表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/41

008 剣vs槍

 マリナは2人目の対戦を申し入れたクラスメートにも勝利した。ミレイもそうだったが、2人目の対戦相手も学校で斡旋したアーマードギアを装備していた。訓練も、学校の講習だけだろう。

 その点では、試作品とはいえオーダーメイドのアーマードギアを用意し、なおかつ放課後だけとはいえ2ヶ月間の猛特訓をしたマリナのアドバンテージは大きい。


(そうは言っても、そのうちみんな戦闘にも慣れて来るだろうから、今のうちにポイントを取っておくべき……とも言い切れないよね。ちまちま1ポイントずつ増やすより、高ポイント持ちに勝った方が効率がいいし。

 ってことは、今日はあまり勝て無さそうな子と勝負して、明日とか明後日とかから高ポイント狙い……いやそれより、どう頑張ってもあたしじゃ勝てなそうな子と今のうちにやっちゃうべきかな……)


茅吹(かやぶき)さん」

「はいっ!!」

 つらつらと争奪戦の戦略を練っていたマリナは、後ろから突然声を掛けられて、飛び上がるほど驚いた。


「そんなに驚くことではありませんのに」

 振り返ったマリナをクスクスと笑いながら見ていたのは、クラスメートの鷹喰(たかばみ)エリカだった。

 マリナのアーマードギアと似た色合いの、白を基調としたギアを身に付けている。マリナは白地に緑だが、エリカのギアは白地に青で、マリナの物よりも白い色が多い。

 装備は剣と盾で、エリカのスラっとしたスタイルとも相まって、一見するとひと昔前に流行ったアニメに出て来る騎士にも見える。


「そこまで驚いてないけど。何か用?」

 まだドキドキしている心臓の動悸を誤魔化すように、マリナは聞いた。


「そんなに邪険にしなくても」

「そんなつもりはないんだけど」

「そうですか? では、茅吹さんに争奪戦の対戦を申し込みます」

 マリナは目の前のエリカの情報を確認した。網膜に投影された情報によるとすでに1勝しているようで、2ポイントを所持している。


「鷹喰さんは、何戦目?」

「受けて戴ければ、2戦目になりますわ」

 ということは、まだ負けなしということになる。1戦しかしていないのだから、全勝か全敗のどちらかしかあり得ないのだが。


「うん、いいよ。場所はどこにする?」

 今、校庭では6戦が同時に行われていて、場所が塞がっている。


「体育館はどうですか? 空いていなければ待つことにして」

「解った。じゃ、行こっか」

 2人は体育館へと行った。


 伊久佐野高校は校庭も広いが体育館も広い。体育館では、50メートル四方のフィールドが2面用意されていた。

 マリナとエリカが体育館に入った時には2面とも戦闘実施中だったが、ちょうど片方が終わったようだ。すぐに1つのフィールドの電磁シールドが消えた。


「争奪戦が終わってしばらくは、体育館使えないね」

 マリナが零した通り、体育館の床は戦闘で酷いことになっていた。補修ロボットが走り回り、穴に瞬間硬化セメントで応急処置をしている。


「床は全面、作り直しになるでしょうね」

「争奪戦も、今と後半だと足場の感じが違いそうだね」

「ええ。……そろそろ終わりますね。始めましょう」

 エリカが呼んだドローンを中継して、 2人に対戦の意思が確認され、位置に着く。

 マリナは第2装甲を装着、武器の槍を展開する。


(鷹喰さんとしては、狭い方がいいんだろうな。装備が近接戦闘向けみたいだし。でもこれだけ広ければ、校庭とそんなに変わらないかな)

