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第48話 ハートのエース

お待たせ致しました。活動報告でお知らせした通り、2週間のお休みを頂き、やっと再開できました。これからもよろしくお願い致します。

 各自で夕飯を食べ終えたら、すぐに肝試しの時間がやってきてしまった。待ち合わせ場所がサッカー部達の合宿所でもある別荘なので、由美は柔道部のみんなと一緒に別荘まで来て、そのまま真人に預けられる。


「じゃあ、その子のことよろしくね」

「はい。終わったら声をかけてください」

「了解! あ、2時間は帰ってこないと思うから……。そっちも楽しんでね。今日の由美の下着、可愛かったよん」

「は……?」


 真人は一瞬、何を言われたのか理解が追いつかなかった。柔道部の先輩が言った言葉を頭の中で繰り返して、やっと言葉の意味に気づく。


「いやいやいや、そんなことしませんから!」


 小声でひそひそと喋っていると、由美に怪訝な顔で首を傾げられた。真人はほんのりと頬を染めると、身を翻して中に入る。


「浜野さーん! 早く来なよー!」

「あ、うん。待って……!」


 真人の後を追いかけて、由美は別荘内に足を踏み入れる。


「お邪魔します……」


 玄関で待っていてくれた真人の後ろを、由美は大人しくついていく。廊下を少し歩けば、すぐに広い空間に出た。リビングだ。


 由美はいつもこの別荘にご飯を作りに来ていたため、何度かリビングを通ったことがある。リビングの向こう側にはキッチンがあるのだ。


「こうやって寛ぐのは初めて」


 由美と真人は、リビングのソファに2人で腰掛けた。既にこの空間は2人きりだ。


(……あの先輩、何言ってくれてんの)


 真人は今もまだ、柔道部の先輩が言った言葉を意識してしまっている。想像したのは下着姿ではなく、昼に偶然見てしまった由美のあられもない姿だったから、更に罪悪感が募った。


 真人が、ちらっと由美を見ると、目が合った。お互いにバッと目を逸らして、気まずい空気が流れる。


「あー…どうする?」

「え?」

「暇だろ? カードゲームくらいならあるけど、遊ぶ?」

「うん。そうだね」


。。。


 何とか空気はトランプゲームに持っていけた。何戦か重ねたら、真人もすっかり由美のあられもない姿や、先輩の言葉を忘れて、ゲームを楽しんでいる。由美も2人きりの空間に対する緊張が随分和らいだと思う。


 ただし、由美はこれまでずっと負けているので、不満げではあるのだが……。


「北川くん、強すぎるよ!」

「いや。浜野さんが弱いんだと思う……」


 と、真人は困ったように眉を下げる。由美は拗ねるように唇を尖らせ、真人を八つ当たり気味に睨んだ。

 

「全然勝てない……」

「さっきから顔に出まくるんだもん。ババがどれなのか、分かりやすすぎるんだって」


 ただのババ抜きだが、由美はずっと顔に出てるので負けるに負けられない。わざと負けるにしても、上手く演技できる気がしないのだ。


「ね、次は神経衰弱にしよ!」

「浜野さん、暗記苦手なのに?」


 真人は暗記もそつなくこなす。神経衰弱でも自分が勝つだろう。という自信があった。わざとらしく負けてやってもいいが、恐らく由美は納得しない気がする。

 

「うぅ……。あ、じゃあ、占いする?」

「え?」

「私が北川くんの運勢みてあげる。トランプで出来るのよ。前に和実に教えて貰ったの!」


 由美はテーブルに散らばるトランプをかさかさと集めて、ふふんと笑う。


 女子は占いが好きだな。真人はそう考えて、くすっと笑う。


「じゃあ、お願いします」


 と、由美の手元を見つめた。


「何を占いたいですか?」

「そんなの選べるの? じゃあ、明日の運勢とか?」

「えっと…運勢は確か……。よし、とりあえず切って?」

「ん」


 真人は由美からトランプの束を受け取ると、ササッと切る。その間、ふと気になったので、由美にある事を聞いてみた。


「浜野さんって、普段から1人でいることが多いんだろ? 怖くないの?」

「普段は大丈夫よ。家と合宿は別って言うか……。北川くんこそ、他の子も言ってたけどちょっと意外だよね。怖いもの無しのイメージだから」

「そんな事ないって。まあ、小さい頃は平気だったんだけど……。拓真に散々からかわれたせいで…………思い出したらちょっとムカついてきた」

「あら……」


 小さい頃は平気だった。と言うのは強がりで、真人は昔から怖い話や怖いものが苦手だ。特に女の幽霊は、母に連れていかれるかもしれない。と思って怖かった。それが、中学時代に拓真にからかわれたせいで更に苦手になったのである。


「今度会ったら殴るか」

「えっ」


 由美は拓真に悪いことしたかもしれない。と思ったが、散々からかってきたのなら、自業自得のような気もする。


 由美は苦笑して、真人が置いた山札から大体4分の1ほど、カードを取る。それを交互に並べて、2つの山を作った。


「はい。この上の2枚が北川くんの運勢のカードなのよ!」

「へえ。えーっと……? 1枚目はクラブの5で、2枚目はハートの10だな。」

「クラブは仕事運だから……。もしかしたら、部活の運勢かも! 数字が高い方が運勢がいいんだって」

「へえ? ハートは?」

「そのまま。恋愛運よ」


 由美はそう言うと、少し緊張したような面持ちで真人を見る。


「タイプの人に会えたり…とか?」

「あはは。10って事は、結構いい感じって事だ」

「北川くんはどんな人が好きなの?」


 由美が恐る恐る聞いてみると、真人は少し考えた後、ふるふると首を横に振った。

 

「あんまり恋愛に興味無いから。わかんない」


 真人はもう一度、考えるようにハートの10を手に取って見つめた後、そのカードをピッと由美に向けた。 


「浜野さんみたいに家庭的な人、いいなーって思うかも。俺が家事出来ないからだけど」


 なんて冗談めかして言っているが、由美にとっては冗談を冗談にしたくない言葉だった。どうしてもドキドキしてまうので、軽い口調で言ってくれたことに拗ねたい気分になる。


「じゃあ……。残ったこの中からどれか1枚、選んで?」

「え? まだ何かあるの? ……じゃあ、これ」

「……ハートのエースだね」

「みたいだね……」


 真人が選んだカードは、由美が視線を向けていたカードだった。何となく、そのカードの意味もわかる。真人は少しずつ鼓動が高鳴るのを感じて、困ってしまった。


 少しの沈黙が場を支配して、真人は気まずい気持ちになった。それを誤魔化すように、すっと立ち上がる。


「インスタントだけど、コーヒー飲む? 喉乾いた」

「え? あ、うん……。私も手伝うわ」

「いや。コーヒーは俺がやるから、トランプまとめといてよ」

「そうね。わかった」


 由美は言われた通りカードをまとめる。その際、真人が引いたハートのエースを最後まで見つめ、思いを馳せるのだった。

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