表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひび割れた時を君と  作者: 朱空てぃ
練習試合
37/77

第36話 頑張れ…って

「浜野さん」


 試合の後、真人が走ってきて真っ先に声をかけたのが由美だったから、余計に女子達のどよめきが大きくなる。


「あ。ごめん……」


 真人はそれに気づいて大人しくなるが、今度は由美がそれを怒った。


「いちいち気にしたら駄目よ。北川くんが悪いわけじゃないんだから」

「……うん。ありがとう。応援、一番聞こえたから。勝てなかったけど、引き分けにできたのは浜野さんのおかげ」


 真人がいつもよりも数段高いテンションで、子どもっぽい笑顔を浮かべているから、由美は少しだけ戸惑って照れくさそうにしている。

 

「茉莉ちゃんの応援も嬉しかったよ」


 真人の後ろから駆けてきた幸雄が、茉莉を見つめてそう言った。茉莉も、幸雄を見つめて照れくさそうにはにかんでいる。


 蚊帳の外になりかけた拓真と純也は少し不満そうだった。


「おーい。俺らは?」

「仲間はずれかー?」


 2人の文句に、真人と幸雄は顔を見合わせてくすりと笑う。

 

「もちろん聞こえてたよ」

「いつもありがとう」

「よろしい」


 真人と幸雄の声を聞いて、拓真と純也も満足そうに頷いた。

 

「でも、頑張れってあんなに嬉しいもんなんだね」

「え?」

「茉莉ちゃんに言われると、嬉しいなって思えたんだ……」


 幸雄は本当に嬉しそうに、にこりと笑う。真人は由美から目を離し、じっと幸雄を見つめていた。いや、真人だけではなく、拓真も純也もだ。


「俺も……。色々と思い出すこともあるけど、やっぱり嬉しいもんだよな」

「2試合目も頑張ってね。幸雄くん。真人くん」


 茉莉はそう言うと、大袈裟に幸雄の手を取った。真人には興味が無い。と言う女子達へのアピールもあるが、幸雄が何となく…少し悲しげな顔をしていたからだった。


「茉莉ちゃん?」

「同点に追いつけたのよ? 今度は勝ちましょ」

「うん! 頑張る!」


 茉莉の手を握り返してからガッツポーズで気合を入れて、幸雄は真人に「先に行く」と伝えて、走ってテント下まで走っていってしまった。


「ありがとう」


 幸雄を見送った真人は、改めてみんなに向き直ると、お礼を伝えた。

 

「え?」

「まともな応援してくれんの、お前らくらいだろ」


 真人はそう言うと、誰とも目が会わないように女子達を見て、小さなため息をついた。

 

「……次の試合も頑張ってね! 周りの声なんか気にしないで、負けないで!」


 由美はそう言って、真人を必死に励ました。それだけでも嬉しいと感じるから、不思議だ。

 

「おう。オーバーヘッドはもうきついけどな」


 真人は腰を軽く押えて苦笑すると、最後にもう一度お礼を伝えてからテント下へと走っていく。


「腰、痛めたのかしら」

「尻から落ちてたしな。普段のあいつなら簡単に受け身も取れるんだろうけど……。あの時はアディショナルも残り数秒ってところで、切羽詰まった状況だったし」


 拓真の話を聞いて、由美は真人の体を心配する。洋極学園のサッカー部がいるテントを見つめて、不安そうに呟いた。

 

「大丈夫かな」


。。。


 お昼を食べて2試合目。先発メンバーには真人も幸雄もいる。入れ替わったのは、1年生レギュラーの子達くらいだった。


「きゃー! 真人くーん!」

「こっち向いてー!」


 アイドルのライブじゃないんだぞ。と、由美も茉莉と同じように不機嫌な顔をして試合を眺める。


「幸雄」

「うわ。試合中に何? ってか、お前フォワード……」


 試合が開始されたと言うのに、フォワードの真人がディフェンダーの幸雄の傍に駆け寄ってきて、声をかける。幸雄は当然驚いたし、先輩達も慌てた顔をしている。

 

「頑張れ…って、言われてたな」

「……それを心配して来たの? そんな話、試合中にすんなよ。そもそも、本当に嬉しかったんだって」


 幸雄は戸惑いながらも、真人の言葉にきちんと返事をする。

 

「だよな。嬉しいもんなんだよ。だってさ……。うちの母親も、最期は笑ってたから」

「え」


 真人があんまり綺麗な表情で言うから、幸雄はつい呆気にとられてしまう。


 茉莉も由美も知らない話だが、真人も幸雄も、「頑張れ」の一言に少しだけ抵抗があった。頑張りたくても頑張れない人を知っているからだ。努力しようにも、どうしようも出来ない時がある事を知っているから、不安になる時もある。


 しかし、由美と茉莉の言葉はとても嬉しかった。それは真人だけじゃなくて、幸雄も同じだ。

 

「ユキ。お前んとこは大丈夫だよ。だって……。いくら苦しくても、頑張れちゃうんだ。もうどうにもならなくても、前向きになれるんだよ」


 真人は、負けそうだと落ち込んだ気持ちになった時、由美の声援を聞いて元気になった。苦しい気持ちなんて忘れて、やる気に満ち溢れて……。諦めていた気持ちも忘れて……。それで、あんな無茶なゴールまで決められてしまったのだ。


 真人はそう言って、誰もが見とれるほどの綺麗は笑顔を見せつけた後、相手のミッドフィールダーからボールを奪いとった。


 真人はそのまま、強気に攻めていく。たった1人のドリブルで、他のミッドフィルダーも、ディフェンダーも抜いていく。


「ユキ!」


 相手のディフェンダーが固まってきたので、一度ボールを幸雄に戻す。真人に気を取られたのかサイドはがら空きで、ディフェンダーのはずの幸雄がそのまま上がってきた。


「えっ!?」


 真人がディフェンダー側に向かった時もどよめいていたが、今も。


 ディフェンダーの幸雄が果敢に攻めてきた事にどよめいた相手チームの隙をついて、真人にボールを返す。その真人のミドルシュートが上手い具合に決まった。


「凄いっ! 今の連携プレー!」

「ディフェンダーなのに、幸雄くん凄いわ」

「珍しいよ。あんなに好戦的な幸雄」


 驚いたのは相手チームだけではなかった。味方チームや、拓真達もだ。

 

「誰かさんのおかげかもね」


 拓真のからかうような言葉に、茉莉の頬がぽっと赤くなる。


。。。


 一生懸命の応援のおかげか、1対0のまま本当に勝ってしまった。やはり、応援の効果というものは凄まじかった。


「可愛い応援団のおかげだねえ」


 なんて純也がからかえば、2人は声を揃えて肯定するのだ。


「もう。からかわないでよ」

「そこはチームメイトのおかげって言うべきでしょ」


 由美と茉莉は赤くなって誤魔化そうとするが、真人と幸雄はくすくすと笑ってお礼を言ってくる。


 そんな2人の笑顔がどこかふっきれていて爽やかに見えたので、茉莉も由美も顔を見合せて、くすくすと笑い合うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