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ひび割れた時を君と  作者: 朱空てぃ
練習試合
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第34話 練習試合開始

 そろそろ試合開始の時間だ。今はその試合に備えて、両チームともミーティングをしている。


 その間に、茉莉は拓真と純也にサッカーについて教えてもらった。簡単なルールくらいは体育の授業で知っているが、本格的な公式ルールはよく知らないのだ。藤波学園にも女子サッカー同好会なるものはあるが、生憎興味がなかったので、今までルールを覚えようともしなかったのである。


「ま、とにかくゴールに入れりゃいいんだよな」

「そうだね。ファールになるようなプレーをしなければ、いくら激しいボールの奪い合いをしたって構わないんだから」

「へぇー。なんだかラグビーみたいよね」

「鋭いね」


 純也がニヤッと笑って言うと、茉莉は不思議そうな顔をして、こてっと首を傾げる。

 

「ラグビーもサッカーも、元は同じフットボール。似てて当然なんだよ」 

「そうだったのね」


 ルールを教えて貰っているうちに両チームのミーティングが終わったらしく、先発メンバー達がグラウンドに整列をしていた。


「ありゃ。幸雄は先発メンバーにはいないっぽいな」

「そだね。ベンチで足揉みしてら」


 茉莉が幸雄に視線を向けると、控えとしてベンチのパイプ椅子に腰掛けて足を揉んでいるのが見えた。茉莉はそれを見て、少しだけ残念そうに眉を下げる。


 その間に試合のホイッスルが鳴り響いたので、茉莉はハッとしてグラウンドに視線を戻す。先発のメンバーとして、真人が早速グラウンドを走り回っていた。


「真人くんは9番のユニフォームなんだね」

「うん。うちのサッカー部のエースストライカーだしね」

「1年からレギュラーだし、すげーよな。背番号9は2年からだけど」


 1年生の頃から活躍していた真人は、3年の先輩を差し置いて背番号9番をつけている。飛び抜けて素早く積極性もあって、得点力が高いのだ。

 

「エースストライカーって言ったら、サッカーで凄い人よね?」

「そうそう。真人は頭の回転も早いから状況判断も上手いし、ここぞって時に得点決められるからな。期待通りのエースストライカーだよ」

「いやいや。期待以上かもよ? なんたって、由美ちゃんが来てくれるって分かってんだから」


 なんて、拓真が調子のいいことを言っていると、早速真人が得点を決めたようだ。グラウンドで真人がチームメイトに囲まれて、盛り上がっている。


「いつの間に」

「今の凄かったよ。3人にマークされてたのに、ボールを高く蹴りあげてマークをスルッと抜けてね。最後、ボールを自分でヘディングして入れたの!」


 一部始終を見ていた茉莉が興奮した顔で教えてくれた。


「へえ、流石」


 ここからは集中して応援をする。しかし、なかなか集中をさせてくれないのは真人ファンの女子達だ。真人が一番最初に点を決めるものだから、応援なのかアピールなのかわからない黄色い声が飛び交っている。


「……ちっ」


 妬みか僻みか、得点を入れたストライカーだからなのか、相手チームの真人に対する当たりが強くなる。徹底的にマークされてしまい、なかなか思うように動けていないようだった。


「ああっ。危ないっ……!」


 女子達は真人に夢中でボールなど見向きもしていないようだが、試合を見に来た茉莉達はきちんとボールを目で追っている。


 今はゴール間近まで攻められおり、キーパーがそのボールを弾いた。


「ああー……」


 しかし、弾いたボールをヘディングでシュートされてしまった。ブロックのしようもなく、あっという間の同点である。


「真人くーん!」

「こっち向いてー!!」


 と言う声は今のシーンには場違いなはずなのだが、あまりにもその手の声が大きい。


 茉莉はモヤモヤしてしまい、ムスッと頬杖を着いて試合を眺めている。


。。。


 モヤモヤとした気持ちは真人もだが、チーム内にも漂う。それが影響してか、動きが全体的に最初よりも鈍ってしまっている。


「うわっ」


 洋極学園のディフェンダーの2年が、足を引っ掛けて転んでしまった。それだけならばサッカーではよくある事だが、ここは無理にでもボールを外に出しておきたかったところ。そのままあっさりと2点目を取られてしまう。


「サッカーって、もっと膠着する感じの試合じゃないの?」

「普通はね。相手が強豪ってのもあるけど、調子が上がらないんだよ」


 純也はグラウンドから目を離すことなく、茉莉の疑問に答えてくれた。茉莉がその隣の拓真に視線を向けると、拓真もグラウンドに釘付けの状態になっている。


「特に真人はここからきついぞ」


 茉莉が視線を戻した途端、拓真の悔しそうな声が聞こえてきた。


「え?」 

「相手の強力なマークに、苦手な類の声援だからな」

「やっぱり? おかしいよね。応援なんかじゃないもん。あんなの! 真人くん以外、何も見てないじゃない」


 茉莉はグラウンドから女子達に視線を向けると、ついイライラとしてしまう。ボールを奪われてしまった時に「もうっ」と膝を叩いて悔しそうな顔をした。


。。。


 その後はなんの展開もなく前半が終了。ハーフタイムを取って後半戦に入る。それと同時に幸雄がウォーミングアップを始めたので、そろそろ交代するのだろう。


「幸雄が入りそうだよ」

「本当。幸雄くんはどこのポジションなの?」

「ディフェンダー。4番だよ。あいつはとことん攻めるってスタンスよりも保守派だし、機転が利くからかなり合ってる。あいつも1年の後期辺りからずっとレギュラーなんだ。ディフェンダーの中では、司令塔みたいなとこかな」

「凄いのね!」


 茉莉がそう言って幸雄を見つめる。キラキラとしたその眼差しは、真人を見る女子の目に少しだけ似ている。

 

「ふふ。後で直接幸雄に言ってあげてよ。あいつ、調子に乗るから」


 拓真がからかうようにそう言うと、茉莉もくすっと笑って返した。

 

「それで試合に影響が出ないなら、伝えるわ」

「あはは。あいつの場合、少しくらいは調子に乗らないと、とことん保守だからな。煽ててやるくらいが丁度いい」


 と拓真が笑うので、茉莉は後で昼休憩の時にでも伝えてやろうと思った。お昼の後の試合にも出るのかは分からないが。それくらいしか伝えられる機会もない。


「あ、変わったみたい。頑張れー! 幸雄くん!」


 茉莉が幸雄に声をかける。試合中なので応えてくれる事はないが、聞こえていたことは目が合ったことで伝わった。茉莉は満足そうに、またボールを目で追いかける。


「頑張れ……か」


 幸雄は小さな声で呟いた。そして、パチッと両頬を手で叩くと、ボールの動きに集中する。これ以上点を取られる訳には行かない。何としても前にボールを送らなければならないので、必死である。

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