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ひび割れた時を君と  作者: 朱空てぃ
小旅行
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第52話 実家へのお呼ばれ

 真人は何に関しても、基本的に覚えが早い。ほしのねこのバイトにも、もう慣れた。今日もシフトが入っていて、今日は由美と詩音と一緒の時間に出勤している。


 そして、真人のシフトが終わる時間は、丁度ディナータイムに切り替わる頃だ。ということなので、ついでに夜ご飯も食べていってしまおう。と、真人はピッチャーに汲んだ水を運びながらそんなことを考えていた。


カランカラン


「「いらっしゃいませ!」」


 店の入口に目をやると、入ってきたのは真人の悪友達だった。


「珍しく純也も一緒じゃん。落ち着いた?」


 最近の純也は、高井家で経営している企業の手伝いで忙しくしていた。今日は空いているのだろうか。

 

「まだまだ繁忙期。でも、俺は暫く大丈夫」

「へえ、そうなんだ。よかったじゃん」


 会話をしながらいつもの席にお冷を置いて、真人は下がって行こうとする。


「あれ? 茉莉ちゃんはまだ来てない?」

「え? うん。6時からのシフトだって。俺や浜野さんと入れ替わり。お前が何か用なの?」


 幸雄ではなく、拓真が茉莉に用事がある。それが珍しくて、真人は軽く眉を寄せると首を傾げて聞き返した。


「と言うか、皆にね。ちょっとお願いと言うか……」

「へー? まあ、いいや。俺も浜野さんも後30分くらいでシフト上がるし」

「え? 私が何?」


 丁度空いた席を清掃していた由美が通りかかって、真人の言葉に反応する。

 

「拓真がちょっと俺達に頼みたいことがあるんだって。バイトの後、大丈夫そう?」

「うん、平気。私も今日、ご飯食べて帰っちゃおうかな!」


 由美はそれだけ言うと、裏に引っ込む。恐らく、厨房に行くのだろう。ほしのねこの料理を作るのは基本的に店長だが、由美もよく入って行く。由美の料理は常連の間では人気なようで、わざわざ由美を指名してくる客もいるらしい。


「じゃ、俺もまた水を追加しに行くけど……。注文決まってたら、先に取っちゃうよ?」


 4人分のお冷を用意したことで、またピッチャーの中が少し寂しくなった。ディナータイムが始まる前に満タンにしておこうと思って、真人は幸雄達にそう声をかける。


「あ。俺らもうちょい考える」

「はーい、かしこまりました。じゃ、また後でな」


 真人が厨房で水を汲んで戻る途中、茉莉も到着していたようで、ロッカーに入るところをすれ違う。


「山里さん。おはよ」

「おはよー。由美は厨房?」

「うん」

「やっぱり。幸雄くん達、来てたね」

「うん。山里さん。後で休憩の時とか時間が空いたら、なんか拓真が頼みがあるとか言ってたから、聞いてやってくれる?」

「わかったわ。じゃあ、真人くん。また後でね」

「ん。また後で」


。。。


 シフト終わり。着替えを終えた真人は幸雄達に合流して、夕ご飯のメニューを考える。


「カレーもいいけどボロネーゼもいいな。ご飯か麺、どっちにしよう」

「私は、今日はパスタかな」


 由美はパスタを頼むと決めているらしく、パスタの中でメニューをどうするか考えている。


「カルボナーラにしよっかな」

「じゃ、俺も麺にしよ。ボロネーゼ」


 幸雄達は注文は既に済んでいて、きた料理を食べているので、2人分の注文を頼む。


「なあ、真人。豊さん、また新しく起業するんだって」


 注文を終えて一息つくと、拓真が世間話を真人に振った。


「え? 去年にリゾート経営始めたばっかなんだろ?」

「そのリゾートホテルで使ってるアメニティを製造するみたい。元々タオルや貸付の浴衣なんかは高井グループの商品なんだけど、シャンプーやコンディショナーでも、新しくブランド立ち上げようと考えてるんだってさ」

「へえ。確かに、備え付けのアメニティがいい物だったら、家でも使いたくなるもんな」

「高井くんの家、凄いのね」


 話を聞いていた由美が、純也を見つめてそう言った。純也は小さく笑うと、こう答える。


「うちは元々日用品の製造会社だからね。シャンプーとかそっち系を始めるのにも反発は少ない。って言っても、まだまだ手がけてることは小さいから、次々に仕事を増やしすぎるのも考えものだけど。基盤作りが先だしね」

