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風刀エアカッター


 足に絡みつく木の根を風魔法で切るが、すぐに木の根は数を増やしながら襲いかかってくる。

 持久戦ね。

 次々と木の根を風魔法で切り刻むと、そのうちエリンシャの息が荒くなった。魔力切れだろうか? 暴れているが、魔法の攻撃はしてこなくなった。

 エリンシャのフードを取ると、緑に金が混じった髪色に大きな青い瞳の可愛らしい子が現れる。耳は尖っていて少し垂れている。初めて見るエルフだ。

 年齢は75のはずだけど……エリンシャはどう見ても十歳くらいの子供にしか見えなかった。首を絞められたのか、首回りの痕が痛々しい。

 いつの間にかヒールを唱えていた。

 エリンシャの首元の後は治ったが、未だに攻撃の手を止めない。

 エリンシャを土魔法で拘束する。魔法は強いけど、体力は子供のそれだ。

 出来れば、早く奴隷から解放してあげたい。解放するには、魔道具が必要だとレズリーが言っていた。

 奴隷にあるという印はどこ? 手足を見てもない。耳には番号札のピアスが付いていたけど、これじゃないよね? 申し訳なく思いながら、エリンシャの服を捲り顔を顰める。


「……これは酷い」


 背中には、大きく複雑な奴隷紋が刻まれていた。印は刃物のようなもので抉られつけられていた。傷に触れようとすれば、ディエゴに止められる。


「エマ様! 奴隷に触れるのは危険です」

「ディエゴ、これを見て」

「これは……エルフ族……それにこのような大きな奴隷紋は見たことがないです」

「魔道具で解放できると思う?」

「分からないです」

「フーフー」


 エリンシャが獣のように威嚇する。

 土魔法で拘束しているにもかかわらず、暴れるのを止まない。このままだと、自分自身を傷つけるかもしれない。気絶させる? でも……意識が戻って、再び樹魔法を使われるのは厄介だ。

 拘束を逃れようと動く度に、奴隷紋から血が滲み出る。

 ディエゴの忠告を無視して、エリンシャの奴隷紋に触れる。せめて、この傷を塞げれば――

 触れた傷口からドロっとした黒い魔力を感じる。奴隷紋から全身に黒い魔力が鎖のように伸びているのが分かる。この鎖を切れば……?

 直接奴隷紋から光魔法のヒールをエリンシャに流し込む。私の光魔法が黒い魔力の鎖に絡みつくと、グッと魔力が減る感覚がした。

 光りが闇を打ち負かすかのように、鎖が崩れ始める。もう一押しだ。

 最後まで繋がっていた鎖が割れるように破壊されると、正気を取り戻したエリンシャと目が合う。でも、すぐにそのまま気を失ってしまった。

 背中を確認すれば、奴隷紋は綺麗になくなっていた。


「成功したみたいでよかった……」

「まさか、本当に消せるとは……」


 ディエゴが信じられないものを見るような目で、私を見つめた。

 拘束を解き、汚れていたエリンシャにクリーンを施す。アイテムバッグから毛布を取り出し、エリンシャを包む。

 あの奴隷紋、あれはたぶん光魔法と正反対のもの、闇魔法的なものだ。鎖の禍々しい感覚を手元で再現してみると、頭の中に機械音が流れた。


ドドン

『闇魔法を覚えました』


 ああ、これは覚えていい属性なの?

 覚えてしまったからには仕方ない……。

 エリンシャを抱き上げ、ディエゴにお願いする。


「ディエゴ、この子を安全な場所にお願い」

「エマ様の護衛が優先です」

 ディエゴが不満げに言う。きっと、私の身勝手な行動に呆れているのだろう。でも、私は奴隷紋を消したことは後悔していない。


「俺が運ぶぜ。こっちは片付いた。残りは、マーカス隊長と戦っている奴だけだ」


 騎士のアルがエリンシャを私の手元から引き取りながら言う。ありがとうアル、ついでに君の性病も治しておくよ。アルの手に触れヒールを掛ける。


「流石です。全ての傷が治っている」


 ええ。あなたの性病もね……。


「それでは、この子……をお願いします。奴隷紋は消えていますが、目覚めたらまた暴れるかもしれないです」

「へ? 奴隷紋が消えている?」


 その時、大きな爆発音がマーカスのいる方から聞こえた。


「私は、マーカスさんのところに行きます!」

「あ、はい――」


 急いで、マーカスの元へと向かう。舞い上がった砂埃が晴れると、モリヤが左腕から血を流しながら騎士たちに囲まれ捕縛されていた。無事に捕まえられたんだ。良かった。

 マーカスが暴れるモリヤを見下ろしながら言う。


「諦めろ。もう魔力もそんなに残っていないだろ。死にたいのか?」

「ククク。これだから騎士は嫌いなんだよ。偉そうにしやがって。お前らは、さぞかし死が怖いんだろ? 俺はそんな腰抜けではない」


 移動のスキルを使い、ほんの一瞬だけ騎士の拘束を解いたモリヤが指輪に仕込んだ何かを飲もうとする。絶対に死なせはしない。


土拘束アースバインド


 モリヤが残していた力を絞り、目の前に現れた。


「死ね! 銀髪女!」


 首に手をかけられる。咄嗟に力加減を忘れ、首を掴まれていたモリヤの手を全力で握るとボキッと鈍い音が聞こえた。


「イッテェェ」


 モリヤの甲高い叫び声が響く。どうやら手首が折れてしまったようだ。


「わざとじゃないから。いきなり、首を絞めようとするから……びっくりして」

「化け物が!」

土拘束アースバインド


 今度は逃げられないようにモリヤを完全に拘束、憤りながら叫ぶ。


「化け物は貴方でしょ!」


 非人道的野郎に化け物扱いされるなんて、なんだかすごく腹が立つ。

 腹いせに動けないモリヤの額に『ヤモリ』と闇魔法で文字を彫った。見た目は墨で顔に悪戯した程度にしか見えない軽い魔法だ。エリンシャが付けられたような奴隷紋じゃないから、何日かしたら取れるだろう……たぶん。

 マーカスが何とも言えない表情でモリヤの額を見ながら言う。


「エマ様……」

「いいの!」



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