表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

普通自動車免許取得の路上検定中に世界が終わりました。

作者: 設楽七央-したらなお-

教習中に爆心地へ突っ込んだ――脳に魔法陣、洗車2回で世界を救う!?



普通自動車免許を取るだけのはずだった。

山奥の教習所で、爆発、毒物、爆心地。逃げ出した先で出会ったのは、天使と悪魔と魔法陣。

「小説家」というリモートワーカーの私は、なぜか脳に魔法を突っ込まれ、洗車2回で世界から追跡をかわし、最後は世界を守るスキルまで手に入れていた――。

急坂の下り坂、赤信号の先に広がるのは、非日常のはじまり。

混乱の中で、小説家はなぜか最強になった!?

ハイテンション逃避行ファンタジー。

 『小説家』というリモートワークの私32歳。山の中に引っ越したいという両親の希望を聞いてド田舎に転居。

 『人を殺せる物体を動かす免許』なんて取りたくないと言っていたのに、父のたっての希望で、合宿できる教習所で普通自動車免許をとることになりました。

 田舎に住むと、車が必要なのですよ。

 第二段階の路上検定。山間の町なので急坂ばかり。

 勾配のきつい住宅街の、下り坂の先にある信号が赤だったのでそろそろ青になるんじゃないかと、停止するの面倒なので徐行しながらルームミラーを見たら、黄色地に黒文字で『危』の看板を前につけている大型タンクローリーが後ろに!

 なぜこんな、県道からもはずれた道にこんなでかい車が?

 そう思った瞬間、そのトラックの周りを飛び回る白や黒の影が見えた。

 何かが光って飛んできて、脳が熱くなった……感じ……に、アクセルを踏んだ。

「赤信号ですよ!」と教官が隣で叫んだが、横断歩道を超える寸前に青になったので、教官はブレーキを踏まなかった。そこを、40キロで左折! 40キロ道路を70キロでアクセルを踏み込む。

「速度オーバー過ぎです!」

「後ろでトラックが事故ります! 私の勘は当たるんですよ! あそこに居たら死にます!」

 教官が後ろをふり返ったのと同時に衝撃!

 教習車が跳ね上がった感じ。頭が天井にぶつかる寸前だった。

「事故があったなら人命救助を!」

 教官がブレーキを踏む前に、大通りの交差点に減速して突入! 右折! 教習所の方面に向けて車の流れに乗った。ここまで来たら、教官は急ブレーキを踏まない。

「危険物を載せたタンカーでした。防火服も防毒マスクも持ってない私達が駆けつけても二次被害に遭うだけです。教官は早く警察に電話してくださ……」

 また、衝撃が来た! やっぱり爆発したんだ。救助に駆けつけてたら絶対死んでた!

 教官が警察に電話しているのをいいことに、教習所へ右折で入る交差点を左折した。

「どこに行くんですか!」

「あれが毒を積んでたら、教習所も避難区域に入るかもしれないでしょ! 毒があるところに避難するより、最初から毒がないところに行ったほうがイイです! とにかく事故現場から距離を稼がなきゃ! 速く! 一刻でも速く速く速く! あれは近づいちゃいけないものです!」

 あの、ナニカ飛んできた時、魔法陣みたいなものが見えた気がした。

 あれはヤバい。

 ガスとかじゃないヤバさだ!

 一応、安全運転は、する。そんな高速で走るハンドル技術を私が持ってないからね!

 高速教習の時にこの道を通ったんだ。

 この先はほとんどが無限S字カーブで、あちこちにお地蔵さんがある事故多発地帯! 怖いよ怖いよ、山のカーブ怖いよ! でも走るよ! 一刻も速く、「あそこ」から遠ざかるために! ずっと後ろに車がいるし、細い道だから、教官がブレーキを踏む余裕がないのが逆に助かった。

 ああ待って! ……後続車のかたがた! 制限速度を守ってる私をどんどん追い抜かしていかないで! 後ろがいなくなったら、教官がブレーキ踏んじゃう!

