第1話 人生とは
王道な人生を歩むのは、難しいもので。
計画通りに進んだ試しなんてないし、気づけばいつも寄り道。
でも、誰かに迷惑かけずに生きてれば、それで充分に生きられる。
受験して、いい大学に入ってそれなりに安定した企業に就職して、結婚して、
暖かい家庭を築く──
それは、誰もが子どもの頃に一度は描いた「将来のかたち」だ。
けれど、大人になってみると、その道は思っていたよりも複雑で、案外その通りにいかないこともある。
生まれ育った環境や、途中で何が起きるかわからない障害。
人生は、最初から同じスタートラインには立っていないのだから、いつだって予定通りにはいかないものだ。
それでは、私の自己紹介をしよう。
おっと、急な展開で申し訳ない。
読者のあなたが戸惑うのも無理はない。
伏線もなく、前触れもなく、次のページに思いがけないシーンが待っている。
なので、どうかそのまま、もう少し読み進めてくれると嬉しい。
では、私の自己紹介をしよう。
28歳。
結婚していない。子どももいない。
社会的にはそろそろ“次のステージ”に進んでいる年齢らしいけど、私は今、何もしていない。
建築士として働いていた頃は、人の暮らしを形にする仕事をしていた。
けれど、肝心の自分の暮らしは、どこかで設計図ごと見失ってしまったのである。
空白のままの一日を、誰にも提出しない図面みたいに、ただ静かに過ごしている。
簡単に言えば、ニートだ。
少し丁寧に言えば、建築設計の仕事を離れて、いまは静かに人生を立て直している最中である。
社会のレールから外れたと言われればそれまでだが、外れてみて初めて見える風景もある。
一ヶ月前までは、建築設計の仕事をしていた。
朝は満員電車に揺られ、9時に出社。
図面に向かい、メールを返し、打ち合わせを挟み、気がつけば時計は19時を回っていた。
暮らしを設計する仕事だったのに、いつしか自分の暮らしは社畜の奴隷のように日々を過ごしていて、脳内では常に納期のアラームが鳴り響く。
建築という名の「暮らしをデザインする仕事」は、いつの間にか自分の暮らしを削る行為へと変わっていた。
元々は、理想も、目標も、それなりに持っていた。
けれど現代は、やりたいだけでは暮らしていけないのが現実だ。
とりあえず、生きていければいい。
そう思って、目の前の道を進むしかなかった。
それが大人になるということだと信じてたし、
自分の時間や余裕を削ることにも、意味があると思っていた。
けれど、いつの間にか「誰かのために」が、「自分を見失うこと」と紙一重になっていた。
家族のために働く。
生活のために働く。
それが当たり前だと思っていた。
だから、自分のやりたいことは心の奥にそっとしまい
誰にも見つからないように、大切に、大切に。
けれど日々を過ごしていくなかで
その蓋が少しだけ揺れる。
“あれ、本当はどうしたかったんだっけ?”
そんな問いが、ふとした瞬間に胸を叩いてくる。
一度、休憩がしたいと。
ただそれだけの理由で、仕事を辞めた。
大きな決断に見えるかもしれないけれど、
私にとっては、ようやく呼吸を取り戻すような、そんな選択だった。