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第07話 天才とバカは紙一重

 さて、と。まずは様子見で。

 挨拶がてらに打ち込む剣戟の声は空気を破裂させ、木々と観衆をざわつかせる。


「へぇ」シータは笑みをたたえたまま、少しの驚きを見せ、

「へぇ」一方の俺も口元を緩ませたまま、感嘆の声を上げた。


 ディアマンテのみならず、実技試験を見守る全員がこの戦いに固唾を呑む。


 しかし、そんな熱戦の赤を連想させるこの模擬戦は、

 次の問いかけをもって、桃色に姿を変えていく。


「ねえ、もう一度聞くわよ。あなた何者?」


 一合を交え、この身に宿す力を感じたのか、

 シータは鍔迫り合いのなか問いかける。


「お前の“はじめて”になる者だよ」


 伝説の勇者の血を引くエリート様は、生まれてこの方負けたことなんてないんだろ?

 だったらもらってやるよ、お前の敗北(はじめて)をな!


 そんな俺の思いは、


「は、ははははじめてって!? べ、べべべつに私は、その……あ、あああれだし」

 ……伝わらなかった。


 シータを羨望の眼差しで見つめる瞳が、一斉にパチクリ瞬き、


「ち、ちげーよ! はじめてってそのはじめてじゃなくて、いや、もうなんかごめん!」

「ななな、なんで謝るのかなー!? なんで謝っちゃうかなー?」

 九十七名の失望へと変わった。


 先ほどまで目をキラキラ輝かせて見守っていた勇者の卵が、賞味期限の切れた卵のように腐りきった目で見つめている。


 うん。ごめんなさい。

 いや、俺だってあれだけ長々とカッコつけた手前、壮絶な戦いを見せようと思ってたんだよ? 死合いが始まった――とか言っちゃってるし。いやほんと。


 それでもどうにか軌道修正を図ろうと、鍔迫り合いを繰り広げてみるが、気付くと吐息を感じるほどに接近していた顔はまるで完熟したトマトのようで、つまりは食べ頃であり。


「え、なにお前。キスするの?」

 このコントのオチをつけるように、更に恥の上塗りをするのであった。


「う、うわあああああああああああ」

 シータは周章狼狽、飛び離れ、鼻息荒く虚勢を張る。


「や、やってくれるじゃない。だったらこっちもヤって、あっ!? ちが! 違うよ? ヤるってそういう意味じゃなくてね? え、ちょ、ヤダ。そういうのじゃないんだからね?」


 先ほどまでの昂然たる口ぶりと打って変わり、そこにいるのは内股で顔を赤らめた純情可憐な少女。

 うん。こいつはもうアレだ。ただの乙女だ。


 ねえ、ディアマンテ先生。見守るみんなも綺麗にズッコケてますし、これ一本って扱いになりませんかね?


 レフリーストップを懇願するように、じっとディアマンテを見つめるが腕は上がることなく、代わりに両手を上げたのは、息を粗くしたシータ。


 その手を徐々に下げながら大きく深呼吸。

 落ち着きを取り戻したのか、高飛車な態度が復活する。


「すぅ~はああああぁ~。ふぅ~危ないところだったわ。精神魔法を唱えてくるなんて、卑怯な手を使うわね。まったく男らしくない!」


 何言ってんだろこの乙女。


「確かにあなたの気持ちはわかるわよ。私があまりにも魅力的でそのようにハレンチな精神魔法を唱えたってことはよくわかる。痛いほどわかる。わかるけども!」


 痛いなこのハレンチ。


「でもダメ。私より弱い男に興味はない!」

「あっそ。んじゃお前は俺に興味を持つことになるよ!」


 よし、決まったこれ。と衆人環視のなかドヤ顔をするも、精一杯カッコつけた俺の言葉は、いきなり始まった中二病全開の詠唱によって虚しく掻き消えた。



「開け――。我が呼びかけに煉獄より最後の蓋は開かれた。終わりと始まりを告げる浄化の炎となりて我は命じる――」

「切り刻め――。烈風荒ぶ万理一空を流浪する風の乙女よ。異なる実りに触れる風をこの手に。赤き果実を地に落とす罪深き我なれど、我が前に集いて科戸の風と成せ――」


 並列詠唱!? 声が二重に聞こえる。

 って、な、なんだそれっ!


 別属性の魔法を同時に詠唱するシータ。


 おいおいおい、これって……。


 ――爆ぜろ。その号令と共に、


「インフェル・ノヴァッ!!」


 刹那、シータを中心に紅蓮の炎が爆発四散する。


「――!? や、やばっ! 絶対(アブソリュート)領域(・サイス)


 一瞬にして襲いかかる業火を領域展開によって受け流す。

 交わることのない、繋がることのない()()()()()()()()()()

 つまり、軸が違う。世界が違う。不可侵領域。

 まるで、引きこもりの俺が部屋に閉じこもるかのように、


 ……ふれ合うことがない、”拒絶”の魔法。


 もっと早い話が――”魔王の力を使ったチート行為”


 モクモク黒煙が舞い、チリチリと大地を焦がしながら。


「…………もう一度聞くわ。あなた何者?」

 畏怖が入り交じった視線で俺を見つめ、声と唇を震わせ、されど強がるシータ。


 と、そこへ、


「そ、そこまで! この大バカ者がっ!」


 ディアマンテの叱責によって、俺はこの模擬戦が没収試合になったことを痛感する。


 シータの唱えた炎と風を組み合わせた合成魔法は……、

 半径百メートル全てを吹き飛ばしていた。


 ――俺とディアマンテを除いて。


「なあ、どうすんの? 見ろよこれ。えっおい! どうしてくれてんだよ!」

「だ、だってあんたが私を煽るから……、えーっと、ご、ごめん……なさい」


 素直に謝罪の言葉を口にするシータ。

 だが、こいつが頭を垂れた相手は俺ではなく、その先……。


 シータの唱えた魔法によって吹き飛んでいた受験者たちに向けてのものだった。


 ったく、バカかこいつは!


 試験結果どうなるんだよこれ……。


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