俺の役割
「いいよ。1年間」
「本当ですか!? ボク、めちゃくちゃなこと言ってるんですよ!」
「うん、もっと君を知ってからでいいと思っただけだよ」
ソラの目からは涙の雫があふれていた。
「よかった・・・・・・絶対断られると思ってました」
正直、断りたい気持ちでいっぱいだった。
でも・・・・・・断ったら負けた気がしたのだ、男としてのプライドに。
ソラは涙を拭って、
「じゃあ、これからよろしくお願いします俊也さん」
「よろしく、ソラちゃん」
「それで、俺はどうしたらいいんだ?」
「えっと、ボクの生活をサポートして欲しいかなぁと」
「具体的には?」
「とっっても言いにくいんですが・・・・・・いわゆる主夫ってやつですかね」
「要は家事全般をしてくれと」
ソラは俯いてしまった。
別に今の時代、男女のどちらでも家事くらいするのは普通だ。
俺たちの祖父母くらいだと男は仕事へ行き、女は家庭を守る、そう言われていたらしいが。
そもそも、俺は初めから彼女をサポートする気でここにきている。
特に文句はなかった。
「大丈夫、心配しなくても元からそのつもりで来たから」
予想外だったのは1年間、夫婦生活が無しということだけだ。
「ただ、料理とかには期待しないで欲しいかな」
「全っ然、ボクなんでも平気ですから!」
そこまで期待されてないと逆にやる気が出る。
どうせ1日暇なのだから、アッと驚くような料理の技術でも身に着けよう。
「ところで、仕事? が始まるのはいつからなの?」
「・・・・・・明後日からです」
明後日か。
荷ほどきしたら、そこからは主夫ってことらしい。
まあなるようになるだろう。
ここで俺たちの暮らすマンションの間取りでも紹介しておこう。
まず玄関から入ってまっすぐな廊下、すぐ左右に1部屋ずつある。
さらに先に左側にトイレ、右側に洗面所、洗濯機、風呂がある。
その先の左側にはキッチン、正面にはリビング、リビングの右側にはもう1部屋ある。
すべての部屋には鍵が掛けられるようになっていて、プライバシーへの配慮もきちんとしているようだ。
「部屋はどうするつもり?」
「えっと、ボクは玄関から右側の部屋を使おうと思ってます。朝早くに出るとき起こしちゃうと悪いですし」
「俺はどうしようかな」
「一番広いリビングの横の部屋を使ってください」
「ん~、じゃあそうしようかな」
空いた部屋はとりあえず物置にでもしておこう。
「もう荷物を開け始める? それとも明日まとめて?」
「開け始めましょう。足りないものがあったら買いに行きたいですし」
2人で平積みされている自分の荷物の入った段ボールを開け始める。
俺の荷物は、雑貨や服、ゲーム用のデスクトップのパソコン一式や趣味で集めているエアガンなど。
ソラのほうをちらりと見る。
荷物は大体が服のようだ。
(意外とおしゃれさんなのだろうか?)
彼女が今着ている服は、飾り気のない普通の長袖シャツにジーンズなのだが。
女性との同棲経験など皆無だから、ソラが普通なのかよくわからない。
ひとまず俺の方は、すぐに必要な荷物は出し終えた。
布団は床に直にひいたけど。
(適当にベッドを買いに行こうか)
時刻は夕方、日も陰ってきている。
「ソラちゃん、夕ご飯はどうする?」
「どうしましょうか。外で食べますか?」
いい提案だ。
まだ食材などは買ってきていないし、せっかく引っ越した先の1日目で味気ないコンビニ弁当というのもなんかな。