「そうなの?」

「独立してそんな経ってないんだよ。純也の家、元々はあの本宮の分家だぜ?」

「え!? あの……って、あの?」

「多分その。それ」


 本宮家は、日本で一番大きな一族だ。分家だけでもかなりの数になる。その分家のうちのひとつで、近年本宮から独立して自分達の事業を始めたのが、高井家なのである。

 

「はぇー……」


 驚いて言葉が出ない由美は、ぽかんと口を開けて純也を見つめた。


「お金持ちだとは聞いたけど……。そっかー……」

「ふふ。一応ね。俺はまだまだ、兄さんの足元にも及ばないけど」

「それでも立派じゃない。私なんか、まだやりたい事も決まってないもの」


 と、由美は苦笑した。高校2年生の由美は、進路希望を学校に提出する時にも将来について悩んでいた。特待生なのだし、家政関係が活かせる仕事をしたいとは思っているが、具体的に何がしたいかは全くと言っていいほど決まっていない。

 

「浜野さんは、栄養士とか似合いそう」

「いやいや。そんなガチガチのじゃなくて、ちょっとオシャレなレストランの料理人なんてどう?」

「美人さんだから、今バイトでしてるみたいに個人でカフェを開くのもいいかもよ? 男性にすっごく人気でそう」

「私の印象、料理ばっかりなのね」


 由美はくすくすと笑って、そう言った。

 

「そりゃまあね。俺と真人は合宿でもご馳走してもらってるし。腕前知ってたらそうなるって」

「ありがとう」


 話していると、茉莉の手によって2人の目の前に料理が置かれた。


「どうぞ。今、お客さんはあなた達だけだから。拓真くん、何か用事があるんでしょ? 話聞けるわよ」

「あ、うん! あのね…急なお願いになっちゃうんだけど……。皆、今週末から3日くらい、うちの実家に来れたりしないかな?」

「え? 久谷くんの……実家?」

「千葉のあそこか。何でまた?」


 全員が拓真に注目したので、順を追って説明する。貸切状態のため暇なのか、店長達もそばで話を聞いていた。


「実家のある千葉の大滝なんだけど、毎年8月の中旬に夏祭りがあるんだ。その夏祭りにはアイドルや歌手、芸人なんかを呼んで催し物をやってるんだけど。その催し物にみゆきが出ることになって」

「え!? あの新人賞とったアイドルの?」


 詩音が興味を持って、更にテーブル付近に近づいてくる。


「はい。彼女は大滝出身のアイドルで、バックの奏者に同じ地元の俺と、俺と歳が近い学生を指名したんですよ。それも、アレンジ有りの三重奏で」

「ああ、そういや楽器得意だったな。お前」


 真人がそう言って相槌を打つ。それに応えるように、拓真もこくんと頷いてから説明の続きを話した。

  

「で、うちの実家も資産家だから、祭りの資金提供とかその他諸々請け負ってて。トリオを組んだメンバーもうちに泊めることになってるんだ。だけど、そのメンバーのうち、1人だけが女の子なんだよね」

「何となく読めた」

「女の子1人じゃ流石に心細いだろうし、外聞も悪いから……。もし可能なら由美ちゃんと茉莉ちゃんにも来てもらいたくて」


 拓真はそう言って、由美と茉莉に頭を下げてお願いをする。

 

「お盆は丁度ほしのねこもお休みになっちゃうし、私は大丈夫よ」

「私も、多分。一度お父さんと相談しないと分からないけど、茉莉がいるなら平気だと思うわ」

「本当!? ありがとう!」


 拓真はぱあっと嬉しそうに笑う。容姿が優れているだけあって、拓真の笑顔を見た2人が少しだけ頬を染める。それに気づいて、拓真は急いで視線を2人から逸らした。

  

「それで、俺達は初対面の中に2人を入れるのもかわいそうだからって事で呼ばれてるのかな?」


 拓真が気まずく思っているのを知ってか知らずか、純也がニコニコと穏やかな笑みを浮かべながら拓真に聞いた。そのおかげで、拓真は少し冷静になれた。

 

「あ、うん……。純也は元から来る予定あるし、その予定が早められるなら、来て貰えるとありがたい。真人と幸雄も、お盆はいつも暇だって言ってただろ? 来れないかな?」

「まあ、祭りの2日後にある久谷夫妻の銀婚記念パーティーには出席予定だし。俺はいいよ」


 と、まずは純也が承諾する。それに続いて、幸雄と真人も頷いた。

 

「俺も行けるよ」

「俺も大丈夫。むしろ家にいても飯作れねえし、呼んでくれんなら助かるわ」


 ということで、今週末のお盆3日間、由美達は拓真の実家がある千葉の大滝で過ごすことになった。

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