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009 アーマードギアの燃費

「負けましたわ。もう少し保つと思ったのですが、リアクターの水残量を見誤ったことが最大の敗因ですね」

 やや悔しそうにしながらも、さっぱりした様子で言いながら手を差し出すエリカの手を、マリナは握った。


「正直、最後の攻撃はヤバかったけどね。シールド保たなかったらどうしようかと思っちゃったよ」

「それにしては、余裕がありそうですが」

「んー、精製水の残りは半分くらいになってるし、そこまで余裕はなかったかな」

茅吹(かやぶき)さんは3戦目か4戦目でしょう? わたくしは2戦目なのに使い切ってしまいましたのに」

「省エネで闘ってるからね」


 実際のところ、マリナは精製水の消費量を気にしてはいない。と言うより、戦闘中にそれを気にしていたら、その隙を突かれてあっと言う間に劣勢に立たされてしまうだろう。

 オーキス・リアクターの燃料たる精製水の残量を意識するのは、戦闘が終わった後だ。


鷹喰(たかばみ)さん、動ける? 駐車場まで連れて()うか?」

「大丈夫です。キャパシタもありますから、コンテナまで歩く程度は問題ありませんよ」

 ギアの動力であるオーキス・リアクターが停止すると、自分の筋力だけで動かさなければならないので、非常に体力を必要とする。しかし、オーキス・キャパシタにオーキス・エネルギーを蓄えておけば、しばらくは動くことも可能だ。容量はたかが知れているので、戦闘行動は無理だが。


「それなら良かった」

「それにしても、アーマードギアというのは燃費が悪いですね」

「うん、ほんと」

 エリカの言葉に、マリナもしみじみと頷く。ライブギアなら、オーキス・リアクターに精製水を満充填しておけば、少なくとも2週間は水の補給は不要だ。しかし、アーマードギアのリアクターにはライブギアのそれよりも多くの水を充填できるのに、僅か数時間でマリナの水は半分近くになっているし、エリカに至っては使い切っている。


「事前に聞いてはいましたが、実際に動けなくなってみて初めて実感しました」

「だよねぇ。あたしも、こんなに精製水の減りが早いとは思わなかったもん」

「それでも、茅吹さんにまだ半分ほど残っているということは、わたくしの動きにはまだ無駄が多いということですね」

 エリカの精製水が尽きたのは、動きの無駄よりも最後の攻撃で一気にエネルギーを放出したことが原因ではないかとマリナは考えたが、それも含めて無駄と考えればエリカの自己分析も間違ってはいない。

 しかし、『そうだね』などと同意してしまってはエリカの不手際を認めるようなものなので、マリナは曖昧に頷くに留めた。


「疲労も少し取れたので、わたくしはコンテナに一度、戻ります。水を補給すれば、あと1回くらいは闘えるでしょう。茅吹さんはどうなさいます?」

「あたしはこのまま、相手を探すよ。また校庭に出ようかな」

「では一旦お別れですね」

「うん。まだ初日だし、最後まで頑張ろうね」

「ええ」


 マリナはコンテナルームに戻るエリカを見送り、続けて始まった対戦を見学しつつ、次の対戦相手を探した。

 しかし、体育館で声を掛けた相手には対戦の承諾をもらえず、校庭に戻った後に見つけた同中学出身の生徒に声を掛けて対戦した。

 エリカとの対戦で第2装甲を一部破損していたが、その状態での戦闘を経験しておきたいという目的もあったので、勝ちには拘っていなかったが、危なげなく勝利し、ポイントを1つ増やした。



 ××××××××××××××××××××××



 4回の対戦を終え、持ち点を6ポイントとしたところで、マリナは今日の争奪戦を終えることにした。ギアが破損したまま続けるのも躊躇われたし、時間も残り少なくなっていたこともある。


 ギアが試作品ということもあり、破損部分の補修が一晩で終わるか心配だったものの、レイカは「問題ないよ」と請け負ってくれた。


「あ、そうだ。レイカさん、質問があるんですけど」

 アーマードギアとアンダースーツをトランクに納めた後、制服を身に付けながら、マリナは言った。


「ん? 何?」

「鷹喰さん、あ、3回目に対戦した相手なんですけど、武器の剣からレーザーの刃を伸ばしていたんです」

「ああ、いたわね」

「その時は何も思わなかったんですけど、彼女の剣にはケーブルも何も繋がっていなかったし、大きさからしてオーキス・リアクターもオーキス・キャパシタもないと思うんですよね。どうやって、あんなに長くて出力も大きいレーザーを長時間維持できたんでしょう?」


