表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひび割れた時を君と  作者: 朱空てぃ
2度目の夕食会
76/77

第72話 一緒に買い物

 夏休みが明けてすぐの事。今日は水曜日で、由美と真人が久しぶりに河原で会う日だった。それと同時に、由美の家でご飯を食べる日でもある。


「北川くん」

「浜野さん。それじゃあ、行く?」

「ありがとう。買い物に付き合って貰って」

「いいよ。浜野さんのご飯、楽しみだ」


 真人の表情は、本当にそう思っていることがすぐに分かる。鼻歌でも歌い出しそうなほどに上機嫌で、足取りも軽い。


「そんなに楽しみにしてくれてると、私も嬉しい」


 上機嫌な真人につられて、由美もニコニコと嬉しそうに笑った。機嫌よく、こちらは本当に鼻歌を歌い出している。


「うちの父さんも楽しみにしてるよ。今朝、家を出る時に話したんだ」

「ふふ。嬉しい。張り切って作っちゃうね」

「メニューは?」

「今はまだ内緒。買い物する時にわかっちゃうかな?」


 由美はそう言うが、真人は普段から料理を全くしないのだ。食材を見たとしても、なんの料理を作るのか全く想像もつかないだろう。と思う。


。。。


 スーパーについたら、早速真人がカゴを取って、カートで押してくれた。


「ありがとう」

「うん」


 由美は真人が押してくれているカートに、欲しい食材を入れていく。


「レタスにトマト……あとお肉も買わなきゃ」


 野菜コーナーにいるので、まずは野菜から見ている。由美は手馴れた様子で野菜を見分け、サッサッと備え付けの袋に詰めてからカゴに入れた。


「流石の手際だなあ」

「料理をするようになれば、北川くんだってこれくらい出来るようになるわ」

「んー……。自炊してる俺とか、想像つかないかも」


 真人は短く唸ってから、そう言った。


「まあ。北川くんったら」

「俺、大人になってもほしのねこに入り浸ってそう」

「もう」


 真人と由美はクスクスと笑いながら、スーパー内を歩く。


「逆に、俺が料理できるようになると思う?」

「やればできるようになるわよ。私だって、料理を始めた頃は失敗ばっかりだったんだから」

「うーん……」


 真人はまた唸って、由美の手元を見る。由美は会話をしつつも、素早い手つきで欲しい食材をカゴに入れていた。合宿の時もだが、由美は真人と会話をしていても、少し食材を見比べたら、サッと素早くカゴの中に物を入れるのだ。そんな由美の料理を失敗した姿は、真人には想像ができなかった。


「料理を失敗する浜野さんも、想像つかないな」

「今はね。もう慣れたものよ」

「小さい頃の浜野さんか。昔から可愛かったんだろうな」


 真人がそう言うと、由美の手がピタッと止まる。そして、真人から視線を逸らして頬を染めた。


「そんなこと言うの、北川くんだけだよ」

「何で? 拓真達だって同じ感想だと思うんだけど」

「私、小学生の頃は男の子に意地悪ばっかりされてたもん。多分、私のことが気に食わなかったのよ」

「そう言えば、そんなこと言ってたっけ」


 真人は訝るように由美を見た。嘘をついているわけではなさそうだ。何故、由美のような女の子がいじめられるのだろうか。と考えた真人は、想像した。そして思いつく。


 小学生の男子は、愛情表現の仕方がまだまだ未熟なものだ。かっこよさを強さと考えるものだから、相手よりも優位に立とうと強気に出るし、構って欲しいからちょっかいをかける。好きな相手をいじめる行為は、母親に対する愛着や、自身の承認欲求を満たそうとする行為に近いように思う。


(憶測だけど、小学生の頃からモテてたんじゃねえかな?)


 真人は由美を見つめて、そんなことを考える。そして、自分ならどうしただろうか。と想像した。


 真人は、好きな人には甘えん坊だった。確かにちょっかいのようなものをかけていたような記憶もあるが、それでもいじめたり優位に立とうとは全くしなかった。寧ろ刷り込みされた雛のように、くっついて回って手下のように動いていたと思う。


「てか、大人しくいじめられてる姿なんて想像もつかねえや」


 ボソリと呟いた言葉は、由美の事ではなく、明里の事を考えて出た言葉だった。真人は無意識に呟いていたので、その事には気づかない。


「そうかしら……」


 逆に、由美の方は真人がどこか遠くを見つめていることに気づく。瞳はどこか切なげで、まるで何かを慈しんでいるかのような、優しい表情をしているのだ。


「北川くん。あとはレジだけだから。入口の方でちょっと待ってて」

「え、ああ…うん……」


 由美は誤魔化すようにそう言って、真人から距離をとる。真人は少し戸惑いながらも、由美の言う通りに移動した。


。。。


 由美が会計を終えてマイバッグに食材を詰めると、その食材の入ったバッグを真人が持ち上げた。


「あ。北川くん……」

「ご馳走になるんだし、これくらいさせてよ」


 そう言った真人の笑顔は、何だか眩しかった。少し拗ねていた由美の気持ちが、一気に回復する。我ながら単純だと思ったが、そこは惚れた弱みだった。こんな風に優しくされると、つい嬉しくてドキドキしてしまうのだ。


「ありがとう。合宿の時も手伝って貰ったよね」

「あの時だって、俺らサッカー部の分を作ってくれてたんだから、当然だろ。量もかなり多かったし」

「ふふ。助かるわ」


 由美はそう言って、軽く頬を染めはにかんだ。


「それにしても、浜野さんって普段からこの量を買い物してるの?」


 真人からしたら別に重いというわけでは無いのだが、女性にとってはそこそこの重さになっているだろう。と真人は思った。


「いつもは2人分だからもう少し軽いわ。でも、これくらいなら余裕で持てるのよ?」


 由美はそう言いながら、力こぶを作った。真人はそれを見て、少しだけ眉を寄せる。


 合宿の時も指摘したが、半袖で腕を上げると、脇が見えるのだ。真人はつい視線を向けてしまうので、あまり無防備にされると困ってしまう。


「あ。そっか」


 真人が眉を寄せた事で気づいたらしく、由美は恥ずかしそうに腕を下ろして、その腕を逆の手でキュッと押さえた。


「ごめんなさい……」

「うん。まあ、俺の前で安心してくれてんのは、嬉しくもあるんだけどね」


 由美が恥ずかしそうに頬を染めているので、真人にもそれが移る。真人は照れくさそうな困り笑顔で、言った。


「気をつけようって何回も反省したはずなのになあ」


 由美は唇を尖らせながら、また同じように反省をする。それを横目に見て、真人はやはり苦笑するしか無かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