 山道の蛇行の分、山が毒の拡散とかは防いでくれるとは思うけど。まだ、ここは平地なんだよ。風が吹いたら一気に汚染されるんじゃない?

 あれがなんの危険物かはわからないけど、そんなことより、あの、トラックのまわりを飛び交っていた白と黒の影!

 人間に見えたんだ。

 背中に翼を生やした人間に見えたんだよ!

 たとえるなら、天使と悪魔みたいに、見えたんだ。

 あんなのが危険物トラックのまわりにいて、無事な筈が無い!

 私の目の錯覚ならそれはそれでいいよ。でも、『危険物トラックが住宅街で爆発した』のはもう事実なんだ………………あのトラックではなく、近所でガス爆発が発生した可能性もあるか…………………………その時はその時だ! とにかくまず逃げる!

 緩やかな上り坂に入ってしばらくS字カーブを走った後、脇道に曲がって停まった。

 もう10分ぐらい経ってるから、スマホでもニュースに出てる。教官が必死で確認してる「……教習所のあたりも、避難区域に入ったようで……」と呟いた瞬間、また、衝撃! 教官の向こう! 空を光が走った。

 窓をしめているのにゴウッ……と、山の悲鳴でガラスが揺れ、耳が一瞬聞こえなくなる。

「……まさか…………」

 教官が街の方の空を見上げてポカンとしてたので、私は、さっきの道路に出て、もっと遠くへと走った。もう、ここら辺は殆ど車がいないし、人が横切ることもないのでカーブにだけ気をつければいい。上り坂のつづら折りカーブ!! 怖い! 14キロしか出せない! 教官に代わってほしいけど、車出たくない!

 必死の思いで山の頂上辺りまで登った。

 木陰から町をふり返ったら、まだ、きのこ雲が白々と空へ吹き上がってる。


 キノコ雲!

 さっきも教官の向こうに見えてたんだよ!

 教官も見たんだよ!

 だから、教習所から遠ざかる私を止めなかった!

 

 あのトラックが載せていたのは爆弾だったんだ! それか、ソレに準ずるぐらいヤバいものだったんだ!

 

 あり得ない! とか、なんで? とか、どうでもいい!

 あのきのこ雲がそれを証明してる。

 もしかしたら核爆弾かもしれない。

 あの煙の大きさからすると、教習所付近も吹っ飛んだかもしれないんだ。自分の勘にマジ感謝したわ。空気読めないって嫌がられること多いけど、あの時空気読んでたら死んでたよね。

「もう一つ山を超えて、向こう側の平地に行きますね」

 山さえ超えれば、風向きがこっちを向いたとしても放射能は飛んで来にくいだろう。

 教官がさっきから電話をかけてるけど、つながらないみたい。たしか、教官は教習所の数キロ以内の町に住んでると、以前聞いた気がする。

「……爆心地から10キロが吹っ飛んだって…………」

 教習所はがっちり入ってるな。あそこで戻らなくて正解だ。

「私の勘、あたったでしょ?」

 教官が、私を見ずに、ぶるっと震え上がり、青ざめてうなだれ、頭を掻きむしって……ようやく私を見た。

「教官は今日、帰宅できますか?」

「……家は…………吹っ飛んだみたいだ……」

「今から私、このまま私の実家に帰ろうと思うんですが、いらっしゃいます? それとも、私をこの車から追い出して、教官がどこかにいらっしゃいますか? この車は教習所のですから。教習所の方へ帰っても、避難地域ですからどうにもならないと思いますけど。教官がおっしゃる通りにしますよ」

 実家に向かって40キロ爆走しながらうそぶく。

 早く落ち着いて、教官に運転を代わってもらってこの県をすぐに脱出したい!

