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014 バトルロイヤル開幕

 男子争奪戦特別イベント・バトルロイヤル。参加者73名、総ポイント数4350ポイント。

 ここで一人勝ちすれば、予選終了までの対戦を放棄するだけで予選突破も見えてくるポイント数だ。尤も、残り一人になる前に終了時刻を迎える可能性の方が高いだろう。

 マリナもそう考えて、短い期間に今日のための準備を進めた。上手く嵌れば、勝ち残れる筈だ。


 土曜日の授業が終わり、簡単な昼食を終えてアーマードギアを装着したマリナは、ギアなしでも持てる程度の大きさのトランクを持って、公園の入り口へと向かった。バトルロイヤルの開始は午後3時だが、公園への入場は午後1時から始まる。基本的にはポイントの高い参加者から順に、1分置きに入場する。

 入場時間に対象者が来ていなければ飛ばされ、入場が滞ることがないようにしている。


 マリナは時間通りに入り口に来て、予定通り午後1時12分に公園に入った。前日の争奪戦に参加できなかったマリナは現在18位まで順位を落としていたが、マリナより上位者でもバトルロイヤルにエントリーしなかった参加者がいるので、この時間だ。


 公園に入ったマリナはすぐに木の陰に隠れながら、前々日に目星を付けていた場所へと急いだ。戦闘の開始までは2時間近くあるものの、準備段階から駆け引きは始まっている。


 マリナの装備は今日のために、レイカにより少し手が加えられている。武装から外した超伝導スラスターを背中に装着しているので、武装からオーキス・キャパシタとオーキス・ジェネレーターを取り外し、代わりにバッテリーを取り付けている。

 電力よりもオーキス・エネルギーの方がエネルギーロスは少ないものの、オーキス・ブースターを搭載したマリナのアーマードギアでは、電力変換してから蓄えた方が効率がいい。ただ、充電のために本体と武装を繋ぐケーブルが必要になってしまったが。

 また、アーマードギアの色も白地に明るい緑から、紫地に暗い緑に変更して、視認性を下げているほか、各部装甲の裏側に携行食や飲料の収納スペースを作っている。


「ここら辺……あ、この丘だ。周りには……誰もいないね」

 右手に武器の槍、左手にトランクを持って歩いて来たマリナは、公園の端に近い、木々の生えている丘の前に立った。目視しても、センサーにも、ほかの参加者は見当たらない。


 マリナは槍とトランクを地面に置くと、トランクの中から手持ちのスコップを取り出して丘を削り、簡単な塹壕らしき物を造ってゆく。生身であれば重労働だが、アーマードギアやライブギアの補助があれば、それほどの労力は掛からない。

 その作業を半分ほど終えたところで、センサーが近付いて来る他の参加者の反応を捉えた。


 マリナは作業の手を止めて、造りかけの塹壕に身を潜める。バトルロイヤルの間、個人認証チップの情報は送受信されないため、センサーで検知しただけでは個人の判別ができない。今から拠点を造っていることを知られたら、バトルロイヤル開始と同時に襲撃を受ける可能性がある。


茅吹(かやぶき)さん、お待たせしました」

 マリナのセンサーに掛かったのは、クラスメートの鷹喰(たかばみ)エリカだった。

 エリカのアーマードギアも、白地に青のカラーリングから黒地に濃紺色に変えている。見た目ではそれ以外に判らないものの、他にも変更しているかも知れない。


「鷹喰さんで良かった。あと半分でできるから」

 マリナは、エリカと他2人のクラスメートにバトルロイヤルの間の共闘を持ち掛けて、3人もその提案に乗り、共闘が成立した。


「それなら、わたくしは予定通りに公園内を探索してまいりますわ」

「うん、お願い。あたしはここを仕上げちゃうから」

 エリカは持っていたトランクを置くと、立ち並ぶ木々の間に消えて行った。


 マリナが丘を利用した塹壕を掘り終わり、4枚の緑色のシートをペグで止めて簡素な天井を作った。使うのは長くても明日の午後6時までなのだから、本格的な拠点は必要ない。この程度の簡素なもので十分だろう。


 マリナが拠点を造り終えてからしばらくして、残る2人の共闘者もやって来た。


「ごめん、遅れちゃった」

「この子、迷子になってたから」

 志津屋(しづや)リコと芹澤(せりざわ)ナオコの2人。リコの持ち点は3ポイント、ナオコは2ポイント。2人ともポイントは少ないものの、バトルロイヤルを生き残れば、予選を抜けるチャンスは見えてくる可能性がある。