 エリカも第2装甲を装着している様子を見ながら、マリナは考える。武器のリーチではマリナが有利だが、肉薄されると不利になる。


「1A13・鷹喰(たかばみ)エリカ対1A6・茅吹(かやぶき)マリナ、勝負、開始」

 ドローンの合図と同時に、エリカはマリナに向けてまっすぐに突っ込む。マリナも槍を構えて思い切り前に飛び、着地と同時に足を踏ん張ってエリカに向かって槍を突く。


 槍がエリカの胴体を捉えるか、と思えた瞬間、エリカは横に跳んでマリナの攻撃を回避、身体を回転させて勢いを乗せ、マリナに横薙ぎの斬撃を浴びせる。

 マリナは即座に槍のウィングを展開、超伝導スラスターを片方だけ外側に噴射し、槍でエリカを殴る。エリカはマリナへの攻撃を中断して飛び退いた。


 マリナは体勢を整えて槍を構える。エリカは攻撃のためにはマリナに近付く必要がある。そう判断してマリナはエリカの出方を見る。


(ここはアレを使おうか……いや、まだバラすのは早いかな。ここは鷹喰さんが仕掛けてくるのを待って……)


 エリカが再び突進してくる。が、次の瞬間その姿がマリナの視界から消えた。


(え!? 左!!)

 ギアの索敵センサーが示したエリカの方向に向けて槍の向きを変える。しかし一瞬遅く、エリカの剣先がマリナの顔に迫る。


(ヤバッ)

 咄嗟に頭を右に倒した次の瞬間、剣先がそこを通り過ぎた。右に跳びつつ左に槍を振るう。

 エリカは一足早く上に跳んで槍を避け、振り被った剣をマリナに振り下ろす。マリナは槍で剣を防ぐ。


 キンッ。


 剣と槍が火花を散らす。

 エリカは剣を引きつつ床に着地、しかしマリナから離れず逆に踏み込んで横に斬り付ける。マリナはそれを槍で防ぐ。


(鷹喰さん、攻撃激しすぎっ)

 マリナはエリカの激しい剣戟を捌くだけで精一杯。自分から攻撃を仕掛ける暇もない。距離を取ろうとバックステップで下がっても、エリカはすぐに追い縋ってくる。あまり下がると戦闘フィールドの端に追い詰められてしまう。

 一度後退した後はそれ以上下がらず何とか踏みとどまり、ひたすらエリカの剣を槍で受け止めた。


(攻めきれないっ。これも捌きますかっ)

 一方のエリカの方も、マリナを攻めあぐねていた。槍の死角である懐に飛び込んで攻めているのに、すべての剣閃はマリナの槍の柄で防がれている。


 エリカはこの2ヶ月、男子争奪戦に向けて特訓を重ねてきた。剣を扱ったことなど生まれてこの方なかったが、専門の教師をつけてもらい真面目に取り組み、熟練とは言うべくもないが、短期間で中級者と辛うじて言えるくらいには上達した。

 アーマードギアも、自分の戦法に合わせた最高の物を用意してもらった。


 それなのに、同級生のマリナを圧倒できない。1戦目はすんなりと片が付いたというのに。きっとマリナも自分と同じくらいに特訓を積んだのだろう、と思うと同時に、初日でこれなのだから思ったより多くの強敵の存在を予想する。

 正直な話、エリカは予選突破くらいは楽勝と思っていた。しかし、2戦目でまさかの苦戦。自分の甘さを噛み締めつつ、今はこの対戦に注力する。


 一旦仕切りなおそうと、マリナの槍を刎ね上げるつもりで剣を逆袈裟に斬り上げるものの、それを防いだマリナの重い槍は僅かに動くのみ。


(厄介な槍ですね)

 そう思いつつ、バックステップで一旦距離を取る。マリナはそのチャンスを見逃さなかった。


「やっ」

 近接戦で防戦一方だったマリナは、離れたエリカに向けて槍を突き出す。エリカは半身になって交わすが、マリナはすぐに2撃目、3撃目と攻撃を続行する。


 先程までと攻守が交代した、中距離での戦闘。マリナはアーマードギアで底上げされた腕力を使って、重くバランスの悪い槍を目にも止まらぬ速さで突き出し、エリカはそれを身のこなしで躱し、盾で防ぎ、剣で捌く。