 

 家と勤め先が吹っ飛んで避難指示が出てるのに、帰っても仕方ない。教習で路上に出てただけだから、財産というより財布すら教官は持ってないだろう。私は、重要なモノも財布も全部鞄に入れて教習車に乗っているので、とりあえずお金はある。だって、合宿所に大事なものを残すなって注意書きがあったもの。

 私はお金を持ってますよ、と暗にしめすために、コンビニに入る。車入れ斜めというか、ほぼ垂直に横切ったけど、気にしない! 中で私が会計を払った。

 やっぱり、『財布すら持っていない』ことに教官は今気付いたみたい。

 しかも、雨が降ってきた。

「放射能雨かもしれませんから、早く車に入りましょう!」

 私が運転席に乗ってまた実家の方へと走る。

 雨は強くなってきた。『野宿』という選択肢もなくなったことになる。車があるから、車で寝るか。

「……………お世話になっていいの?」

「部屋は余ってますから大丈夫でしょう」

「……好意に甘えてお世話になります」

「じゃあ、運転を代わるか、今すぐ眠るか、して貰えますか? 遠いので交代して走りましょう。高速道路が止まる前に、帰ってしまいたいです。眠り薬ならあります」

 合宿所で眠れなかったので、近所の内科で処方してもらってたんだ。

「はい、お水と、眠り薬です。今すぐ寝てください。高速道路を教官が走ってくれた方が速いです。私は目が悪いので、夜道は走りたくないですから。はい、これかぶって寝てください」

 『災害用のカシャカシャいう銀色のシート』をパッケージのまま渡した。鞄に入れてたんだ。

 家族が死んだ、家も勤め先もなくなった。今、教官は正常ではないから運転を任せると危ない。導眠剤だからそんな長くは寝ないだろう。

「そうだね……」

 教官が、薬を飲んで腕を組んで目をつむった。

 雨の田舎道を徐行すれすれでとくとく走る。

 爆心地の辺りも雨で冷えていればいいな、と願った。




 雨が上がった辺りでもう一度コンビニに入った。まだ15時なので明るい。これ以降は、私の視力的に物体の認識が甘くなるので運転したくないんだよね。校内教習でも、夕方に運転したときに、赤い車は見えなかったし、青い車すら、存在に気付かなかった。私は超朝型なので、ただでさえ運動音痴なのに、午後はさらにダメダメなんだ。

 さっきコンビニに入ったときに、両親にメッセを入れようとしたら心配連打が入っていた。

『五体満足で生きてるよ。教官をつれてそっちに向かってる。お客さん用の布団とか用意しておいてくれる? 買い物があったらメモ頂戴』

 テロリストの犯行声明が出たって。

 都心で爆発させるつもりだったけど、つかまりそうになったら爆発させろ、って命令してたってさ。

 日本国内に核爆弾密輸されたとか、政府の威信ゼロかい。

「……つかまりそうになったら爆発させろ?」

 あの時、あのトラックの周りにいる『車両』は私だけだった。

 警察なんてまわりにいなかったよ。

 あの『白黒の飛び交ってたの』が『つかまりそう』だったってことだろうか?

 誰に?

 そもそも、テロリストは『人間』なの?

「まぁ……私が考えても仕方ないか」

 まだ高速に乗ってないから家の買い物はしないけど、私は一日に二リットルの水を飲むので、飲料水がとにかくほしい。とくに緊張すると喉がかわく。

 

 またコンビニに入った。車庫入れもうやる気なくて、空っぽの駐車場のど真ん中の入口近くに止めた。

 店員が、控室のテレビに釘付けになっているのか出てこない。トイレにいって、洋式便座が温かくて落ち着く。ほう……。

 500ミリの水10本と、カイロとガム、野菜ジュース。教官用のブラックコーヒー三本とブラックガム。

 ご飯はどうしようかな……私、糖質制限の上にグルテンフリーなんだよな……できたらコンビニフードなんて食べたくないんだけど……サラダチキン5個とドライフルーツとか……あ、田舎だから野菜も置いてた! キュウリ5本! 調味料に塩昆布。教官は、おにぎりとパンとサラダと……甘党かからとうか知らないから、苺大福とフルーツサンドとポテチとせんべえ、両方買おう。あと、日持ちしそうなものも買っていこう。クレカがいつまで使えるかわからないし。今でも、実家では月に一度ぐらいしか山を下りないから。自給自足できてるし、あんまりいらないけど。糖質制限とか言わずに米を買って行った方がいいかな。さすがに山の上で米は作ってないからなぁ。

