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隠れ御曹司の恋愛事情(全年齢版)  作者: 秋月朔夕@書籍発売中


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 思わず見上げれば熱の籠った瞳とかち合い、ぶわりと顔が赤くなった。



 ーーどうしてわたしなんだろう。


 それは純粋な疑問だった。

 確かに仕事ではパートナー役を務めているけれど、そもそも仕事以外でほとんど話したことはないし、年上の可愛げのない干からびた女よりももっと砂糖菓子みたいにふわふわとした女の子達に囲まれてきたはずなのに。好かれる理由が分からない。


 緊張のせいでカラカラと喉が渇いて何も言えないまま見つめれば、彼の手がゆっくりと頬に近付く。



「すみません。本当は今日こんなこと貴女に言うつもりはなかったのに、どうも僕は貴女に対しては余裕がない」


 柔らかく頬を撫でられるとビクリと身体が竦む。それを拒絶だと捉えたようであっさりと手は離されるが、触れられた箇所はいつまでも熱を帯びているような感覚に陥って、ひどく落ち着かない。



「きりやまくん」


 やっと口に出せたのは彼の名前だけ。それも掠れて蚊の鳴いたような小さい声。動揺したまま彼を見れば、桐山くんは嬉しそうに頬を緩ませた。


「僕は貴女が好きです。ずっとずっと貴女が好きでした。だから僕を選んでくれませんか?」



 こんな風に熱烈に求められることなんて今までの人生で一度もなかった。

 彼に見つめられると心臓がドクドクと動いてせわしない。ついさっきまで感じていた疑問も何もかも思考から飛びぬけていきそうな感覚。瞬きもしないで呆然と立ち尽くすわたしに彼は困ったように笑った。


「……花咲さんを困らせてしまいましたね」

「桐山くん、わたしは……」


 纏まっていない頭の中で言葉なんか紡ぐことなんか出来ない。結局なにも言えずに途中で止めてしまい、結果的に一番最悪な沈黙を選んでしまった。


「どうやら僕はいつも貴女を困らせてしまう――分かりました。時間もないことですし、今日のところは引いておきます。答えを今、求めるつもりもありません。だけど、僕が貴女のことを愛していることくらいは覚えていてください」



 するりと去っていく彼を見送って、九条さんが待っているというのに呆然とベンチに座り込んだ。

 未だ心臓の鼓動が落ち着く気配はない。それどころか桐山くんの顔を思い出すだけで、余計に早鳴っていく。


(どうしよう。戻らないといけないのに)


 仕事の話だからと九条さんに席を外してもらっているから、なるべく早めに戻らないといけない。

 けれど鏡を見ていなくても頬に熱が集中しているのが分かるーーこんな顔では戻れそうになかった。



(お見合いの途中でなにをやっているの!)

 本当になにをやっているのだろうか。自分自身に呆れながらノロノロと九条さんが待っているロビーに向かう。

 結局、九条さんと合流した後も、内心わたしの頭は桐山くんのことばかり考えていたのだった。




***




 別れ際、九条さんは「やっぱりこの話はなかったことにしましょう」と言った。


「貴女に惹かれていたのは事実ですが、けれど見合いの最後。貴方ちっとも僕のこと考えていませんでしたよね?」

「すみません」

「考えていたのは、見合いに入ってきたあの人のことですか?」

「えっと……そうです」



 なんて失礼なことをしてしまったのだろう。自分のために時間を費やして来てくれた彼に心から申し訳なく思う。

 だから、彼の質問に嘘はつけなかった。どもりながら、頷く。


「残念です」


 寂しそうに彼が笑う。

 もう一度謝れば、九条さんはそれを制した。


「今回は縁がなかった。それだけのことです」


 大人の対応に尚更恐縮すれば、彼は一つだけ頼みがあると告げた。


「貴女からこの見合いの結果を伝えておいてくれませんか?」


 僕から断ったことにすれば、母の追求で半日が潰れそうですからね、と彼が苦笑した。



「これは僕のわがままです。貴女はそれを叶えてくれた。だからどうか僕のことは気にしないでください」



 スマートな彼の対応にわたしは感謝と申し訳なさでいっぱいになる。





 でも、その夜。ベッドに入って考えたのはやっぱり、桐山くんのことだった。




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