クリスマス
クリスマス・・・・・・と言えば。
普段より豪華な夕食にプレゼントが定番だろう。
ということで、そのテンプレート通りに今日は過ごそう。
普段、俺とソラの毎日の夕食は俺が作っている。
概ね700キロカロリー以下で、脂質を控えめにという条件だ。
成人男性の1日の摂取カロリーの目安が2000キロカロリー、女性は1700キロカロリー程度とされている。
ソラはアスリートなので運動量の少ない男性より多い、3000キロカロリーくらい必要なはずだ。
なので700キロカロリーは少ないんじゃ? と聞いたら、
「運動の合間に何か食べたりしてますし、夕食前後に色々摂っているので大丈夫ですよ」
とのことだった。
(でも、明日くらいはちょっと豪華な物にしたいよな)
時が過ぎるのも早いもので、今日は12月24日。つまりクリスマスイブだ。
もう1年近く、ソラと一緒に暮らしていることになる。
お互いの頑張りをねぎらうためにも、ここで俺が日頃培ってきた料理の腕を振るうときだろう。
(700キロカロリーまで、脂質控えめ、かつ洋食にケーキ)
この条件を満たす料理を用意したい。
できれば全部で3品くらい。
(・・・・・・難しいな)
どうしても洋食だとカロリーを抑えるのが難しい。
悩んで、悩んで、決まらなかったので外へ散歩しに行くことにした。
街を歩けば何かヒントが見つかるかと思ったから。
(クリスマスムード一色だな)
街は既にクリスマスということで浮足だっている。
昨今では縮小している商店街だが、この地域はまだ現役だ。
(どこを見てもチキンにケーキ、か)
材料を買って家に帰って料理を始める。
あえて違うものを作ろうかとも思ったが、やはり定番メニューにすることにした。
とりあえず、チキンの部位はササミに。蒸した後に味付けして、小麦粉と片栗粉を1対1で混ぜたものをまぶして揚げる。
次はメインのビーフシチュー、肉の部位をヒレ肉にして脂身を少なくする。
他の具材はニンジンにタマネギにマッシュルーム、それに凍らせて水を抜いた豆腐。豆腐は肉の代わりで、低カロリーのかさましになるそうだ。
あとはトマトと茹でたブロッコリーのサラダ。
この3品で約500キロカロリー、これに決定だ。
(あとはケーキだが・・・・・・)
ケーキを残った200キロカロリー程度で用意しなければ。
調べた結果、ここでも豆腐やおからを使えばカロリーを抑えることができることが分かった。
と、いうことでケーキは、おからを使ったロールケーキにすることにした。
「いい匂い、うちだったんですね!」
「うん、ちょっと頑張ってみた。先にお風呂入ってきなよ」
夕食の準備は概ねできた。
ソラが風呂に入っている間に完成させよう。
「すごい! 今日はこれを食べられるんですか!?」
「うん。もちろんカロリーはいつもと変わらないよ」
ソラは目を輝かせている。
(いつもは低カロリーにするために和食で味も薄目だからな)
ある程度の栄養バランスを確保して、カロリーを抑えるのは難しい。
特に俺は栄養管理のプロでもない。
1年間で少しは勉強をしたが、資格を取れるレベルまで至っていない。そもそも2年間学校に通うような資格なのだ。
味見を終えて完成にする。
(練習なしだけど、うまくできたんじゃないか?)
見栄えはともかく、味や匂いはいいと思う。
「あがりました。ご飯ですね!」
「うん。これを敷いて、グラスを置いてくれる?」
ソラにテーブルクロスを渡す。普段はそんなものを敷いたりしていないが、今日は特別だ。
そして、高そうなボトルに入った飲み物も冷蔵庫から取り出す。
「あれ? ワインですか?」
「ちょっと高いブドウジュースだよ」
見た目はワインにしか見えない普通のブドウジュース。1本2000円もするジュース、奮発して買ってみた。
白い深皿にシチューをよそい、黒い洒落た平皿にチキンを盛る。青い小鉢にサラダを盛り付けて完成だ。
一通りテーブルに並べて対面に座る。
「ボク、こんなに本格的なクリスマスの食事をするの初めてです」
「俺もそうかも。チキンはから揚げになっちゃったけどね」
「それでもボクのために考えて作ってくれて、いつも感謝してますよ」
「ありがとう。ソラも結果が出せるといいな」
「はい! 頑張りますよ!」
ソラの眠たそうな瞳からはしっかりと闘志が伝わる。
やる気がでてくれたなら作った甲斐があった。
「いただきます」
「召し上がれ」
2人で食べ始める。
このやり取りも毎夜のことになっていた。
俺が作って、ソラに食べてもらう。
俺は誰かに料理を振舞うのが好きなのかもしれない。
(俺、実は料理する仕事に向いてるとか?)
そんなことソラと暮らすまで意識したこともなかった。
「とっても美味しいですよ! 特にシチューが。コレ、本当にカロリー大丈夫なんですか?」
「肉の代わりに豆腐が入ってるんだけど食べ応えあるよね。ざっくり計算してもケーキ食べる余裕があるよ」
「ホントに俊也さんがいてくれてよかったです! ボク一人では今までうまく制限できなかったと思います」
そうこうしているうちにデザートのケーキまで食べ終わった。
食事を終えて、自室に行き、包装されたソラへのプレゼントを持ってくる。
今回はお互いにプレゼントを贈りあう。この年齢になってサンタクロースがどうのというのも恥ずかしいし。
「けっこう迷いましたよ。一緒にいるとはいえ好みを完全にわかっているわけじゃないですし」
「俺も。考えに考えたけど正直にいうと、気に入ってもらえるか不安かな」
お互いに相手に物を贈るのは初めてだから勝手がわからない。
いちおう俺は無難なものをチョイスしたつもりだが、果たして気に入ってもらえるやら。
どちらのプレゼントも大きさは30㎝くらいの長方形の包装だ。
「それじゃあお互いに開けようか」
2人して包装を解いて、中身を取り出す。
「おぉ!? これは最新モデルのヘッドホン! ちょうど買い替えようと思ってたから嬉しいよ」
「ゲームが趣味なら必要かなと思ってそれにしたんです」
とてもうれしい。
一方、俺が渡したのは・・・・・・
「軽い、と思ったらウェア一式ですね! あ、名前も刺繍で入ってます!」
「うん。トレーニングの予備にでも使ってほしいかな」
「うれしいです! 明日からでも使います!」
ソラは結構テンション高めで反応してくれた。
とりあえず一安心だ。
「この刺繡、いつかKがTになればいいですね」
「そうだね。それは結果が出て落ち着いたらゆっくり話そう」
これは遠回しだけどソラからの告白でいいのだろうか。
夫婦が同姓でなければいけないというのは問題になって長いらしい。
今日もそれは変わっていない。
「明日も練習なんだし、早めに休もう。もうそろそろ追い込みの時期でしょ?」
「そうですね。3月に大会なので、仕上げ始める感じですかね」
ソラとのこの暮らしもあと4か月くらい。
(どんな結果になっても、もうソラと離れる気はないかな)
そう決めて、この先を過ごすことにしようと思ったクリスマスイブだった。




