第70話 誤解と報告
結果として、幸雄は見事にストライクを取ることができた。しかし、気分は複雑だった。
「せっかくストライクでかっこよく決めたのに、まさか力みすぎて、次はガターを取るなんてな」
「うぐぅ……」
最初は綺麗に決まったのに。幸雄はそう思って、嘆く。どうせなら、最後まで茉莉にかっこいい所を見せたかった。
「でも、デートはして貰えるんだろ? ねえ、茉莉ちゃん?」
散々幸雄を笑った拓真は、彼が拗ねる前に茉莉をチラッと見て聞いた。茉莉が声をかけてくれれば、幸雄の機嫌はすぐに直ることだろう。
「ええ。約束通り、ストライクを取ってくれたもの」
「ありがとう。茉莉ちゃん。嬉しい……」
幸雄はしおらしくそう言って、茉莉を見つめる。茉莉は犬のようで可愛らしいな。と思った。
「良かったな」
「うん……」
。。。
この後にもう一度ゲームをして、小腹がすいてきた頃にボウリング場を出た。
「腹減ったー。ねえ、みんな。ご飯はどうする?」
「せっかく集まったんだもん。みんなで食べて帰ろうよ」
茉莉がそう提案し、駅ビルに入っている飲食店で食べて帰ることにした。
「店も色々あるよな。何食べる?」
「イタリアン、寿司、オムライス、カレーにラーメン、焼肉……」
「マジで色々あるよなあ。気分的には熱いものより冷たいものの方が食べたいけど」
「じゃあ、カレーとラーメンはやめとくか?」
「女子は?」
柱の案内板を見ていた真人が女子達を振り返って、そう聞いた。
「私は美味しい食べ物、何でも好きだよ」
「私も拓真くんと一緒で、あったかいのはちょっとな」
「この中だったら、私はお寿司がいいな。オムライスの店には昨日彼氏と行っちゃったし」
和実がそう言ったので、お店は回転寿司に決まった。
「なんか寿司食うの久々な気がする」
「俺も。最近はずっとほしのねこだし!」
ほしのねこには色々なメニューのレパートリーがあるのだが、お寿司はおいてなかった。魚を使う食べ物は、ムニエルや竜田揚げくらいである。
「数えるくらいしか行ったことないけど、ほしのねこの料理って美味しいわよね」
と和実が言うと、由美が嬉しそうにニマニマと口角を上げて、「でしょ?」と自慢げに言った。
「いらっしゃいませー。何名様でしょうか?」
回転寿司のお店に入ると、すぐに案内して貰えた。今は夕方なので、昼と言うには遅く、夜と言うにはまだ早い時間帯だ。ちょうど空いている頃なのだった。
「8人です」
「かしこまりました。奥のテーブル席、お2つ空いておりますのでどうぞご利用ください」
隣同士のテーブルに男女に分かれて、二手に座った。
「私、お水とってくるね」
「1人で平気?」
「うん。ありがとう。由美」
里美はそう言って、席を立つ。人数分のお冷を取りに行ってくれたのだ。
。。。
「……なんか、ちょっと遅いね」
暫く待っているのだが、里美はまだお冷を取りに行ったきり、帰ってこない。
「やっぱり、私も行けばよかった。今から行ってくるね」
「うん。お願い」
水を汲みに行ったにしては時間がかかっているので、由美もウォーターサーバーの方へ歩いた。
「あれ……」
里美がなかなか帰ってこなかった原因は、真人と話をしていたかららしい。由美は遠くから2人の姿を見つけて、ドキリとした。
(こんなことで嫉妬なんて、嫌な子だな……)
由美はしゅんと落ち込んで、ゆっくりと2人の方へ歩いた。2人はまだこちらに気づかずに、会話をしている。
里美は照れくさそうな顔をしていて、真人は少しだけ困った顔で笑っている。真人の方も、心做しか頬が赤い気がした。
「にしても、そんなに似てるかな? 俺と父さん」
「面影はあるよ。だからドキドキしちゃうんだもん」
「俺、まだあんなに老けてないし」
「もう。あの貫禄がいいんだもん。お髭が伸びてた時も良かったんだけど、スッキリ剃ってるのも素敵だし」
「そんなに好きなの?」
「……うん」
「まあ、別に反対はしないけど…うちの父さん、亡くなった母さん一筋だからな。俺も、他の人を選んで欲しいとは思えないし。ごめんね。応援してあげられなくて」