(この距離なら、いけるっ)

 マリナは、エリカを戦闘フィールドの電磁シールドに追い詰めていくつもりで、槍を繰り出す。しかし、マリナの攻撃はエリカに上手く躱され逸らされ、決定打にならないのはもちろん、追い詰めることすらできない。


 不意に、エリカが盾を正面に構えた。マリナの槍がその中心をまともに襲う。

 槍が盾に当たるタイミングに合わせて、エリカは後方に思い切り跳んだ。2人の距離が一気に開き、マリナも一先ず攻撃を治める。


「これほど苦戦するとは、正直、思いませんでした」

 息を整えながら、エリカが言った。


「今日まで、特訓の日々だったからね」

 マリナも息を整えつつ、笑顔で答える。


「ですが、それもここまでです。初日で使うことになるとは思いませんでしたが、これで決めさせていただきますね」

 そう言ったエリカは右手を上げて、剣先をマリナに向ける。その剣が、ガシャッと3つに割れた。次の瞬間、剣から光がマリナに伸びる。


(レーザーっ!)

 すかさずマリナは横に跳び、レーザーを避ける。しかしエリカが右手を振ると、レーザーがマリナを追いかけて来る。

 マリナは上に跳んでレーザーを躱し、それでも追いかけてくる攻撃を、背中の超伝導スラスターを起動して空中で避けるも、足を掠める。脚部の電磁シールドと干渉したが完全には防ぐことができず、装甲の一部が損傷する。


 マリナは床に着地し、次の攻撃に備えて構えるが、エリカも光線を収めていた。


「もしかして、レーザーソード?」

「もしかしなくても、そうですよ。出力もありますから、並のシールドは無力です」

(それはヤッバイね)

 先程の干渉を見るに“無力”は言い過ぎだろうが、それでもダメージはかなり大きいと見た方がいい。


(仕方ない。こっちも使おう)

 マリナは、槍からオーキス・リアクターを含むウィング部分を取り外し、背中に装着した。オーキス・リアクターの出力を落とし、ジェネレーターモードにしていたオーキス・ブースターをブースターモードへ。


「槍を軽くしたところでどうにもなりませんよ。これで決めます」

「あたしもただじゃやられないよ」


 ヴンッ。


 エリカの剣からレーザーの刃が伸びる。その彼女に向けて、マリナは正面から突っ込んで行く。


(オーキス・リアクター、出力8パーセント。3MW分の出力をシールドに回すっ)

「正面から来るとは、命取りですっ」

 エリカが、振り被ったレーザー剣をマリナに向けて振り下ろす。5メートルにまで伸びた刀身がマリナを襲う。


 マリナはエリカの攻撃を避けず、アーマードギアの電磁シールドで受け止めた。前の攻撃を受けた時にはオーキス・ブースターを起動していなかったのでシールドに回したエネルギーも知れたものだったが、今は争奪戦規定の最大出力1MWを超える3MWをシールドに回している。

 エリカのレーザーソードはマリナに完全に無効化された。


「はっ!?? そんなっ!!」

 エリカは近付いてくるマリナに合わせて刀身を縮め、さらに出力も上げる。しかし、マリナはそれを電磁シールドで完全に防ぎながらエリカへと迫り、構えた槍をエリカに向けて突き出す。

 その瞬間、エリカの剣からレーザーが消えた。マリナはエリカのフェイスプレートに当たる直前で、槍先を止める。


「……降参です。リアクターの水が切れました」

「1A13・鷹喰(たかばみ)エリカ対1A6・茅吹(かやぶき)マリナ、鷹喰エリカの降参により、茅吹マリナの勝利。茅吹マリナは2ポイント獲得。現在5ポイント」

  エリカが負けを認めると同時に、審判ドローンがマリナの勝利を宣言した。



 ……この調子で2週間分も戦闘シーン続くの?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