表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

私を忘れないで

作者: 日和風



 満開の桜の下で、クーラーバッグを開けた。

 中から出てきたのは、一本のブルゴーニュ。ラベルはかすれていたが、年は読み取れた。——妻と結婚した年だ。


「もうこの一本で最後か。」

 隣には誰もいない。けれど、桜の花びらがそっと肩に舞い落ちる。


 毎年、結婚記念日の時に同じヴィンテージを開けていた。

 コルクを抜いて、グラスに注ぐ。

 煉瓦がかった赤茶色。香りは閉じていた。


 ポツリと頬を一滴の水滴が濡らした。

 慌ててボトルとグラスを手に東屋に駆け込んだ。


 サーっと音を立てて雨が降る。


 春雨の降るは涙か桜花

 散るを惜しまぬ人しなければ


 思わず口に出た。

 しばらくして雨は上がり、

 慌てて顔を出した日の光が水溜まりに落ちた花びらを照らす。


 気を取り直して桜の木の下のベンチに行き、シートを敷いて腰を下ろした。


 見上げるとまだまだ雨には負けぬとばかり桜が咲き誇っていた。


 グラスに目をやると色は明るいルビーに変わり、香りがはじけるのを今か今かと溜め込んでいた。


 そういえばこのワインの国での桜の花言葉は——“Nem’ oubliez pas.”




「待った?」

「いや、ちょうどいい頃だよ。」


 もう一つグラスを取り出して、注いだ。




(了)



昨日は結婚記念日でした。

結婚した年のピュリニー モンラッシェ クロ ド ラ ムーシェール開けました。しっかり熟成したいいワインでした。開けた場所はレストランですが。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