会話が聞こえてきて、由美は別の意味でドキリとした。里美も真人の事を好きなのだろうか。そう思ってモヤモヤしていた由美の気持ちが、驚きに変わる。
「あの…里美……」
「あ、由美。ごめん遅くなって!」
里美は、先ほど真人に声をかけられて驚いてしまい、水を全てこぼしてしまったのだった。それを処理しつつ真人と会話をしていたから、遅くなってしまったのだ。
「ううん。私も……。ごめんね。聞くつもりじゃなかったんだけど……」
「あ、やだ。聞いてたの?」
「う、うん……。声かけるタイミングに迷っちゃって。その…里美、北川くんのお父さんが気になってるの?」
「えへへ。うん。知ってるでしょ? 私、歳上好きだからさ」
里美はそう言って、照れくさそうにはにかんだ。
「それは知ってたけど、てっきり大学生とか、それくらいの年齢の人のことだと思ってたから。驚いちゃった」
「えへへ。まあ、望み薄だろうけどね」
「あ……。えっと……」
「気にしないでよ。難しい恋ってわかってるし」
里美はそう言って、飲み物の入ったグラスを2つ、由美に渡す。
「ごめんね。結局手伝ってもらって」
「いいの。あ、北川くんは……」
「ん。俺は平気。戻ろっか」
真人は片手に2つずつグラスを持って、里美達の後をついて行く。
「お待たせ」
「遅かったな」
「ちょっと色々あってな」
それぞれが席に戻ると、早速好き好きにお寿司を頼んだ。由美はその間も、大きな衝撃で暫くぽーっと里美を見つめてしまっていたのだった。
。。。
ご飯を食べ終えたら、駅前で解散になる。男子達と里美は電車。和実はバスだ。徒歩の由美と茉莉は、みんなを見送る。
「ね、由美」
「里美? どうかした?」
帰り際に里美に声をかけられて、ヒソヒソと耳打ちをされる。
「私、由美の応援するから。ごめんね。北川くんとのことで誤解させてたでしょ?」
「あ、えっと……。なんで……?」
由美は、まだ里美と和実には真人への気持ちを話していなかった。本当は今日話したかったのだが、里美の様子を見ていたらモヤモヤしてしまって、ずっと言えないでいたのだ。
「なんとなくだけど。あってたみたいだね」
「うん……。里美。私もごめんね。勝手にライバルなのかも。とか思って、モヤモヤしちゃって……」
「いいんだよ。そんなの。とにかく、頑張ってね」
「ありがとう。里美」
男子達と里美と別れたら、次に見送るのは和実だった。バスの時間まで一緒に待って、世間話をしながら時間を潰す。
「あのね、和実。さっき里美には話したんだけど……。えっと……」
由美は、和実にも真人への気持ちを話しておこうと思って、口を開く。
「うん」
「あのね、私にも好きな人ができたんだって、友達には言っておきたかったの。私、北川くんが好きなんだ」
「やっぱり? なんとなくだけど、そうなんじゃないかと思ってたのよね」
「え? 嘘。なんでバレたの?」
由美は恥ずかしそうに頬を染めて、聞き返した。
「なんとなくだって。由美、北川くんの顔見ると少しだけ緊張してたし」
「あわ……。本人にはバレてないといいな」
「えー? いいじゃん。白鳥くんみたいにさ、好き好きアピールしてみるのもひとつの手だよ?」
「私はそれでまんまと好きになっちゃったもんね」
茉莉もそう言って、笑う。
「駄目だよ。前に聞いたんだけど、グイグイ来る女の子は苦手って言ってたから……」
あまり積極的になりすぎずに、アピールしたいのだ。由美はそう言ってから、ギュッと拳を握る。
「いつかは振り向いて貰えるように、今は友達のままで頑張るの」
「そ。頑張って。応援してる」
「北川くんって由美には優しいし。今は友達でも、いつか本当に由美に恋しちゃうかもしれないしね!」
2人から応援されて、由美は嬉しそうに笑った。
「ありがとう! 頑張るね!」
まだ拓真の家に泊まった時のことを考えると、ドキドキしてしまう。不安にもなる。けれど、いつか本当に自分を好きになって貰えるように頑張るのだ。と、由美は気持ちを新たに切り替える。そして気合いを入れるガッツポーズをした。




