贈り物とカードゲーム
「あ~、母の日に贈り物しなきゃですねぇ」
夕食時にソラがカレンダーを見ながら言う。
(俺がなんか贈ったのはいつだったっけ? 小学生くらいか?)
「そうだな。なんか贈るか」
「ボクは大体食べ物をあげてますけど。自分ではちょっと買わない高いやつ」
「俺は・・・・・・最近何も贈ってない」
「そうですか・・・・・・じゃあお互いのお母さんへ贈りあいしませんか? それなら気が楽じゃないですか?」
そうソラが提案してくれる。
確かに身内に贈るよりも、知らない相手への方が決めやすいかも。
「わかった。少し日持ちする食べ物でいいのかな?」
「はい。予算はお互いに5000円、2日以内に決めましょう」
と、いうことで、お互いの母に贈る食べ物を考え始めた。
もちろん、現物を見て探すのは大変なのでネットで探す。
(どんなものがいいだろうか? やはり甘いもの? それともご飯に合うもの?)
思ったより難航していた。
俺は昼間の暇な時間にいくらでも探す時間があるけど、ソラは普通に仕事だ。
母も同じ女性だから、ある程度の好みが把握できるのだろうか?
迷った末に、俺の選択はクッキーとバームクーヘンにすることにした。
「贈り物、決まりました?」
低カロリー、高たんぱくの夕食を食べながらソラに聞かれる。
「このクッキーとバームクーヘンにしたよ」
「あれ? ボクもそのクッキーにするつもりでした」
まあ別のところに贈るのだから被っても問題ないのだが。
こんな膨大な選択肢のなかで、意外にも同じものを選んだ俺たちだった。
6月の初旬、梅雨が始まっていた。
「あれ? 早いね?」
「あ、はい。雨だったので今日は午前中で終わりでした」
「じゃあお昼ご飯を作るよ」
(冷凍ご飯でチャーハンでいいかな)
「早かったのは屋外で練習できないから、ランニングマシンとプールで少し泳いだんです。でも、屋内の練習時間は限りがあるので」
「ふぅん。アスリートもずっと練習できるわけじゃないんだね」
「もちろん筋トレはできますけど。たまには休憩も必要なので帰ってきました」
休憩も立派な練習の一部ということだ。
俺にはアスリートというのは年中練習漬けのイメージがあったから。
余りものを適当に入れて作ったチャーハンを2人で食べた。
味は可もなく不可もなく。
(あ、そうだ)
「ソラちゃん、カードゲームやったことある?」
「ずいぶん昔、小学生の頃にちょっとだけ」
「俺は長いことやってるんだけど、最近買ったやつを開けるついでに対戦相手になってくれない?」
「いいですよ。ルールを教えてください」
俺がプレイしているカードゲームは昔ながらの紙製ではなく、プラスチックの分厚いやつだった。
原価が安い紙だと保存が難しく、劣化しやすい。
そう言う理由から最近のカードはプラスチックになっていた。
2人でブースターパックを開けていく、1パックは3枚、1箱20パックで10パックずつ。
30枚から15枚を選んで戦う。
「あ~、これ、昔使ってました。まだ出てるんですね」
「まだ現役で使えるよ。開けて出たやつだけで対戦だからね」
「じゃあボクはこれをメインで使う感じにします」
4パックに1枚入っている、リーダーとなるカードを1枚決めて、3×3のフィールドに置いて、基本は上下左右の隣り合った場所に攻撃できる。
先にリーダーが20ポイントのダメージを受けたら負け。
大多数のカードはリーダーを補助するカードたちだった。
他のカードゲームと大きく違うのは、与えるダメージを6面のサイコロで決める点だ。
出た目に応じて、ダメージが決まる。
これはランダムな数字をすぐに出せるスマートフォンが普及して、手軽になっている。
ルールを簡単に説明して、ゲームを始める。
「こっちのリーダーのがスピードが高いのでボクの先行ですね」
ソラの先行だ。
初期の手札は3枚ずつ。
先行はカードを引くことができない。
(あのリーダーなら速攻型で組んでいるはず)
スピードが速いリーダーは先行が取りやすい分、本体の攻撃力が低い。
手下となるモンスターは自分の列の下部にしか出せない。
「1マス移動して、手札を1枚捨てて、モンスターを呼び出します。リーダーにロングソードを装備して攻撃です」
サイコロが振られる。
出た目は5、ロングソードを装備しているのでダメージに2ポイントの追加がかかる。
俺のリーダーは6点のダメージを受けた。
「俺の番、1枚引く。リーダーを右に動かして、モンスターを2体出す。そして転移の魔法陣を使って移動させる」
これでソラのリーダーを囲んだ。
ひとまず俺は自分のリーダーを守ることに専念する。
そのうちに攻め込むタイミングが来るだろう。
数ターンの攻防が続き、終盤。
「リーダーで攻撃します」
ソラのサイコロの出目は1だった。
3以上を出されていたら負けだったが、運に勝つことができた。
「俺が2以上で勝ちだな」
俺はサイコロを振る。
出た目は2、ギリギリで勝つことができた。
「あー、負けちゃったか~。もう一回やりましょ!」
(見かけによらず、負けず嫌いなんだな)
眠たそうな目元だから、そう錯覚するだけで、プロのスポーツ選手は負けず嫌いじゃないとなれないだろう。
こうしてソラの性格の一面を知ることができたのだった。