これを『奇跡』と 1
プロローグです
突然だが、私立高校は学費が高い。
それを知ってなお多くの人が受験するような私立高校には何があるか。
ーーーそこにしかない『何か』があるのだろう。
そしてまた突然だが、私立高校の中でも特に学費、倍率が桁違いな場所がある。
そんな高校には何があるか。
そこにしかなく得難く素晴らしい『何か』が、あるのだろう。
ーーーというかあってください!!
私、こと玉木円椛は、勉強はまあ得意な方の凡人として、今から15年と少し前、日本の一般家庭に生を受けました。
小学生、中学生…と順調に普通で平和なライフステージを進んでいたところでしたが、高校受験で転機が加速度を持って転がってきました。
その転機に追い立てられ、とある超有名ハイレベル私立に入学することになってしまいました。
ちゃんちゃん。
………じゃない!!!
とにかく、私の身に起こったことを、もう少し詳しくお話しさせてほしいです。
・・・
私は元々、近くの公立高校に進学することを目指していて、私立高校は滑り止めとして受験する予定でした。
私が住んでいる街のあたりの私立高校は、受ければ受かるようなところが一つ、中級程度の学力が必要なところが二つ、ちょっと遠めの場所に色々と桁違いにレベルの高いところが一つあります。
昔から勉強に関してはトップに近い成績を残してこれたので、中級程度の学力が必要なところのうちどちらかを受験しようと思っていました。
けれども………
あろうことか………
私、受験票を出し忘れたんですーーー!!
その時点で、例の桁違いなレベルの学校・「赤誠学院」以外、受験票が間に合う私立高校はありませんでした。
本命の公立受験本番が初めての受験本番、っていうのはまずい、力試しと雰囲気を味わってみるつもりで、赤誠を受けておいたらどうだ、という進路指導主事の先生のお言葉丸呑みエクストリーム!
赤誠学院を受験しました。
難関校らしい捻りの効いた問題でしたけど、思ったより解けたな、くらいの感触で受験を終え、受験会場の教室から廊下に出たとき。
……ここでイレギュラーの発生が始まります。
「き、君!ちょっと待ってくれ!とりあえず帰らないでくれ!!」
「へっ?」
スーツに合わせて体作った?ってくらい顔立ちと体にパーフェクトマッチなスーツを着た方…いや人型を取るスーツの思念?が何やら大変慌てた形相でやってきました。
走られたんでしょうか、肩で息をされています。
40代、後半ってところに見えます。後ろから絵に描いたような執事服の執事さん(つまり執事さんです)も「お一人で突っ走っらないで下さい…!」とか小声で文句を垂れながら走ってきました。
教室の引き戸の真ん前(今思えばちょっとお邪魔でしたね)で、扉と並行に向かい合う私となんかすごそうな大人の方二人というシュールな画面が完成しました。異様です。
私立の広い校舎、というか廊下でも、この画面はどう考えても目を引くもので。
「あの、えーっと……?」
どちら様ですか、と、ご用件は何ですか、のどちらから問おうかと私が思巡している数秒の間にも、周りの受験生の間に騒めきが広がっていきました。
その騒めきを察知したらしいお二方は、
「こちらに」
と私に短く言って、半ば引きずるように私をどこかへ連れ出しました。
どん。
両開きの扉って、大体大事な部屋なんですって。
へー!
………はいりたくないぃぃぃぃぃ!
「どうぞ」
いや入りますけど。
長いものには張り切って巻かれましょう…
「失礼します…」
まず目に飛び込んでくるのは、敷き詰められた緋色の絨毯。人が乗っても毛が立っているようで、自分がほんの少し浮いている気がします。
「ふっ、ふわふわぁ」
思わず小声で漏らしてしまうほどです………!
というかこれは私なんぞが踏んではいけないのでは?私が絨毯様に踏まれるべきでは?
スーツさんと執事さんは何やら奥のデスク横に移動されました。
部屋自体は、横幅より入り口から最奥までがやや長く、長方形をしています。壁は土壁?風ですね。いい感じの黄土色で…たまに何かキラキラして見えますが気のせいでしょう!
