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016 潜む者たち

 そしてまた、別の場所でも対戦が始まろうとしていた。


「同じクラスだからって、容赦しないよっ」

「それはこっちの台詞だぜ。ここで脱落してもらうからなっ」

 斧を構えた2年B組出席番号20番の竜胆(りんどう)スミレと、背中に巨大な2本の腕を備えた同クラス出席番号8番西剛(さいごう)コトナ。


 スミレの斧は、かつてマリナと闘った潮乃(シオノ)アスミの物と違い、ウェポンパックからの変形はしない、オーソドックスな物。長さは2メートルはあるだろうか。ただの斧にしてはゴツいので、何かしらの仕込みはあるかも知れない。

 対するコトナのアーマードギアは、足と身体は装甲装着タイプなものの、腕だけは外部マニピュレータータイプのようだ。背中から生えているような巨大な腕が、コトナの手に合わせて動いている。


 しばらく無言で対峙した2人だったが、コトナが両拳を打ち合わせるのと同時にスミレも動いた。拳を打ち合わせるという、ある意味無駄な動きをしているコトナに、高くジャンプしたスミレが大上段に振りかぶった斧を振り下ろす。


 バチッ。


 コトナは斧を左の巨腕で受け、電磁シールドが刃を跳ね返す。続けて右手でパンチ、右の巨腕がスミレに迫る。スミレは弾かれた斧の反動を使って空中で足を前方へ、迫るコトナの巨腕を蹴って自ら後方へ跳び、大ダメージを避ける。

 離れたスミレを追ってコトナは地を蹴り、左手でジャブ、スミレは素早く横に跳んで避けつつ、身体を回して斧を横に薙ぐ。

 スミレは右腕で斧を受け、身体の向きを変えながら左手でフック。スミレは斧の柄尻でそれを受けるが、巨大な腕を押さえきることなど当然できず、咄嗟に横に跳んだものの、身体を僅かに横殴りにされる。


 (くう)を飛びながらスミレは体勢を立て直し、辛うじて地面への激突を防ぐ。が、すぐにコトナが追ってくる。迫る巨大な拳に対して斧を横薙ぎに切り付け、その反動で拳打の射線から逃れる。


(思ったよりシールドが強いっ。見かけより速いしっ)

 スミレの斧も重量はあるものの、コトナの腕には遥かに劣る。その上、腕を振る速度もかなり速いので、正面からぶつかればどうしても斧の方が分が悪い。

 避ける勢いのままにコトナの横から後ろへとスミレは回り込むが、コトナも素早く向きを変えて対応してくる。


 巨腕が振るわれるより先に、スミレは振りかぶった斧を振り下ろす。

 ガチッと巨腕で防がれるが、それは想定済み。足に力を込めて大地を蹴り、上空へと跳ぶ。


「はっ」

 スミレは気合いを入れると、肩と足首の小型超伝導スラスターを起動、身体を勢い良く回転させて、コトナに向けて落下する。

 重力と回転力を味方に付けたスミレの斧が、コトナを襲う。コトナは左腕を上げて真っ向勝負の構え。


 ガギャンッ。


 斧が巨腕の電磁シールドを破り、装甲に僅かに喰い込む。


「やってくれるじゃねーかっ」

 コトナは左腕を上げたまま、右腕をスミレに向けて繰り出す。スミレは足首の超伝導スラスターを使い、斧の柄を支点にして身体を縦回転、辛うじて腕を避けるとコトナの左腕に立ち、その勢いのまま抜けた斧を振り下ろす。

 しかしコトナは左腕を振ってスミレのバランスを崩し、斧に脳天を割られる前に危機を脱した。


 振り落とされたスミレは膝をついた大勢で地面に着地、そこへジャンプしたコトナが巨腕の両拳を固めて振り下ろす。

 コトナは崩れた大勢のまま地を蹴って後ろに跳ぶ。超伝導スラスターの加速も使い、辛うじて巨大な腕の暴力から逃れる。


 ドッガアアァァァァンッ。


 地面にクレーターが空いた。


「ちょっとっ。そんなの受けたら死んじゃうでしょっ」

「てめぇが言うなっ。脳天カチ割りに来やがってっ」

 互いに、そう言われても当然の攻撃の応酬。


(けど、当たんねーなっ。当てても流されるっ。1発入りゃあ、決まるってのにっ)

 コトナはすぐに次の攻撃に移る。両手を機関砲のように連続で繰り出す。巨大な2本の腕が、スミレに連続で襲い掛かる。


 スミレは斧の刃を立てて巨大な拳を受けると同時に後ろへと跳び、林の中へと逃れる。コトナはそれを猛追、巨腕の連打で木々が吹き飛ぶ。

 スミレは拳と木を避けて林の中を走り、コトナの側方へと林から跳び出る。振りかぶっていた斧を思い切り横に振るい、コトナの背中に向けて叩きつける。


 コトナはスミレが林から飛び出た時にはそれを察知、振り向きざまに拳を振るう。巨大な拳の甲が斧の柄に当たるが斧の刃は僅かに背中を擦り、右巨腕の基部に傷を付ける。

 しかし致命傷にはならず、斧を弾かれてスミレの身体も吹き飛ばされる。


(やっぱり、あの腕以外のシールドは薄いわね)

