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#3.異世界からの、新たな仲間

「……ぶはっ!」

「あ、響希くん、やっほー」

「よーす。ねえねえ、今どんな感情?ねえねえ」


 籠目が俺に煽りを掛けてくる。俺は、涙目で応えた。


「お前にィ!花子が死んだ悲しみがわかるかァ!!」

「花子!?花子さん!?どちら様!?」

「えっ、誰か死んだの?花子死んだの?」


ふたりが驚きながらこちらを2度見する。俺の今の感情は、花子を失ったという喪失感と悲しみに飲み込まれていた。


「花子は大人しくて……、けど人懐っこくて……!」

「……、だからどちらさま!?」

「人なの?」


「ブルドックの花子だよォ!」

「……。ペットが死んだ人とすれ違ったんだ」

「しょーーーーもな!!!」


 真宵は俺に同情の目を、籠目は呆れたようにソファに体重をかけもたれかかる。


「ぐすっ……、お前らにはわかんねえ、あの子の気持ち」

「うーん、私はわかるよ?トイプードル飼ってるし!」

「俺も金魚飼ってるからわかるわかる、悲しいね。けど切り替えてこか」


「……はぁ」


 はぁ、二人は安心しきった様子だ。その感情が俺の悲しみの感情を上書きする。

 強制共感。人の感情に()()()()()()()()()()()、そんな力を持つ俺は、今日もこの皆の集合場所、BARクオリアに来る途中で、大事に生活を共にしていた愛犬が死んだ女の子とすれ違い、その感情に共感し涙を流していたわけだ。


「それで?ドンちゃんは?」

「えっとね、なんか紹介したい人がいるって言って異世界に行ったよ」

「なんか俺たちの知り合いだって。他の異世界の誰かだとは言ってたけど」


「知り合い……?今まで救ってきた異世界の誰かか」


  俺たちがこのBAR、クオリアに集まり、扉の向こうの世界の危機に瀕した並行異世界を救う活動を始めてから、約二年が経っている。


 異世界には、それぞれ異なる文化、異なるルール、異なる危機が存在する。ある世界では魔王が支配し、ある世界では科学が暴走し、ある世界では神々が人間を弄んでいる。俺たちはその世界の住人ではない。だが、“外部の存在”だからこそできることがある。だから俺たちは、必要とされた世界へと赴き、できる範囲で手を貸し、また戻ってくる。


 それが俺たちの”役目”だった。


「……けどさ、ドンちゃんが”知り合い”って言うの、珍しくない?」


 ふと、真宵がつぶやいた。


「確かにな。あの人が個人的なつながりで誰かを紹介するなんて、初めてじゃね?」


 籠目が腕を組む。


 ドンちゃんは寡黙で、無駄なことを言わない。そもそも、俺たちが知る限り、彼が”誰かと親しくなる”こと自体がレアだった。


「しかも、その知り合いが”異世界の誰か”って……」


 俺はグラスの中で揺れる琥珀色の液体を眺めながら、言葉を飲み込む。


 この二年間、俺たちは数多くの異世界を渡り歩いた。その中で出会った人々のことを思い返す。助けた者もいれば、助けられなかった者もいる。別れ際に「また会おう」と言えた相手もいれば、二度と交わることのない相手もいた。


 ドンちゃんが連れてくる”知り合い”は、そのどれに当たるのだろうか。


「まあ、すぐにわかるって言ってたし、そのうち来るでしょ」


 籠目がそう言って、ソファに身を沈めた。俺も、真宵も、特に反論はしなかった。どうせ、いつものように突然巻き込まれるのだろう。ドンちゃんが動いたなら、俺たちもそれに巻き込まれるのが”当たり前”だ。


「……はあ、飲んどくか」


 俺は小さく息を吐き、グラスを傾けた。カラン、と氷の音が鳴る。


────「よし、こっちだ」


「お?」

「ドンちゃん……?」

「誰だ!?イケメン美女来い!」


「残念男でしたー」

「久しいな、三人とも」


「……、お前らか」

「陽さんと……、陰さんだ!」

「バカ二人かよォ!」


 光に満ちた扉の向こうから、ドンちゃんに続いて二人の男が現れた。男にしては長めの髪を後ろに纏めたマンバンヘアの男達。

 この男達……、双子は声も、顔も、身長も。着ている服から仕草まで、瓜二つなんて次元じゃない、そんな双子の、暗朝(くらあさ) (よう)と、その弟の(いん)だった。


「……んー、右が陽!」

「私は左!」

「俺も右!」


「真宵たん当たり〜、くたばれジャリガキ共」

「真宵殿、道には迷うのに何故か俺たちの見分けが着くよなぁ。母者以外で俺たちの見分けが着くのは真宵殿だけだ」


「えへへ!道に迷うのは余計なセリフ!」


 真宵が嬉しそうに双子と話す。


「しかし、お前らか」


 彼らはテイカー族と呼ばれる鬼神の末裔の一族。様々な種族が存在する彼らの世界で、特に苦境に立たされていたのが、この双子の生まれたテイカー族だった。


 テイカー族は、生まれた瞬間に使命を与えられ、それを全うするための力を授かる。しかし、双子として生まれた者には使命が与えられず、ただ力だけを持つ存在として忌み子とされ、一族から迫害を受ける運命にあった。