 レジにあったから揚げ系も一種類ずつ大袋で買った。温かいウチに教官が起きてくれると、さらに落ち着けていいと思う。

「レジお願いしまーす!」

「ハイハイハイハイハイ!」

 若い男のコがスマホを手に持ったまま駆け出してきた。

「テロリストとか爆心地、どうなってます?」

「テロリストは続報ナシ、爆心地は30キロが避難区域で、50キロに広がりそう。風向きに寄っては80キロ先も避難区域になるかも」

 すでにツイートしたような、要約バッチリの答えw

「80キロなら、ここらへんも入ります?」

「ここらへんは入ってないかな。山があるしね。120キロになったらヤバイ」

 じゃあ、放射能とかはココから先、あまり考えなくていいのね。それは一安心。

 車に戻ったら、教官が起きてた。

「すいません、レジにまだ荷物を置いているので持ってきてもらえませんか? あと、教官が欲しいモノ、買ってください」

 教官が買ったのは缶コーヒー一つだった。よかった、喫煙者じゃなくて!

「欲しいモノ、買ってくださいよ」

「いや、悪いよ」

「あの爆発、テロリストですって。だから、このクレカもいつまで使えるかわからないんです。銀行凍結とか、クレカ使用不能とかになったら意味無いので、限度枠一杯まで買っちゃってください。私も現金は持ってませんから」

「テロリスト!!」

「驚くのは助手席に座ってからでいいです。今は、買い物の選択をしてください。好きなお酒とかあったら、買ってくださいね。山の上にはお酒はまったく無いですよ」

 梅酒は母が作ってるから、10リットルぐらいはあるけど。蜂蜜もあるから、養蜂もしてるから蜂蜜酒とかもすぐ作れるけど。

 教官への買い物と、私用の水とか食べものを助手席の足元に置いて私が運転する。後部座席は買い物でいっぱい! 砂糖とか塩とか缶詰を店にあったものを半分ぐらい買って行った。すっごい、車の後ろが沈んでる!

「そろそろ交代してもらいたいので、ご飯、食べちゃってください。高速では食べられないですから。デザートも買ってるので、好きなの食べてくださいね。生鮮食品なので、悪くなる前に食べてください」

 コーヒーしか買おうとしなかったんだから食欲なんて無いだろうけど、食べて貰います。

 満腹になれば少しは安心するハズ。

「それと、このサラダチキン、教官の太股の下にいれておいてもらえます?」

「なぜ?」

「あたためてください。私、冷たいものを食べるとおなか壊すので。このペットボトルもまたの間で温めてください」

「気持ち悪くない?」

「冷たいものが食べられないんですよ。胃腸が悪いから。冷たいものを食べると胃がストップして、胃酸が出なくなるんです」

「そうじゃなくて、僕の股間で温めたものを君が飲むことが気持ち悪くない?」

「そう思ってたらお願いしませんよ。今下痢になったり、嘔吐したりしたら特に大変なんですから、しっかり温めてくださいね」

「君が助手席にきたときにあたためたら?」

「私の体から体温がなくなるのと一緒なので、それもおなかを壊すんですよ」

「…………大変だね。教習所ではどうしてたの?」

「自販機にホットが一切なかったので、何も食べられないし飲めないしでした。まぁ、食事は一日一回なので、夜に温かいものを食べれば良いので、支障はなかったですよ」

「えっ? 何も食べずに教習受けてたの?」

「仕方ないでしょう。胃が受け付けないんですから」

「アレルギーがあるから手袋してるとか言ってたよね? アルコールもだめだから、自分で消毒液買って、申請してたよね?」

「花粉症がないだけマシですけど、微妙なアレルギーはたくさんありますよ。金属アレルギーだから、金かプラチナしかつけられないとか、化繊の裏地で腕が腫れ上がるとか、特定のドングリの木に近寄ったらくちびるが腫れ上がるとか…………油に寄っては胃があれて口内炎が出るので、ファーストフードはほぼ食べないですし……よく浮腫むと思ってグルテンフリーにしたら治ったから、グルテンに悪さされてたわけですし…………」