 力はそれほど入っていないはずの攻撃で刃が通ったのだから、腕以外の防御は弱いのだろう。

 飛ばされたスミレは地面にズザザッと立つと、斧による連撃を繰り出す。コトナは両拳の乱打でそれを受ける。


 一見すると攻守がどちらなのか判らない、対等な打ち合いが続く。しかし、重量の不利から、スミレが徐々に後退してゆく。


(ヤベェな。攻めきれねぇっ)

 状況はコトナに傾いているように見えるが、このまま一進一退が続くとコトナのオーキス・リアクターが先に水切れを起こす。出力を少し絞るだけで数時間の活動は可能なものの、スミレとの対戦が始まってからほとんど最大出力を出したままだ。特に電磁シールドの出力が大きい。


 それはスミレも解っていたが、ただ相手の水切れを待つようなことはしない。コトナが焦りを感じた時の、一瞬の拳打の乱れ。その僅かな隙を見逃さず、スミレは斧で下から斬り上げると同時に手を離して空中に放り投げ、自身は身体を落としてコトナの巨腕の下を掻い潜り、素早く後ろへ回り込む。


「んなっ」

 コトナは一瞬、斧に視線を取られ、スミレを見失う。が、その場に留まる愚は犯さず、スミレが確実にいない前方へ、地を蹴って跳ぶ。


「はっ」

 コトナの後ろで身体を反転させつつ跳び上がったスミレは、空中で斧の柄を掴み、下へ落ちながら斧を振り下ろす。


 斧は、前方に跳び退きながら身体を反転させて防御の構えを取るコトナの右巨腕を掠めて地面に打ち付けられた。


 ドッガアッン。


 土が飛び散り、コトナの作ったものに比べるとささやかなクレーターができる。

 スミレは地面に刺さった斧をすぐに引き抜き、後退して斧を構える。コトナも、スミレに向き直って体勢を立て直し、両腕を構える。

 2人が同時に相手に向けて跳び掛かった瞬間。


 ドシュッ。


(なっ!?)

(何っ!?)

 コトナの太腿の後ろを掠めた弾丸が地面にめり込んだ。脚にごく小さな衝撃を受けたコトナはもちろん、スミレも弾丸(それ)に気付き、2人は最初の1歩を地につけるとすぐに横に跳び、林の中に身を潜める。


 ドッパァンッ。


 響き渡る銃声。


「何だ今のっ!?」

「狙撃、のようね」

「狙撃? また面倒な。そういや、何回かあの銃声が聞こえてたな。狙撃とは思わなかったけど。どこからだ?」

「正確な位置はわからないね。あなたの位置と弾丸が埋まった場所からすると、あっちの方?」

 スミレは人差し指で小さく方向を示した。コトナも目を向けるが、林に入ってしまったので周りが見えない。


「あっちは何があった?」

「公園の端に丘があるね。それなりの高さの」

 スミレは網膜に公園の地図を投射して言った。


「結構距離あるな。はぁ、それにしても、白けちまったな」

「そうだね。後で仕切り直そうか」

「だな。ここで続けて、また横槍を入れられるのもムカつくし」

「じゃ、この場は休戦で。わたしが仕留めるまで、撃たれないでよ」

「はっ。こっちの台詞だ」

 2人はフェイスプレート越しに笑い合うと、互いに別の方向へと別れた。



 ××××××××××××××××××××××



「はぁ、命中させるのは難しいわね。練習時間が短かったからなぁ」

 公園の端、高くなった丘に生える高い木の上で、3年生の副崎(そえざき)ネリイは自嘲した。その手には、長砲身の銃──レールガンスナイパーライフル──が握られている。


「やっぱり、バイポッドとか使って銃口を固定しないと、照準がずれるのは仕方ないか」

 しかし、木々が繁る公園で狙撃するには、高所からでないと無理だ。そのために木の上からの狙撃を敢行したのだが、3発に1発当たればいいところ。それでも、かなりの命中率ではあるのだが。


「まあ、今日のところは練習のつもりで、誰かが私に気付くまで続けようか」

 ネリイはスナイパーライフルを抱えて木から飛び降り、少し離れた別の木の枝に飛び乗った。



 ××××××××××××××××××××××


 黒いアーマードギアに身を包んだ、2年生の霧崎(きりさき)シノブは、公園内の森の中、木の上に潜んでいた。


(いた。次の獲物)

 目標を定めると、その進行方向を確認し、枝から枝へとまるで(いにしえ)の忍者のように音も立てずに移動し、太い枝の上で網を張る。

 枝と一体化したように潜むシノブに気付かず、彼女が狙いを定めた参加者が、周囲に気を配りつつ歩いてくる。


 ターゲットが真下に来ると同時に、その背後へとシノブは飛び降りた。両手に持った短剣の霞む刃が、目標のアーマードギアの背部のオーキス・リアクターを破壊する。


「あっ」

「はい、ざ~んねん。バッテリーが残っている内に助けを呼んでね」

 それだけ言うと、シノブは木の枝へと飛び乗り、次のターゲットを探して枝から枝へと飛び移る。


(これで4人目。次はっと)

 フェイスプレートの奥で、シノブの口角が上がった。

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