕の営業補佐になるようにと打診された先の反応が気になった。

 こっそり覗いてみると、花咲さんは姿勢良く立って、営業部長と対峙していた。そして、僕の補佐になるのを喜んでいる様子はない。



 それどころか、どう断ろうか苦心しているようにも見える。

 その態度に、僕は彼女にこそ補佐になって欲しいと願った。

 だから、話に割り込むことにした。

 突然現れた僕に営業部長は目を丸くして、花咲さんはこっそりと顔を顰めていた。

 両極端な反応に笑ってしまいそうになる。

 そして、話し合いの末。花咲さんが僕の補佐になることが決まった。




***



 花咲さんが補佐になって二ヶ月。予想以上に花咲は優秀だった。

 書類の作成を頼めば早くて丁寧だし、客先への電話を任せても、安心していられる。



(やっぱり花咲さんが補佐で良かった)


 こまめな気遣いをしてくれる花咲さんに感謝して、こっそりとお菓子を渡す。営業先で貰ったんです、という建前で彼女にあげれば、ほんの一瞬。彼女の目が輝いたような気がした。


 けれど、すぐに元の表情に戻った彼女はいつも通り淡々とした態度で頭を下げる。




 そしてその数日後。僕は見たのだ。

 昼休みにの時間を使って、営業から会社に戻る道中。

 会社近くの公園で、花咲さんを見かけた。せっかくだから、声を掛けるか。そう思って近付けば、彼女はココア缶を開けて、こくりと嚥下させる。嬉しそうに頬を緩めた彼女の表情に胸がドキリと高鳴る。  



(普段冷静な彼女の様子を見ていたからこそのギャップ……!)



 思えば、あの時に僕は花咲さんに恋をしたのだ。




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