下衆ゲッコー
パンチを覚えた? スキルのパンチを確認する。
パンチ――強力な一撃。鍛えれば岩をも砕く。
拳を確認する。怪我はなさそうだけど、岩をも砕くって……拳からモリヤに視線を移す。
(死んじゃったとかないよね?)
流石に人を殺めたくない。そういう日も来るかもしれないけど、私にはそれを受け止める覚悟はまだできていない。
もそもそとモリヤが動き、立ち上がる。
「よかった。生きてる……」
フードの外れたモリヤの顔は、三十代のはずなのに幼く見えた。顔の造りは爬虫類っぽく、息切れしながら大きな目をギョロギョロさせ、鼻と口から出た血を拭くとこちらを睨んだ。
「ああ、こりゃ俺が呼ばれるよな。小娘を捕縛するのを俺に依頼された時は、依頼人を殺してやろうかと思ったが……あの野郎も、お前自身がここまで強いとは思ってなかっただろうがな。銀髪の噂は本当ってところか」
モリヤが瓶に入った液を飲むと出血が止まった。飲んでいた瓶を鑑定すれば「回復薬」と表示されていた。どうやら、魔法のポーションのようだ。あんなものまで存在するのか。
モリヤが口角を上げながら言う。
「捕縛は無理そうだな。それなら死んでもらうか」
「暗殺者のくせにおしゃべりですね。暗殺者って寡黙ってイメージですけど」
「お前が死ねば、この会話もなかった事になるからいいんだよ」
下衆な笑みで、顔に残った血を舐めながら言うモリヤが普通に気持ち悪い。
ディエゴを見れば、顔色がすこぶる悪い。肩に刺さる短剣を鑑定する。
毒の付いた短剣――毒薬の塗ってある短剣。毒は死に至る
良品
価格相場:銅貨八枚
毒を塗るって……やる事が、ゴブリンと同じで困る。
モリヤのマントの下、他にもえげつない武器をたくさん持っているんだろうな。見えないから、鑑定ができないけど。
ディエゴが苦しみながら血を吐く。
「グハッ」
「ディエゴ!」
ディエゴの肩に刺さる短剣は想像よりも深く刺さっていた。ヒールを掛けてみたが、短剣を抜かないと毒の効果は消えないようだ。
モリヤが楽しそうに笑う。
「あーあ。そいつ、血、吐いちゃったね。毒が回ってもう長くないんじゃないか? 銀髪女、どうすんだ?」
モリヤを睨みつつ無視して短剣を抜こうとすれば、モリヤから吹き矢の攻撃をくらう。
「土壁!」
吹き矢が届く寸前で土壁を展開、ディエゴを守る。
このままじゃあ、ディエゴが死んでしまう。今は、ディエゴを助ける事を優先しよう。
「エマ様、ここは私にお任せください」
アリアナがモリヤに剣を向け、威嚇する。
「私が相手だ!」
「アリアナ! そいつ移動のスキルで突然目の前にくるから、気をつけて! 名前は《《ヤモリ》》、暗殺者だから」
「……おい、銀髪、テメェ。今なんて言った?」




