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第4話 ほしのねこ

 由美と真人の2人が最後に会話をしたあの日から、約2週間が経った。


 水曜日はサッカー部の放課後練習が休みの曜日で、真人は今日、同じサッカー部の幸雄と夕飯を食べるという約束をしていた。


「今日はいつものファミレスじゃなくてさ。最近見つけたカフェレストランに行かない?」


 ふと、幸雄がそんなことを言った。確かに、真人もいつも行くファミレスは飽きてきたところだ。新しく美味しい店を発掘するのもいいだろう。


「ああ、いいよ。どこにあるの?」

「少し駅から離れるけど、学園からはそう遠くないよ。その店、美味しかったから真人も気に入ると思うんだよね」


 幸雄がそう言うので、真人もその店に興味が湧いてきた。電車通いである真人達にとっては少し遠いと感じるかもしれないが、幸雄の言う通り、本当に美味しかったなら通おう。と真人は画策する。


「個人経営の店だから、そんなに広くはないんだけどさ。昼間の方が混むって聞いたから、この時間は席も空いてると思うんだよね」


 今は夕方の4時頃だ。食べに行く店が決まったので、真人と幸雄は学校を出て、その店に向かう。幸雄が得意げに道案内をしてくれた。


(幸雄の奴。いつもより楽しそう……)


 声には出さないが、真人はそう思った。そして、その理由が何なのか気になり始める。


(そんなに美味しいのか……。いや、カフェの店員が幸雄の好みなのかもしれないな。それか、常連客の中に気になる子がいるとか?)


 幸雄の後ろ姿を見つめて、真人はそう推理した。考えれば考えるほど真相がが気になったので、真人も段々ワクワクした気持ちになってくる。早くそのカフェに行きたい。そう思った。


「ここ。〈ほしのねこ〉って名前のお店」


 名前は可愛らしいし、看板にも猫のシルエットがあって癒される。ファンシーな雰囲気のロゴと、外装はレトロなデザインの落ち着いた店だった。カフェレストランと言うよりかは、喫茶店だと言われた方が納得出来るような店である。


「ここが幸雄の絶賛する店か」


 窓から店内の様子を覗いて見たところ、幸雄の言っていた通り席が空いていることがわかった。今いる客はテーブル席にいる2人の女性のみで、他には誰もいないようだ。


「いらっしゃいませ!」


 出迎えてくれたのは大柄な男性。何となくの雰囲気で、彼がこのカフェの店長であるとすぐにわかった。


「2名様でよろしいですか?」

「はい」

「お好きなお席にどうぞ!」


 今は1人なのだろうか? 真人は思わず店内を見回す。内装の方も落ち着いた雰囲気だった。

 

 この店はオープンキッチンで、カウンターから見える作業場には小洒落た小物がいくつか置いてある。テーブル席は4つ。カウンター席は6つ。いずれもシックなデザインで造られている。オレンジ色の暖かな照明。暗めな色を使った木材タイルの床。席と席の間隔は広すぎず狭すぎない、丁度いい塩梅に揃えられている。雑誌が並ぶ棚にはアンティークな小物が品よく飾られていてお洒落だ。微かに香るコーヒーの匂いも、心を落ち着かせてくれる。


「いい雰囲気の店だな」

「だろ? 料理もめっちゃ美味しいから、楽しみにしてて」


 幸雄の声が聞こえていたのか、店長がニコニコと嬉しそうな顔でカウンターの近くに立っている。幸雄が選んだ奥の席に座ると、店長は素早く動いた。


 店長はピッチャーから水をカップに注いで、

早足なのに中身がほとんど揺れないという凄技で、サササッと真人達の座っている席まで持ってきてくれたのである。


「ありがとうございます」

「ご注文がお決まりでしたらお呼びください」


 あまり広くないカフェだし、この店はベルで店員を呼び出すのではなく、近くにいる店員を呼びつける仕様のようだ。幸雄が慣れた手つきでメニューをラックから取り出し、真人に差し出した。


「ありがと。幸雄はもう決めたのか?」

「うん。この店、どれも美味しいから日替わりメニューにするよ。ハズレ無しだから、もしメニューが決まらなかったら、真人もそれにしなよ。俺のおすすめだぜ?」


 かなり頻繁に足を運んでいるのだろうか。真人はそう思いながら、メニュー表に視線を落とす。写真を見れば、確かにどれも美味しそうに写っている。


「良ければこちらの店員のおすすめなんかもありますので、参考にどうぞ」


 今は真人達を除いて一組しか客がいない。忙しく動く理由もないから、店長は席の近くまで来ていたようだ。手書きのメニュー表を受け取った真人は、そのメニュー表も確認してみることにした。


 メニュー表と言うよりはポップとかチラシと言った方がしっくりくるような、手描きの可愛らしい文字や絵が1枚の紙に収まっている。


「こちらのおすすめは何日か経つとまた変わるので、なかなか楽しいのですよ」

「へえ、凄い。毎回、店長さんの手描きなんですか?」

「いやいや。これは店員達が描いてくれているんです」


 店長はそう言うと、「ごゆっくり」とその場を離れていく。


「春野菜パスタか。これにしようかな」

「決まった?」

「うん。すみません!」


 店長に手を挙げて合図をすると、すぐに席まで来てくれる。


「おすすめの春野菜パスタを下さい」

「俺は日替わりメニューでお願いします」

「かしこまりました! 本日の日替わりメニューはナポリタンになります」

「はい。それで大丈夫です」

「それでは、少々お待ちください」


 店長はサッと裏に引っ込んでいき、今度は女性の店員が裏から出てきた。その後すぐに店長も、食材を持ってカウンターに帰ってくる。

 

 この店はオープンキッチンなので、作業をしている様子がカウンター側からはよく見える。真人達は奥に座ったので見ることは叶わないが、時間が経つにつれていい匂いが2人の席まで漂ってきた。


 楽しみだ。そう思いながら、真人は目の前で自分と同じように出来上がっていく料理のいい匂いを堪能している幸雄を見つめた。

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