「口内炎ってよく出てもみんな気にしないよね」

「口内炎が出る時点で胃が荒れてるんですよね? なんでそれがわかってて、口内炎が出る食べものを食べなきゃいけないんですか? 内臓が荒れるって、一番しちゃいけないことですよ」

「……そうだね…………」

「教官は健康そうだから、そういうの気にしたことないですよね」

「うん……何を食べても下痢なんてしたことないし、口内炎も出たことない」

「その時点で『自分の健康』を感謝するべきですよ。羨ましい!」

「自分の健康を感謝……? 僕が羨ましい?」

「私は何一つ、持ってないものを持ってるんでしょ? 本当に羨ましいですよ」

 身内が死んだとか、今ぐらい忘れてしまえばいい。

「君、変なことを言うって、有名だったけど、……そういう考え方なんだね」

「私、ヘンだ、ってことで有名だったんですか? 教官の間で????」

 教官が、咄嗟に口を抑えたけど、私が横目でちらちらとにらみつけてたら、へにゃっと笑った。

 笑ってくれた。

 良かった。

 教官が食べ終わったので、次のコンビニで交代。

 その時にも、塩と砂糖とか缶詰とか、棚の半分ほどを追加で買った。

 このコンビニはすでに、少し買い占めが始まってた。買い占めはしたくないけど、避難先が山の中なのでごめんなさい! 本当にごめんなさい! 生鮮食品の棚はもう空っぽだった。

 爆心地からはさらに離れたのに……と思ったけど、ニュースが入ってから店に来るまでの時間がかかるんだよね、田舎だから。私の山の家も、コンビニまで車で一時間かかる。

「そうだ、教官! 途中で洗車場があったら車洗ってください! 放射能雨を受けてるかもしれないので」

「それならちょっと都会にいかないといけないんじゃないかな」

「洗車場優先でお願いします。万が一にも放射能を実家に持って帰るわけには行かないので」

「そうだね!」

「クレカ、渡しておきますので、必要なだけ使ってください。あと、念の為、高速道路で洗車できるなら、もう一度洗車してください。車の下とか、車輪も、一度車を動かして、地面についているところも流してくださいね」

 私が助手席に乗ってご飯を食べている間に洗車して、夜になって高速に乗った。教官、120キロで飛ばす飛ばす!

 満腹になったので、スマホナビをカップホルダーに入れて、私も導眠剤飲んで寝た。

 起きたら深夜。地元のコンビニの駐車場だった。

 父と、ここで待ち合わせしてたんだ。

 母も来てた。抱きしめられた。抱きしめた。太り気味の母、ふわふわで気持ちいい……

 このコンビニはすでに買い占められて営業すら終了してる。

 爆心地の辺りで、放射能汚染が高速道路までかかってたから物流が停まってるらしい。

 父の軽トラのブルーシートの下にも、塩や砂糖や醤油や調味料の瓶がかなり積まれてた。

 山奥とは言っても、コンクリートは敷いてる道路なので、軽トラについて教官の運転で家まであがる。

 お風呂入ってそっこうで寝た。





『雨が降ったからか足跡がたどれない!』





 誰かに怒鳴られた感じで目が覚めた。

 なんだ今の?

 『足跡がたどれない』?

 『雨が降ったから』?

 え?

 追いかけられてる?

 私が?

 教習所の車が?

 逃げ続けたから精神圧迫をうけて悪夢を見ただけ?