他には私の、と言うより扉の前に立派なローテーブル、両側に革張り(素人目にはそう見えます)のソファが二脚ずつ。その更に奥にローテーブルと同じくらいの天板のデスク、セットで座り心地最高であろう椅子。家具は全体的にチョコレート色で、統一感と高級感があります。デスクの右後ろにはすごそうな壺、旗立台。校旗が立てられています。
最奥の壁には閉まったカーテンが掛かっているので、デスク背後は窓でしょうか。ベルベットとでも言うのか、完全遮光というか、何だか重そうなカーテンです。
右の壁に沿って私の身長くらいの棚がびたぁとついています。同じ高さの棚が、部屋の端から端まで隙間なくついていて凄い威圧感です。棚の上には芸術的(多分)な絵などの連ねたるが、三つ四つ、二つ三つと、飛び急ぐこそあわれなり。あ、実際には3枚あります。
左の壁は、歴代お偉方の写真が天井寄りに掛かっていますね。写真下には、これまた綺麗(?)な細工付きの、上半分は開き戸なタンス(?)。そのタンスは二つあり、挟まれる形で、私目視録史上過去1薄いテレビが壁にくっついています。あとテレビの下にも壺が3つ。台に乗ってます。
なんてお部屋見学やっていると、例のお二方が何やらこっちをたまにチラチラ見ながら何か話しています。地味に聞こえません。さっきの私の「ふっ、ふわふわぁ」とかいう一人言も聞こえていないことを祈ります!
んー、何か執事さんに高確率で見られてますね…
………はっ、私の何かがお気に召さないのでは?!
身だしなみは大丈夫でしょうか!コートって脱ぐものでしたっけ?あと座っていいと言われるまではどこに立っていればいいのでしょうか?あれ、もしかして先に名乗った方がいいですか?
よし、名乗りましょう!!
私はササッとサイドテールの毛先を整えて背筋を伸ばし、「ご歓談中失礼します。ご挨拶が遅れ申し訳ありません」と声を掛けました。
そして左手を上にしてお腹の辺りで手を組み、完璧な30度の礼を取ります。
「お初にお目にかかります。私は桜井市立桜井北中学校から参りました、玉木円椛と申します。本日は貴校の入試を受験させていただきました。」
しばし沈黙。
………お二方の目がとんでもないことになってます。何とは言いませんがくれぐれも落とさないでください!
あとご挨拶のお返事がないんですが?まだ何か言うことありましたっけ…?いや、でも私ってよく考えたら連れてこられた身………そんなに気をつかわなくてもいいのでは?
たっぷり30秒は待って、とりあえず何とか言ってください!!って本気で思い始めた頃、やっとスーツさんが口を開きました。
「こちらこそ、強引に連れてきた挙句、放置してしまい申し訳ない。私は中田隆司郎、ここの理事長をしている。」
「っ!!」
咄嗟に声が出ませんでした。
スーツさんもとい、中田隆司郎ーーなかたりゅうじろうさん、理事長先生だったんですか?!!
スーツさんって失礼でした…まあ誰でもそうですが…
ーーーって、じゃあここ………!
「どうしても君に話したいことがあってね。人前で話せるようなことではないから、近かった理事長室に場所を移させてもらったよ。」
「はい…」
ハッキリと答えをどうも…
「是非掛けてくれ」
「ありがとうございます」
鞄をソファの横に立てかけ、コートを脱いで中表に畳み鞄の上に載せてしまいます。
勧められたソファに腰を下ろふ、ふっ!ふわふわ…?!革張りなのに何て心地よい反発……!
思わず座面を2、3度押してみてしまいます。
「ははっ、あまりに素晴らしい挨拶をくれたものだから中身はもう大人なのかと思ったら、子供らしいところもあるようだね」
感動が顔に出ていたのか、対面に座られた中田さんがニコニコとこちらを見ています。
「大人だなんて、私はまだまだです。ただ、知る機会がありましたから…」
それに、アレは機会と言うより………
「まあ、自分のものにしているのは凄いことだ。ところで、本題だが…」
と、突然の本題………!
中田さんがゆっくりと足を組まれる。
膝の上で両手を緩く組んだ。
首を右に15度ほど傾け、上目遣いで私を見上げてくる。
なんというか、自信と凄みのある笑み………そう…俗にいう「キメ顔」をされて……なんか左後ろに控えてる執事さん片手で顔を覆って項垂れてしまってますけど………?
「まず。君は超能力者で間違いない?」
静寂。
………………時が止まったので、超能力者は貴方です。