弔い
いつもご愛読ありがとうございます。
前回、誤って連続して同じエピソードを投下しておりました。ご指摘いただいた方、ありがとうございます!
小屋に戻り、見えないシオンとアイリスに声を掛ける。
「二人とも聞こえる?」
「「エマ!」」
シオンとアイリスが安全空間から飛び出してくると、私にしがみ付くように抱き着いた。とても怖かったのだろう。
二人をしっかりと包み込みながら、囁く。
「もう、大丈夫だから。悪い人は捕まったから」
「本当?」
シオンが弱弱しい声で尋ねる。
「本当。みんなのおかげで、もう大丈夫だよ。シオンもマークも頑張ったね」
二人を褒めるとマークが強がる。
「俺は別に……そんなに怖くなかったし」
「うんうん。そうだね」
マークの頭を撫でると「やめろ」と恥ずかしそうに手を止められた。
「僕もなでてほしい……」
シオンの言葉に目を丸くする。シオン自信から頭を撫でてほしいと言われたのは初めてだったからだ。
「じゃあ、撫でるね」
軽くシオンの柔らかい髪に軽く触れ、頭をゆっくりと撫でる。すると、シオンの口角が軽く上がったのが見えた。なんだか、涙が出そうになった。
いきなりの襲撃は私たちの勝利で終息した。だけど、それは犠牲を伴うものだった。
襲撃者は捕まった。今回犠牲になった騎士のジャンの弔いの後に、モリヤの尋問をするのだと騎士に聞かされる。
伝達に来た騎士が、ためらいがちに言う。
「襲撃犯を拘束したいのですが……その、エマ嬢の拘束が地面に張り付いているため……魔法を解いていただきたいのですが……」
「あ、ああ……そうでしたよね……ははは」
モリヤは未だに喚いているという。少し距離があるおかげでここまでは聞こえない。モリヤもだけど、闘いの爪痕を子供たちに見せるのはまだ早いと勝手に判断した。索敵を見る限り、この辺りは安全だ。
「まだいろいろやることがあるのだけど、二人はディエゴと一緒に待っていてもらえる?」
「うん……」
「分かった……」
二人ともずいぶんと聞き分けがよかった。
ディエゴは私の護衛という立場から一瞬迷っていた、ディエゴが信用できるからとお願いすると子供たちといることを承諾してくれた。
小屋はそれなりのダメージがあった。なので、小屋の隣に土魔法でお菓子の家のような建物を土魔法で建てた。
子供たちが目をキラキラさせながら喜ぶ。
「すげぇ! なんだこれ! 家の中に滑り台があるぞ!」
「おかしの家? 僕、テレビで見たことあるよ!」
「こんな家を数分で作るなんて……そりゃ俺なんかの護衛はいらないだろな……」
ディエゴが少し残念そうに言う。
「そんなことないよ。ディエゴが矢を代わりに受けてくれたから、私は助かった」
あの矢は私の顔を狙って飛んできていた。正直、当たっていたら今ここに立っていないと思う。
二人にたくさんのお菓子とジュースを渡し、マーカスと合流した。
少し離れた場所でマーカスがジャンの身体にマントを掛けると、よく通る声で言う。
「ジャンがフィエラ神様に迎え入れられるよう、黙祷」
騎士のマントに包まれたジャンの周りで騎士のみんなが剣を地面に突き刺すと、片膝を折って祈りを捧げた。
私も静かに瞳を閉じ、ジャンが安らかな眠りにつくよう祈った。
マーカスの言っていたフィエラ神という神の事はよく分からない。こちらの神様なんだろうけど、死の際のお祈りは地球のそれに似ているなと思った。
「ジャン……またすぐ会える。それまで俺たちを見守っていてくれ」
ジャンと仲良かった騎士だろうか。動かない友に語り掛けると、ジャンの閉じている瞼の上にコインを置いた。こちらの風習だろう。
騎士たちのお別れが終わると、ジャンの遺体は専用の収納袋に入れられた。ジャンは故郷の家族がいる土地へ納められるという。
彼が本当に亡くなったのだと急に実感が湧き、心苦しくなる。この世界は血生臭い。死があまりにも近すぎる。私は、今後マークとシオンを守っていけるのだろうか?
「おい! 銀髪女! 聞いているのか! おい!」
モリヤが喚く。
人が感傷に浸っている時に、ギャーギャーとノイズを垂れ流すモリヤに殺気を覚える。
「五月蠅い!」
【風遮音】
モリヤをノイズキャンセルする。