 ちなみに、マリナは100ポイント、エリカは82ポイントだ。


 ポイントに差があるのでリコの方が先に公園に入ったはずだが、予め共有しておいた拠点の位置が判らずに迷ったようだ。

 場所を決めたのはマリナだが、マリナにしても周囲の景色などから『だいたいこの辺り』としか決めなかったので、それも仕方ないと言える。


「あと40分はあるから、あたしとリコは他の人たちの偵察に。芹澤さんはここで待機で。集合は14時40分。高喰さんもそれまでに戻ってくるはずだから」

「はい」

「解ったわ」

「じゃ、絶対に見つからないようにね」

 マリナとリコは、拠点を出て公園内へと出て行った。



 ××××××××××××××××××××××



 バトルロイヤル開幕20分前。マリナたち4人は拠点に集合した。まずは情報収集の結果を持ち寄る。


「わたくしたちのようにグループを作っているのは、全体の4分の3ほどでしょうか。すべての参加者を把握したわけではありませんが」

「そのくらいかな。グループを作っていても、あたしたちみたいに拠点を構築しているグループはなさそうだったね」

「作ってても、ここみたいに隠しているだろうから、見つけられないだけだと思うけど」


 公園は広い。ざっと探索するだけでは、本格的に隠れられたら、見つけることは至難の業だ。 それに、マリナたちが他の参加者に見つからないよう気を付けていたように、拠点を造る参加者はその場所を隠すだろう。

 取り敢えず、3人それぞれが他の参加者を発見した場所を共有する。


「じゃ、計画通りに、今日のうちは荷物を狙って物資を削いで、リタイアに持ち込ませる。遭遇して戦闘になった場合、勝てそうになかったら逃げる。今日は午後7時にはここに集合して、午後8時から明日の朝6時まで、2人ずつ交代で5時間ずつの睡眠ね」

「わかりました」

「うん」

「オーケーよ」

「それじゃバトルロイヤル、全員生き残るよっ」

「「「はいっ」」」


 そして、トランクに用意してきた水やゼリー飲料で水分を補給し、2人ずつ組になって拠点を出た。

 マリナはリコと組になり、エリカ・ナオコ組とは別方向へ向かう。

 リコは、ミレイと同じく、同中学出身だ。濃紺の地色に灰色の模様の入ったアーマードギアに、武装は銃剣装備のレーザーライフル。

 マリナが中距離攻撃主体なのに対し、リコは遠距離攻撃主体なので、組み合わせは悪くないはずだ。


 ちなみに、ナオコはエリカと同中学出身で、黒地に橙色のアーマードギアに、リコと同じ武装を選択している。

 こちらも、近距離攻撃のエリカと遠距離攻撃のナオコを組み合わせている。


 マリナは、センサーを最大効力にして、音を立てないように木々の間を進んだ。ふと木の1本に違和感を感じ、足を止める。後ろのリコも、マリナに倣う。

 マリナはリコに、無言で前を指差した。マリナの指が指す先、木の幹に身体を隠すように、参加者の姿があった。バトルロイヤルが始まっていないからか、隠れてはいるものの警戒している様子は見られない。足元には、マリナの物より2回りほど大きいトランクが置かれている。


 2人は互いに頷くと、それぞれ近くの木に隠れた。リコはライフルを構え、マリナは目標を捉えつつも周囲にも注意を払う。


『現在14時55分、まもなくバトルロイヤル開幕です』

 突然、空から降ってきた声に、マリナもリコもビクッと身体を震わせた。バトルロイヤルの開始を告げる、審判ドローンの声だ。機械音声ではないので、教師がマイクを通じて伝えているようだ。


 マリナは武器の槍を握り直し、深呼吸した。網膜に時計を投影させて、開始時間を待つ。


 2分前……1分前……30秒前……10秒前、9、8、7、……。


 そして。


『バトルロイヤル、開始!』



 ××××××××××××××××××××××



 ビュシュッ、ビュシュッ、ビュシュッ。


 開始の合図と同時に、リコがライフルを3点バーストで撃った。3条のレーザーは狙っていた参加者の足元にあるトランクに向かい、2本がそれを貫く。

 ライフルの発射と同時にマリナも隠れていた木から飛び出し、相手に迫る。目標の武器も伸縮式の槍のようだ。一瞬、足元のトランクに意識が向いたが、すぐにマリナに気付き、武器を構えるとその先がシュンッと伸びる。


 突き出される槍を回避し、自分の武器で弾いたマリナは、槍先を開いて鋏にし、相手のトランクを挟んでぶった斬る。


 バキャッ。


 金属的な音を立ててトランクが2つに割れた。そこを狙って、リコが再び3点バーストでライフルを撃つ。さらにマリナも槍の穂先の上下の銃口から、至近距離のレーザーを放つ。

 液体や携帯食料が飛び散った。


 それだけやって、すぐさま後退、相手から離れて木の陰に隠れ、さらにバック。


「このやろっ」

 物資を台無しにされた相手がマリナに向かって槍を突き出すが、すでにマリナはそこにいない。


(遅いよっ)

 そう思いつつ、マリナは他にも敵がいないか注意を払いつつ、木々の間を逃げて、離れたところでリコと合流した。


「上手くいったね」

「うん。でも、もうちょっと離れないと」

「だね」

 そこから十数メートル離れて追手がないことを確認してから足を止め、息を整えてから、2人は次のターゲットを探して移動を続けた。


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