 焦ってるときって追いかけられる夢みるんだ。

 締め切りが近いとか、ムリしてるとかの時。

 殺人鬼に追いかけられる夢を、よく見た。それかな?

 とりあえず、万が一追跡されていたとしても、雨が降ったぐらいでわからなくなる追跡者ってことね。

 万が一追跡されていたとしたら、誰?

 あの、『危険物トラック』のまわり『飛び交っていた白黒の影』?

 『白黒の影』としていいのか?

 『白い影』と『黒い影』ではなかったか?

 いや、『追いかけてきている』のなら、『考えない方がいい』か。

 終了!

 今の『思い』を頭の中で箱に入れて鍵をかけて、土星の輪に投げ捨てる! エイヤ! 

 私が土星の輪に到達しないかぎりはもう思い出さない!

 すっきり!

 よし!

 『痛いの痛いの遠くの小山へとんでいけー』の要領で、イヤなことを土星の輪に投げ捨てる。サラ・ファーストの小説でそういうことが書いてあって、それいい! と私もやりだしたんだ。脳内的には何もかわってないんだろうけど、教習所の嫌なやつとか土星に投げてると翌日気にならないからイイ!

 どのみち『イヤなこと』って『意識の中のこと』なんだから、『意識の中』で『届かないところに捨てる』のが気楽でいい。今までもこれで嫌なことをいっぱい土星の輪に捨ててきた。

 よし。

 朝の瞑想。柔軟体操、ラジオ体操。

 歯磨き、散歩! 久しぶりの私のデスクトップパソコンを起動! ワーイ!

 合宿にはノートパソコンを持って行ってたし、教習でも持って歩いてたけど、やっぱり家のキーボードが一番いい!

 無線LANだから接続が遅いのがたまに傷だけど。書いた小説をメール添付で送るぐらいなので問題ない。ネット検索とかは、見たいサイトをいくつも開いてダウンロードしてるあいだにトイレに行ってれば十分。

 

 教官は私と結婚して土着した。


 災害逃れられて良かったね!

 それで終わりたかったけど、なんと後日談!


 畑の世話をしていた時に、父に呼ばれて振り返ったら、父より頭2つ高い美人がそこにいた。

 目が溶けそうなほど美形! ビジュアル系バンドボーカルにしか見えないパンクファッション。胸骨の谷間見せてるから男性なんだろうけど……はー………………眼福眼福。拝んでしまった。

 父がすぐに家に戻ったのを彼は見て、畑の中にクロムハーツのロングブーツで踏み込んできた。ちゃんと畝の谷を歩いてる。 

 なんでこんな山の中にこんな美人が?????

「こんな山の中に美人がいるじゃん! 俺、悪魔。預けてたものを受け取りに来たぜ! 失礼!」

 こんな美人に社交辞令でも嬉しい、とか思ってる間に、……なんて名乗った? え? 彼の右手が私の額の辺りに伸ばされて…………えっ? 

 暗い!

 エルメスのブレスレットが私の額にあたってる! 何? 私の頭に手首まで埋まってる?

 上が黒い。左右はさっきの畑。場所移動はしてない。

 頭は、痛くも、ない、けど……なんかぐしゃぐしゃされてる! 糠味噌を混ぜる感じ! 脳みそ混ぜられてる!

「あの時、お前の脳みそに魔法陣とばしたんだよ。天使に取られそうだったからっ! 手下が天使と相打ちして大爆発! びびるよなー! 小さな魔法陣が一つ砕けたし! お前は見つからねーしっ! 二回も洗車しやがって! どんだけ探すの苦労したと思ってんだ!」

 二回洗車した私すごい! つまりは三回洗車したら見つからなかった? 惜しい!

 他人の脳味噌をかってにストレージにするな!

「ねーじゃねーか…………どこにやった?」

 頭に手を突っ込んだまま、その手の下に顔を下げて私にニッコリ愛想する白い顔。すっっっごいキレイだけど、すぅっと目を細めて真顔になった。綺麗すぎて、こ・わ・い!

