笑顔の後に……
「土壁です。ほらここを見てください。ドアノブがあるでしょう?」
「ドアノブ……」
ドアノブを引き、開けたり閉めたりして見せつける。すると、ディエゴが無言になり、子供たちそしてマーカスにも凝視されてしまう。あれ、私がおかしいのかな?
マーカスが笑いながら言う。
「団長は変わった令嬢を愛人にされたのだな。元気があっていいと俺は思う」
「あ、ありがとうございます?」
「しばらく、ここに待機だ。寒いだろうから今、暖炉を準備する。ディエゴも手伝え」
マーカスとディエゴを含む騎士たちが暖炉の準備をしてくれる間、子供たちが座る椅子を土魔法で作る。今日は、どうやらここで一晩を過ごすことになりそうだけどベッド等がない。床に毛布を引いても冷たいだろうし、ついでに土壁でベッドを作る。
そんなことをしていると、ディエゴが軽く咳ばらいをしながら言う。
「エマ様……魔法は、皆の前ではあまり使わぬようにと、団長に注意を受けていませんでしたか?」
「極力大きな魔法を使うなとはいわれましたが、これはただの土壁です」
あくまでも土壁なのだ。周りの騎士たちの視線は痛いがそうだと言い切る。
「……副隊長から収納袋を預かっております。こちらに、エマ様の寝具も入っておりますので後でお渡しします」
「ありがとうございます」
妙に丁寧なディエゴに眉を上げるが、他の騎士の手前丁寧に接してくれているのだろう……と思うことにする。
その後、騎士たちが手際良く食事の調理を始めた。
手伝いを申し出たが、マーカスにそんな事はさせられないと断られた。
建前だけどロワーズの愛人ということで、騎士たちとは微妙な壁があるような気がする。それに私たちは小屋だけど、騎士たちは寒い中、野営をするという。
ディエゴやアリアナは、騎士たちがいないところでは普通に接してくれているけどね。
マーカスが食事を持って小屋へとやってくる。
「舌に合うといいのだが……」
「ありがとうございます」
少し早いけど干し肉の煮出しベースのスープと黒パンが今日の夕食だ。
スープを念のために鑑定する。
水と干し肉のスープ
粗悪品
価格相場:銅貨1枚
鑑定で粗悪品って表示されている……。
子供たちを見れば酸っぱい顔をしながらスープを口に入れていたので、オレンジジュースを先に飲むように差し出す。
窓の外から見える騎士たちは、何事もなく平然な顔をしてスープを食べている。これが、彼らの普通なの?
いや、隣でスープに手を付けたディエゴは、不味そうな顔をしながら食べている。やっぱり現地の感覚でも不味いんだ。
それでもせっかく作ってもらったので、全部食べる。
一口目を口に入れた途端、即座に後悔した。
騎士たちが作ってくれたスープだけど……申し訳ないが、不味い。薄い塩水のお湯に煮込まれてシワシワの白くなった味のしない干し肉を咀嚼する。
完食後にゲップをするたび、なんともいえない生々しい臭い味が口の中に残る。うえぇぇ。
自分にヒールを掛けてみるが、効果はない。
騎士たちが小屋から去ると、子供たちには作り置きしていたハンバーグを与えた。
「二人ともハンバーグ美味しい?」
「うん。僕、これだいすき!」
「さっきのスープで泣きそうになった」
「マーク、作ってもらったものだから……文句はほどほどにね」
子供たちがハンバーグを完食すると、クッキーをデザートとして与え、小屋の外へと向かう。護衛なので後ろからディエゴが付いてくる。
外に出るとすぐに収納袋から炭酸水を取り出し、一気飲みをする。
「ゲッフゲッフゲッフ」
ディエゴがいたが、思いっきりゲップをする。あのスープ、やばい。
「スッキリした!」
ゲップであの嫌な臭いも薄くなった。二度とあのスープは食べないと心に誓う。
凝視するディエゴに笑顔を向ける。
「ディエゴ、視線が痛いです」
「その飲み物は?」
「炭酸水と言って――」
「酒か?」
ディエゴが期待した目で尋ねる。
「違います。シュワッとする飲み物です。飲んでみますか?」
「いいのか? それなら……クワ! なんだこれ? 喉が痛い、けど美味いな。ウグッ、ゴホゴホ」
「ふふ、ははは。ディエゴさん、一気に飲み過ぎですよ」
ディエゴは女遊びには長けているが、炭酸水を一気飲みして鼻から出すような少年の一面がある騎士だ。
そんな風に笑っていると急にディエゴが大声で叫ぶ。
「エマ様!」
え……?
ディエゴに押された次の瞬間、目の前のディエゴの肩と腕に矢が刺さった。




