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隠れ御曹司の恋愛事情(全年齢版)  作者: 秋月朔夕@書籍発売中


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 社会人になってから学生の頃より月曜の朝が憂鬱になった。



(……あ~。仕事に行きたくない)


 既に会社に向かう電車に乗り込んだというのに往生際が悪い自分に嫌気が差す。

 高校を卒業してから十年。土日祝休みの営業事務の仕事はつつがなく業務をこなせていると思う。


 慣れた仕事に、文句のない福利厚生に、ほとんど残業がない労働時間。

 条件的に見ればホワイトな優良企業だし、別に仕事内容に不満があるわけでもない――だけど、最近はある人物と関わることで女子社員達との人間関係に溝が出てきていることを肌身で実感しているから、どうしても仕事に向かう道中が憂鬱な気分になる。




(わたしが立候補したわけじゃないのに)


 頭に思い浮かんだのは元凶となってしまった人物のこと。

 別にその人物が悪いということではない。むしろ彼はあらゆる条件が『良すぎた』のだ。




***


 わたしよりも二つ年下の二十六歳の営業職の桐山くんは、本社からの辞令により出向してきている。

 彼がこっちで働くようになって一年。本社の経営戦略室で培ったマーケティングのノウハウを生かして、あっという間に我が営業部のエースとして活躍するようになった。


 その上、王子様のようなキラキラとした爽やかな風貌でありながら、誰にでも優しくて人当たりも良かった。

 恐らく今の社内人気トップは彼が総取り状態となっているだろう。



 そんな彼と何故営業補佐としてパートナーを組むことになったのは、ある不名誉な理由からだ。

 内心嫌だと思っていたけれど営業部長に泣きつかれ、仕方なく本当に仕方なく承諾したけれど、今思えばあの時断っておくべきだった。



(補佐はしているけど、そこまでの接点はないはずなのに……)


 彼は営業職としてやり手な分、多忙でそこまで会社に帰ってこない。そのため、わたしへの仕事の指示は基本的にはメールか電話が多かった。

 先週なんかは京都の支店に一週間出張に行っていたし、顔すら見ていない。


 ほとんど社内に居ない彼となんとか接点を持ちたいと思っている若い女子社員に橋渡しを頼まれたこともある。けれど、一度引き受ければ他の女子社員からも頼まれてしまうことは明白だ。やんわりと断ったつもりだけど、そのせいですっかり若手に嫌われてしまった。


 ーーお陰で最近の心労は半端なものではない。


 せめてちょっとした愚痴を言い合える同期が居ればまだ気持ちが楽なんだろうけれど、あいにくと寿退社や育休で、中々吐き出す場所がなかった。

 ネガティブなことばかり考えてもしょうがないということは分かっている。けれど今日は先週は京都に出張していた彼が戻ってくることで、女子社員の反動が酷そうだと思うと、どうしても憂鬱な気分になる。



 会社に向かう満員電車の中で重い溜息を吐き出したくなりながらもグッと堪えた。

 ただでさえ混雑している状況で皆苛立っているのに、うっかりそんなものを洩らしては、電車内の人達にも負の気分が連鎖してしまう。



(家に帰ったら、買っておいた高いアイス食べて、猫の動画見てやるんだ)


 せめて少しでも楽しいことを思い浮かべようと姿勢を正そうとした途端、背後から声を掛けられた。



「……花咲さん」


 ふと聞こえたのはテノールの心地よい声。

 電車が混んでいるせいで振り向くことが出来ないけれど、きっと今まで考え込んだ人物だろう。

 あまりのタイミングに心臓がドキリとする。声に動揺を表さなかったのは社会人として培ったスキルからか。



「桐山くん」

「おはようございます。一週間も会っていないとなんだか久しぶりな気がしますね」



 会っていないといっても、毎日見積や発注などの指示で、電話やメールで連絡を取り合っていたから、わたしとしてはそこまで久しぶりだとは思わない。


 きっと桐山くんにとってもただの社交辞令だろうだから、大人しく同意をして、桐山くんから振られる話に受け答える。



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