自白剤の効果
マーカスがモリヤの肩に手を置きながら問う。
「おい、聞こえているか?」
「ああ」
何も反論せずにモリヤが素直に答える。どうやら自白剤は完全に効いているようだ。
マーカスが続ける。
「お前の名前はなんだ?」
「モリヤだ」
「モリヤ、お前はどこから来た?」
「どこでもない」
「そんなことはないだろ。どこから来た?」
「知らない」
何度かマーカスが質問を変え、モリヤに尋ねたが答えることはなかった。
マーカスが次の質問に移る。
「他に仲間はいるか?」
「いない」
「暗殺を依頼されたのか?」
「ああ」
「誰の暗殺だ?」
「銀髪の女だ」
え? 私? なんでピンポイントに私が狙われる必要があるの? この異世界に到着してからそんな日数経っていないし、どういうことなのだろうか?
「なぜ、エマ嬢を狙う?」
「しらない」
「誰に依頼された?」
「……」
「もう一度聞く、誰に依頼された?」
「……」
マーカスが追加でモリヤに自白剤を飲ませる。精神耐性が高いと、自白剤の量も多くなるらしい。
落ち着いた声でマーカスが問う。
「誰にエマ嬢の暗殺を依頼された?」
「ん……だれでもない」
マーカスが軽く舌打ちをしながら呟く。
「依頼者が割れないように精神操作されているかもしれないな」
そ、そんなことできるの? 奴隷印といい、普通に恐ろしいのだけど……。
もしかしたら奴隷印を消した時のように光魔法を使えば、精神作用も解除できる……?
「暗殺の理由はなんだ?」
「知らない」
暗殺に関しての質問は、どんなに詰めても聞き出すことはできないようだ。
マーカスが低い声に変わる。
「質問を変える。エルフ族の娘はどうやって手に入れた?」
「報酬で貰った」
「誰からだ?」
「依頼人からだ」
「その依頼人は誰だ?」
「この国の貴族だ」
「誰だ?」
「……アシェト伯爵だ」
「アシェト伯爵だと……」
マーカスも他の騎士も困惑した顔をしていた。アシェト伯爵とは一体なのだろうか?
それから、アシェト伯爵の依頼について、さらにモリヤに自白剤を飲ませ尋問が始まった。どうやらアシェト伯爵以外にも関わっている貴族がいるようだったが、モリヤ自身それが誰か分からないようだった。
そのうち、モリヤがガクッと項垂れた。自白剤過多で意識を失ったようだ。
緊張していたのか、喉がカラカラだ。エコバッグから取り出したリンゴジュースをゴクゴクと飲むと、騎士たちに凝視された。
「えっと、皆さんも飲みますか? リンゴジュース」
「い、いや、我々は大丈夫だが……その足元に……」
マーカスが気まずそうに指を差す足元を見れば、ヤモリがリンゴの上で踊っていた。
「ちょ、なんで!」
急いで踊るヤモリをリンゴごとスカートの中に入れて隠す。
「今のは一体――」
「なんでもないです。じゃ、じゃあ、私は子供たちの元へと戻ります」
困惑顔のマーカスが何か尋ねる前に、ヤモリとリンゴを消し、その場を立ち去った。