遊園地 レースと観覧車
「じゃあ、スタート!」
ソラの声と共に、流しの速度から加速をしてスタートの白線を超える。
前にはソラのカート、最高速度は変わらないはずだが、
(差が開いてる!?)
直線で差が開く理由はおそらく体重差だ。
これはどうにもならないので、ソラの後ろについて空気抵抗を減らして追い付こうとする。
初めは左にゆるく曲がるカーブ、それを綺麗なコーナリングでソラは処理する。
俺も後に続くが、当然ソラを抜かすことはできない。
(流石に陸上競技が仕事なだけはある・・・・・・!)
実際に走っているところを見たことはないが、ソラはハードル走の選手だったはずだ。
障害物があろうとなかろうと、最短で走る知識は持ち合わせているのだろう。
だが、俺も普段の運転とレースゲームの経験はある。
(負けたくはない!)
今はソラを抜かすためのスキを伺うべき時、ピッタリ後ろに張り付いて集中が切れるのを待つ。
結局、1週目、2週目ともに抜くスキができなかった。
(苦しいが・・・・・・次の2連コーナーを斜めに入る!)
右、直後に左と曲がる箇所を、ソラより遅く右に曲がって内側に全速で切り込む。
危険行為だが、他に抜く方法がない。
接触寸前のところでお互いにハンドルを切って、わずかに俺の方が前に出た。
(このまま前を維持だ!)
一気に速度を上げて、ソラの前に。
しかし、俺はここで気が抜けたのかラストのコーナー、
(ヤバイ、ふくらみすぎた!)
その一瞬を逃さず、ソラのカートが内側に入ってきて抜かされる。
当然、そのあとの直線では俺より速いソラを抜かすことはできずにゴールになった。
「負けたか・・・・・・」
「も~、最後まで油断しちゃだめですよ」
もっともだ。
勝負への粘り強さも必要不可欠、それがよくわかる結果。
俺の負けだった。
時刻は夕方4時手前、少し早いが帰ることも考えると、もう1つ軽いアトラクションで終わりになるか。
「ちょっと早いけど、次で最後にしようか」
「そうですね。楽しい時間はあっというまです」
「あんまり疲れないようなやつにしたいかな、と思ってるんだけど?」
「じゃあ観覧車に乗ってみたいです!」
ということで、ラストは観覧車にしよう。
まだ遅い時間ではないのでライトアップされていない観覧車に乗る。
冷暖房完備、高さは約100m、乗車時間は15分ほどらしい。
18時には家に帰ってしっかり休むことができるだろう。
せっかくの休日とはいえ、ソラの体調管理が一番優先だ。
ゴンドラに乗り込むと、ゆっくりと上がっていく。
「揺れは無いけど思ったより怖いかもしれん」
「ボクは平気かも」
俺たちは対面で座っている。
こういう場面なら横に座るのが定番かもしれないが、今は、これが俺とソラのちょうどよい距離感な気がする。
(いつでも、好きな時に離せるちょうどよい距離)
べったりでもなく、離れすぎでもない。
ゴンドラが頂点付近にたどり着く。
あと半分で楽しかった時間はいったん終わりだ。
ソラが席から立って、こちら側に座ってくる。
(何かな?)
顔を見つめられたと思っていたら、ソラの顔が近づいてきて、唇に柔らかいものが触れる。
そうして、ソラはいそいそと元いた席に戻っていく。
俺は驚いて、何もしゃべれないでいた。
「今日はありがとうございました。やっぱり俊也さんは頼もしかったです」
「うん、ありがとう。俺もソラのことは頼りにしてるよ」
夕日でわかりにくいけどお互いの顔は真っ赤だった。
2人で外の景色を目に焼き付ける。ゴンドラが地上に降りるまで。
こうして俺たち2人での初めての遊園地は終わったのだ。




