小屋
馬車に再び乗る前に、ロワーズにマーカスと呼ばれる騎士隊長を紹介される。
「この後、隊は二手に分かれる。私はレズリーと共にリーヌの様子を確認する。エマには別の場所で待機してもらう。何かあればマーカスを頼ってくれ。夕方前には再び合流しよう」
護衛としてはディエゴとアリアナが共にいるけど、マーカスは二人よりも位が高い騎士のようだ。
マーカスが軽く会釈をすると、口角を上げ大きな声で言う。
「エマ様、何かあれば躊躇せずにお知らせください」
まだ若いが顔の傷が目立つ、ガタイのいいワイルドな顔つきの騎士だ。鑑定をすれば、剣術などの騎士としてのスキルはレズリーと同格だった。
「よろしくお願いいたします」
それから再び馬車に揺られること数十分、森を抜けると広い農地が見えた。
地平線まで続くのではないだろうかと思うほど広大な農地。今の時期、雑草のようにしか見えないが、これは小麦畑ではないかと予想する。
ロワーズが馬車の隣に馬を付け小窓から声を掛ける。
「リーヌが見えてきた。ここからはふたつの隊に分かれる!」
「はい! わかりました」
「ディエゴ、アリアナ、エマたちを頼んだぞ」
ロワーズはそう言うと、レズリーを含む十数人の騎士を連れスピードを上げリーヌへと向かった。
その進行方向を見れば、まだまだ遠いけどリーヌが見えた。
遠目から見るリーヌは、北の砦のような頑丈な要塞ではないが、囲いのある町だ。ロワーズによると、ここは以前、別の貴族の領地だったそうだ。王都でその昔クーデターを起こそうとした貴族の一つだったらしく、一族は粛清されたという。そのためこの領地は、粛清以降は王家の預かりになっているそうだ。実際の経営は北の砦の文官に任せっきりらしいけど……どうりでヨハンが自らリーヌに向かったんだ。
「エマ、あれがリーヌなの?」
小窓から顔を少し出したシオンが尋ねた。
「そうみたい。でも、私たちは別の場所で待機になるから」
「うん」
それからリーヌの町の東側の森の中にある小屋へと向かうが、途中から馬車は使えず馬に切り替えた。
私はディエゴと共に、シオンはアリアナと、そしてアイリスはマーカスの馬に乗せてもらい目的地の小屋へと向かう。
ロワーズたちと別れたのもだけど、シオンが馬に少し怯えているようで不安になり力加減を忘れてディエゴに抱きつく。
「エ、エマ様! 俺が死ぬ」
「あ……大丈夫?」
「魔法だけじゃなくて、力も半端ねぇ――半端ありませんね」
「……ごめん」
そんなことをしている間に目的地の小屋へと到着した。
ここは騎士団が管理する小屋らしいが、長らく誰も訪れていなかったようで結構草臥れていた。それでも、寒さを凌げるので、ありがたく子供たちと中で先行したロワーズの隊の連絡を待つ。
居残り組、もとい私たちのお守りに残ったのはディエゴ立を入れて十人の騎士だ。
小屋に会った椅子に座ろうとすると、ディエゴが自分のマントを椅子に敷く。
「エマ様、どうぞ」
「それは、ディエゴさんのマントでしょう? 大丈夫ですよ。【土壁】」
土壁の形を変えて椅子を出す。ディエゴは呆れ顔で椅子を見ながら呟いた。
「いや、それもう土壁じゃねぇよな?」