 マリナはそのレーザー・ソードを、オーキス・ブースターを使った高出力の電磁シールドで防いだが、ブースターがなければ防ぎきれなかった。それだけのレーザーを生み出すエネルギーを、どうやってあの剣に供給していたのだろう。


「ふうむ。詳しくは見ていなかったわね。ちょっと待って」

 レイカは、空間に投影された画面に、マリナのアーマードギアが撮った映像を映し出した。もう一人の研究員も、マリナと一緒に覗き込む。


 エリカが正面に構えた剣が、3つに割れる。そこから見ている3人に向かって伸びて来るレーザー。マリナが避けたことでサッと視点がずれる。

 レイカはそこで画像を停止し、エリカの手元を拡大表示した。


「……うーん、これは多分、掌からエネルギー供給してるねぇ」

「掌、ですか?」

 マリナは首を傾げた。


「おそらく。どう思う?」

「主任の意見に賛成です。装着タイプのギアで掌から供給するものは初めて見ますが」

 レイカに意見を求められた研究員も同意した。


「じゃあ、手袋に電流を流している感じですか?」

 マリナは『手袋』と表現したが、小さいが無骨な装甲板で覆われているので、ガントレットと言った方が相応しい。


「元々、指先まで電流は流れているのよ。アーマードギアは指の動きも補助するからね、指先まで人工腱が入っているから。けれど、レーザーを撃ったりレーザー・ソードの刃を作るには相当量の電力が必要になるからねぇ。マリナちゃんのギアのオーキス・ブースターみたいに、新しく開発した技術を仕込んであるんだろうなぁ。せっかくの機会に新技術を試したい企業も、ウチだけじゃないだろうし」


 つまりは、エリカのアーマードギアもマリナのもののように、試作品の可能性がある、ということだ。実戦に出してくるくらいだから、たとえ試作品であっても見かけ倒しということはなく、十分に実戦に耐える得る性能を持っているはずだ。


「じゃあ、他にも新技術を使っている相手がいるかも知れないですね」

「そうだろうねぇ。だから、出来るだけたくさんの子と対戦して、可能な限りの情報を集めてねぇ」

「はぁい、頑張りまぁす」

 レイカの言葉がなくとも、ポイントを稼ぐために積極的に対戦していくつもりだ。今日はまだ様子見の部分もあったが、明日からは高ポイント所持者を狙って対戦を申し込んで行くべきだろう。



 ××××××××××××××××××××××



 翌日登校すると、男子争奪戦初日の結果が発表されていた。

 初日での1位の生徒の取得点数は14ポイント。2位の生徒が8ポイントだから、1人だけ飛び抜けている。

 6ポイントを取得したマリナは同率の7位。滑り出しとしては好調だ。


「マリナ、1年ではトップじゃない」

 ミレイがブレスレット・デバイスで表示させた画面の途中経過を見ながら言った。


「昨日はみんな、あまり積極的じゃない感じだったからじゃないかな」

「まだ様子見ってことか。ワタシも軸調整した後、一回しかやらなかったし」

「今日か明日くらいから本気を出してくる感じかな?」

「そうだね。ワタシも昨日の対戦で少しギアの調整してもらったし」

「ほかの人も装備を変えたりするかな」

「そういう参加者もいるだろうねぇ。ワタシも武器を変えようか考えたもん。今から変えたら返って不利になると思って、考え直したけど」


 2ヶ月間、争奪戦に合わせて練習を重ねて鍛錬してきた武装を変えるのは難しいだろう。


「昨日のデータがあるから、今日からは対策も立てられているだろうし、昨日よりも気を引き締めないとね」

「え? だけど同じ対戦相手との再戦はないよね?」

「だけど、対戦中に見学はできるんだもん、対策は練られていると考えるべきだよ。ってか、あたしも考えてるし」

「ああ、そっか。そこまで考えてなかったな。今日はそれも考えてよく見ておこ」


 マリナも、昨日の争奪戦でギアで撮影した映像を、短い時間ながらも確認して来た。ミレイは確認していないようだが、マリナ以外にも同じことをしている生徒はいるだろう。


(日を追うごとに情報は増えるからねぇ。切札をどれだけ隠せるか、が肝だよね)

 マリナは午後の争奪戦に向けて闘志を燃やした。


 ……その前に午前の授業があるが。

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