 そんな彼らが苦しむ異世界・ジェイアズの問題を解決しようとした際、紆余曲折あって共に戦ったのが、この双子だった。


「……ジェイアズでの問題は面倒だったなぁ……」

「対立するアクター族が瘴気に侵されて、止めるの大変だったよね、」

「対立する一族を、しかも忌み子の双子が助けるとか胸熱展開だったなぁ。」


「で?なんでここに?」

「あっ、そうだった、なんで二人共、扉をくぐれるの?」

「ああそうだ。なんだ、遂に追放されたのか。」


「……口の減らねえガキだなぁ籠目」

「図星だ。籠目殿。だが同時に、世界を行き来する力も持てた。それでドム殿に案内してもらったんだ」


「そういう事だ。オラ、飲め」


 ドムことドンちゃんがカウンターの裏から戻ってきた。人数分のグラスをお盆に乗せて。


「ドンちゃん、世界を行き来する力ってこんな風に覚醒するもんなの?」

「私たちは自然と集まったもんね、ここに」

「たしかし〜」


「さぁ、俺ァただの管理人だ、詳しくは分からねえ。ただお前たちが昨日帰ったあと、こいつらの異世界につながる鍵穴が金色に光っててな開けてみたらこいつらの部屋に繋がってな」


「鍵穴が金色に光る……?」

「今までそんなこと無かったのにね?」

「SSR確定演出」


 籠目が呟くと俺は飲んでいたドリンクを吹き出した。


「だはは!こいつらSSRなの?」

「二人とも、ゲームのガチャじゃないんだから……」

「性格終わってるけど強さはSSRかな、性能厨には喜ばしい話だ」


「喧嘩売られてんのかな、よく分かんねえけど」

「褒められてると思おうか兄者」


「おら、そこまでだ。本題はこれから。こいつら双子をどうするかだ」


「どうするか?」

「一緒に冒険しよう!」

「チート級に強いしそれはアリ」


「冒険、か、楽しそうだ」

「役に立てるよう尽力しよう」


「……それはいいんだがな、こっちの世界での働き口をだな」


 ドンちゃんがさぞかし面倒くさそうな顔で述べる。こっちの世界の働き口、か。しかしそれは言うまでもなく……。


「……ドンちゃん諦めてんじゃん、ここで働かせるつもりあるんでしょ?」


「お、強制共感か。まだあったんだなその力」

「ドム殿、俺たちの面倒を見てくれるのか?」


「双子は民族レベルの文明世界から来たんだ、急に現代社会で仕事は無理だろ」

「迷子になるよ!」

「それは真宵ちゃんだけかと。けど働くならここしかないよね」


 双子は糸目の奥からキラキラの羨望の眼差しを向け、ドンちゃんをみる。俺たちも、双子の力を借りるためにはここにいてもらうのが1番都合がいい、と考えドンちゃんを見つめる。


 場が静寂に一瞬包まれるが、先に音を上げたのはドンちゃんだった。


「……給料は月3000円だ」


「えぐぅ」

「なにができるの……」

「わははは!いいじゃん!良かったなぁ双子!大金持ちだぞ!」


「さんぜん、えん……?高いのか?」

「大金持ちらしい、高待遇なのだろう」


「……」


 哀れで仕方ないが、給料日を過ぎれば三日で異変に気づくだろう。


「じゃあ、今日からアストラの攻略も一緒に、か。」

「ソラリス王、双子見るとどんなリアクションするかなぁ……!」

「動揺するだろうね。楽しみだわぁ」


「ソラリス王……、その王が治める世界の危機を救うのか。」

「ふむ、平行世界とは言えど異世界だからな、言語を学ぶ所からか……?」


「あ、それは大丈夫だよ二人とも、ドンちゃんが出すバフドリンク飲めば、異世界の言葉が通じるようになるから」

「そうそう!美味しいし便利なんだよ〜!」

「……今こうして話せてるのもさっきまで俺たちがバフドリンク先に飲んでたからだよ。とりあえず日本語学べお前らは」


「……ふむ、便利なもんだな。まぁ知識を得るのは得意な方だ、日本語とやら、直ぐに覚えよう」

「バフドリンク……、そんな物が……。なるほどな、あいわかった、勉学に励もう」


「話は終わったか、お前ら」


 どんちゃんが再び話を締める。そしていくつもの鍵穴がある異世界への扉、異世界アストラへ続く鍵穴が、真っ赤に光っていた。


「……あの光は?」

「赤いな、俺たちの時は金色だと聞いたが」


「世界がピンチのしょーこっ」

「さてさて!新しい仲間もできたし!」

「まずはひとつ、世界を救いに行きますかね、行くぞ、双子」


「なるほど、オーケー、行こうか」

「足を引っ張らないよう気をつけねばな」


「あぁ、お前ら、これ飲んでけ」


「ん、ああ、さっき言ってたバフドリンクか」

「厶、美味いなこれで言語の壁も問題なしか」


「さてさてさて、異世界アストラ、待ってろよ」


ドンちゃんが赤く光る鍵穴に鍵を指す。カチリ、鍵穴が音を立て、異世界への扉が開く。



「「「行くぞ!!」」」


俺たち五人の初クエストが、始まった。

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