 黒い目が私から私の左前方に流れて、首がゆっくりとそっちを向く。なんかそっちが白い? 誰か、来た? 父が声をかけないということは、黙ってきた?

「答えてもいいけど、私の頭が無事なように手を抜いて」

「冷静だな、……これだけで発狂するやつもいるのに」

 エルメスのブレスレットがカチャカチャッと鎖の音を出して、私の額から離れていった。

 ズズズズズズッ……と、何かが頭から出ていく感触! 気持ち悪さがつま先から額に駆け上がって……咄嗟に吐いた。

 昼ご飯っ、私の大好きな鰻飯だったのに!!!

 胃酸の間に甘ダレのニオイがする! クウッ! 畑のそばの水場に走ってうがい! 鼻うがい! はぁぁぁぁぁぁっっっ! この水、畑用だから虫とかいるかもしれない山の生水なのに、そんなこと言ってられなかった。

「抜いてやったぜ、答えは?」

「忘れた」

「はっ?」

「忘れたからないんでしょ? 物理的に今、あなた、私の頭調べたよね? で、ないってあなたが判断したんだよね? あなたの判断を信じたら? 私はそれ、知らない」

 めっちゃ怒ってる。背中に焔見える感じ。でも、どうしようもないよね。

 うがいに行く私を止めることもできたのに、止めなかった。さっきは私のことをどうなっても良いと思ってたんだろうけど、今はちょっと違うはず。「私が無事なように手を抜いてくれた」んだから、もう、私を殺す気はないはず。

「覚えてろよ!」

「忘れたってば!」

 わかりやすい捨てぜりふを残して、彼は黒い闇に消えた。まさに、体の周りが黒く霧がかかって、霧が消えたら彼も消えた。ファンタジー!

 そして、さらなるファンタジー!

 彼が居た五メートルほど左に天使がいた!

 天使かどうか知らないけど、100人に聞いたら100人が天使って答えるような、白くて、ギリシア風のあのズルズル衣装で長い銀髪で白くて、さっきの悪魔とはべつの凄い美形。背中に白い翼。そりゃ天使って思うよね、って姿でしかも浮いてる。悪魔は彼を見て逃げたんだ。

 さっきはもっと近くに居たんだよ。私が吐いた時に一歩下がった。敵の敵は味方、という考えで悪魔を追い払ってはくれたみたいだけど、味方ではなさそう……

 畑で良かった……さっきの嘔吐を土に混ぜ込んで肥料肥料…………

 そう言えば、さっき悪魔が立ってたところ、畝が崩れてない………………悪魔も浮いてたのかな? でも、畝を歩いてきたから、あんなにぐしゃぐしゃやってたのに、畝を潰さないように気をつけてくれたなら、最初から殺す気はなかったんだろうな。そりゃそうだ。私の頭の中のものがほしいんだから、なにか吐かせるまで生きててもらわないと困るもんね。

 でも、最初から畑の真ん中にどーんと降りてきて畑を破壊して、私に腕を突っ込んだほうが私はビビっただろうけど、でも、結果は一緒だよね。知らないものは知らない。

「悪魔が君の頭に飛ばした魔方陣は、サタンをあの爆心地に顕現させるものだったのですよ」

 天使が遠くからナニカ喋ったけど、ヘッドフォンつけてるみたいに耳元で聞こえた。キモチワル!

「それじゃ、私が死んだら解決?」

 だから天使も私の味方ではないのか。残念。

「いいえ、君の頭の中に魔方陣は無いですね」

「なら放置される?」

「いいえ、……どこかに魔方陣を飛ばしたでしょう?」

 えーーーーーーーーーーーー?????? ああ、あれか、土星に飛ばした箱!

