ゴールデンウィーク
ソラと暮らし始めて一月ちょっと、だんだんとお互いの距離感も縮まってきたと思う。
相変わらず、俺は名前にさん付けされて呼ばれているが。
明日からはゴールデンウィーク、ソラも5連休ということで夕食を食べながら、どこかへ出かけるか尋ねてみる。
「ソラちゃん、明日から休みだよね、どこか行く?」
「う~ん、特にないですね。とりあえず明日は寝ていたいです」
「そっか」
短い会話で終わってしまった。
たまの休みだし、疲れを取ってほしいとは思うけど。
でも、せっかくの休みだからもっとソラのことを知りたいと思うのだ。
普段は朝早くから練習で家にいないし、疲れて帰ってきて風呂に入って、ご飯を食べて、ちょっとゆっくりして部屋に戻って寝る。
それがソラの平日の過ごし方。
休日はというと、
「ちょっと出かけてきますね」
そう言って出かけてしまう。
帰ってくるのは、大体普段通りに夕方。
俺は特に行先を聞いたりしていなかった。
俺たちが一緒に過ごすのは、平日の夕方、休日の朝、夕くらいだった。
(・・・・・・実は俺のことがとても嫌いで避けられてるとか?)
別に会話が全くない、ということもない。
夕食時に普通にテレビを見ながら会話はするし。
・・・・・・でもその程度。
少なくとも俺は、そんな相手と暮らしていくのはイヤだった。
どうせならソラと仲良くしたかった。
なんとかこの休みを使って距離を縮めたかった。
(何かないものか)
とはいえ、5月にやる行事など特に思いつかない。
(子供の日があるけど、鯉のぼりを見に行くとか?)
俺はスマホで何かないか調べてみる。
(そもそもソラはアウトドア派、インドア派どっちなのだろう)
体を動かすことを仕事にしている以上、おそらく外での活動は好きなはずだけども。
色々調べていて1つ、良さそうなものを見つけた。
それは潮干狩りだ。
(採った貝で料理を作れば食費の足しになるしな)
ただ問題になるのは、浜辺は同じ目的で人でごったがえしている可能性が高いということだ。
まともに潮干狩りができるのかと言えば微妙かもしれない。
(・・・・・・お、有料の区画なんてあるのか)
普通の浜辺と異なり、地下で区切られて、きちんと管理されて、稚貝が多く放流されている区画らしい。
要するに釣り堀みたいな感じのようだ。
子供連れならともかく、大人2人で行くのだから坊主で帰るのももったいないしな。
(よし、ここにしよう)
問題はソラが行く気になるか、というところだが。
まあ断られたらその時はしょうがない。
「いいですよ、潮干狩り。行きましょう」
翌日の朝食時に話したら、あっさりOKされた。
ソラはスマホで干潮時刻を調べて、
「でも今日は疲れをとらせてください。潮が引く明日の朝から行きましょうよ」
「うん、そうしよう」
と、いうことでさらに翌日。
朝食を済ませて、朝8時に出発する。
ゴールデンウィーク中の車での移動は困難を極めるため、徒歩で向かえる近くの駅から海へと向かう。
一番近い潮干狩りのできる海辺までの所要時間は50分くらい。
その駅から徒歩20分ほどで着くらしい。
もちろん特に荷物も持っていない、お金さえあれば、すべて滞りなく、潮干狩りをして採った貝を持ち帰れるとのことだ
海辺への最寄り駅へ着いた。
整備された広い道をソラと並んで歩く。
俺の方が身長は高いが、意外にも歩幅は一緒くらい。
「ソラちゃん、歩くの合わせてくれてる?」
「? ああ、ボク、陸上競技でもハードル走の選手なんで、これがその一歩なんです。普通より少し一歩が大きいですよね」
ソラはハードル走の選手らしい。
俺たちはしばらく並んで歩き、目的の海辺までたどり着いた。
「すごい人の数だな」
「そうですね~」
見える範囲だけでも数百人くらいいる。
一番子供連れが多く、次いでガッツリ取るタイプの装備をしている人たちが見られる。
みんな安くレジャーを楽しむために来ているのだろう。
「混んでるけど、あっちのネットで区切られた場所は空いてるな」
俺たちが利用する予定の有料区画は、数十人程度しかいない。
区画の前のテントでお金を払い、首から下げる入場証と、取った貝を入れる網に、小さめの熊手を受け取る。
長靴の貸し出しも有料であった。
だが、既に潮が引いており、普通の靴でも大丈夫そうだ。
「ボク、潮干狩りするの初めてです」
「そうなんだ、アサリは好きじゃないとか?」
「いいえ。近くに海が無かったんです」
「じゃあ今日はいっぱい採れるといいな」
「はい!」
早速、水の引いた地面を2人で掘っていく。
(確か、水が引いて時間が経っていると深い場所にいるんだっけ)
そう思っていたが、すぐに手ごたえを感じる。
「お、あった」
「こっちも出てきました」
採れた貝を網に入れていく。
俺たちは、そこらじゅうを次々と掘り返して、貝を採っていく。
あっという間に網の半分以上がアサリで埋まる。
「けっこう採れたな」
「夜ごはんは何にしましょうね」
「酒蒸しとか?」
「いいですね」
そろそろ昼になるし、水が戻ってくるだろう。
「もう切り上げて戻ろうか」
そうして、俺たちは入場証と熊手をテントに返却し、氷水の入ったビニール袋を受け取って、貝の入った網を入れる。
少し重いが、持ち帰れるだろう。
ちょっと遅くなるが、昼食は帰ってからだな。
俺たちは帰りはバスに乗って、電車で家まで帰った。
2人で初めての外出は潮干狩り、まあまあの成果で終わったのだった。