「遠くのお山へとんでいけー、って、投げた」

「……『遠くのお山』とは、どこですか?」

「そんなもの定義して投げないでしょ? 知ってるよね? 『痛いの痛いの、遠くのお山へ飛んで行けー』っていうの。あのノリで思考を投げたから、『どこのお山』かは知らないよ」

 トマト畑の隙間で、天使が頭を抱えてる不思議。

「ここまで私を追いかけてこられたなら、その『投げた先』ってわからないものなの?」

「君、よく瞑想していたでしょう? それで、意思の次元が、普通の人間より少し高いのですよ」

「それってどういうもの?」

「君の『思念』は、具象化されてしまった」

 リンゴリンゴリンゴリンゴ……と、手のひらの上に願ってみたけど、リンゴは出なかった。

「具象化されるとは?」

 何も出ないよ?

「君の仕事場を見せてもらっていいかな?」

 見せるしかないか。

 私が家に歩いたら天使が地上30センチぐらいを飛んでついてくる。他の畑に居た父が私を見て手を振ったけど、天使にオドロイいてる様子はなかった。見えてないのか。

 私の家の私の部屋の私のパソコンまで案内した。おそらく土足だろうけど、浮いてるから関係ないか。

 天使が私のパソコンになんか、キラキラしたものをかけた。

「そのキーボードで『私の右手の上にリンゴが出た』と書いて見て」

 そう打鍵したら、右手の甲の上にリンゴが出現してごろっと転がった。えっ!

「君は小説家だから『テキストの具象化』に特化したのだね。魔法陣の影響は受けているのだよ」

「私の家の床下に金の延べ棒が100キロ並んでいる」と打鍵した。

 台所の床下収納を引き上げたら、柱の間に金の延べ棒がごろごろごろんと並んでた!!!

「私は常に超健康体になった!」と書いた。

 微妙にあった腱鞘炎の痛みが消えた!!!

 すごいスキルもらった!

「天使さんから絶対守護のスキルを私と私の大事な人達全員と大事なもの全部にもらった!」

 きらきらきらっ……って私と家が光ってるぅ!

「そんなものあげてない……とは、もう、言えないね………………小説家って怖いなぁ……」

「ねぇねぇ! この大事な人って推しでもいいよね! いいって決定! サラ・ファーストさんも大事な人に決定! 天使さんからの絶対守護行きまーす! えいっ!」

「誰?」

「私の推し作家さん! 小説SNSのデビューは同じぐらいだったんだけど、一気に売れた超天才! ……というと御本人いやがるみたいなので、努力の天才! あと、ジャラス事務所の美少年美青年たちも! 近似のコンビニの店員さんも! 私や両親が口を聞いたことあるすべての人も! 私の大事な人! さっきのあの悪魔は除いて!」

 天使が大きなため息をついていた。

「あなたもよ、天使サン。あなたも、私の大事な人。あなたにも絶対守護がかかったから、あなたの敵との戦いに勝てるよ! がんばって! あの悪魔、やっつけちゃって!」


「………………ありがとう……」



 こうして私は、運転免許と共に、世界を少しだけ守る力を手に入れた。


 でもそれは、まだ誰にも言っていない秘密。

 なぜって……言ったところで誰も信じないでしょう?

 そういうのは、小説の中だけでいい。ね?





ここまで読んでくださって、ありがとうございました。

実はこの話、教習所の合宿中にふと思いついた一言――「赤信号を突っ切ったら世界が終わるかもしれない」――から始まりました。実際に、住宅街の片隅を走っているのに、後ろに「危」のトラックがいたのです。

書き始めてみたら、天使と悪魔が勝手に出てきて、きのこ雲が上がって、なぜか脳内に魔法陣が突っ込まれて……と、筆が止まりませんでした。


日常から一気に非日常へ突き落とされるあの感覚。そして、誰もがひっそりと持っている「予感」「第六感」みたいなものへの信頼。


誰かの中にある「逃げなきゃ」の声が、いつか本当に世界を救うかもしれません。


小説家になろうの世界の片隅で、こんな話を楽しんでもらえたら幸いです。

気に入っていただけたら、感想やブックマークをもらえるととても嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