戦闘の中で
「大丈夫ですか?」
最初に声を掛けたのは、地面に横たわっていた騎士のカーターだ。一度も直接会話はしていないけど、鑑定でその名前は知っていた。
カーターは毒矢などは受けてない。だけど、受けた攻撃の数が多く、息が荒い。状態は瀕死と出ているので、きっとどこかに深い傷を受けているはずだ。
ディエゴに手伝ってもらいカーターの防具を外すと、裏面には大量の血が付いていた。服を捲り上げ、脇下に傷を発見する。
「こんな所にどうやって……」
見れば、防具にも穴が空いていた。防具を突き破って……? 魔法?
もしかしたら、この傷は肺まで達しているかもしれない。カーターの傷の上に手を置き、唱える。
「【ヒール】」
無事に傷が全て塞がっていくと、カーターの目が開く。顔色は良い。
よかった……血は見た目よりも流していなかったようだ。
カーターがゆっくりと起き上がりながら尋ねる。
「エマ様、マーカス隊長は?」
「今、敵の頭と戦っています。カーターさんは動けますか?」
「はい。大丈夫です。俺はマーカス隊長の加勢にいく」
「分かりました」
本当ならば、止めるべきだと思う。でも、そんな猶予がないのが現実だ。
カーターの敵に向かう後ろ姿から視線を外し、木の下に俯けに倒れていた騎士の元に駆けつける。
ディエゴと共に騎士を仰向けにすると、心臓がうるさくなるのが分かった。
「これは……」
ディエゴと顔を合わせる。
騎士は右腕がなく、短剣が心臓に刺さっている状態だった。
……この状態でまだ生きているの? 分からない。
とにかくヒール、それから魔力を込めた水もジャンの口に流すが何も起きない。
「なんで傷が治らないの!」
何度もヒールを叫びながら騎士を治療していると、ディエゴが私を止める。
「エマ様……ジャンはもう死んでいます」
「そんな……」
信じたくない。
ジャン……出立前に鑑定しただけで会話どころか自己紹介もしなかった。ジャンはまだ十九歳の青年だった、と思う。
ジャンから手を放し、鑑定を見る。
死骸――人族の死骸
人を看取ったことはあったが、殺された人を看取るのは初めての経験だ。
精神耐性の補正が入っているのだろう……動揺しているが、この非現実的な光景を思ったより素直に受け入れている。
ディエゴがジャンの目に手を当て閉じると、心配そうに尋ねる。
「エマ様、大丈夫ですか?」
「……大丈夫です。それより早く、他の騎士の治療もしましょう」
剣の交差する金属音、鼻につく血の匂い、叫び声……どれも、前の世界では考えられない光景だ。でも、これが今の現実だ。
本当にシオンたちがこの光景を目当たりにしなくてよかった……。
重傷でない怪我した騎士たちに遠くからヒールを掛ける。
「これじゃ、きりがないぞ!」
一人の騎士の声が聞こえた。
ヤモリ以外は隷属された者たちで、躊躇せずに向かってくる。
【土拘束】
放った土魔法の拘束を使い。数人の隷属された敵を捕まえる。
「あ、ありがとうございます!」
騎士たちから歓喜が聞こえる。後は騎士たちに任せよう。次に木の陰から矢で狙ってきている者たちを捕獲だ。
木の陰の者たちは隠れるのが上手く、動きも早い。それなら……
隠れて出てこないなら鑑定するまで。鑑定を展開すると、潜んでいた者の頭上にステータスが浮かび上がる。いたいた。
【風拘束】
隠れていた者たちを風魔法で捕縛して引きずり出す。暗殺者たちの残りは後、モリヤをいれて五人だ。
モリヤと一騎打ちをしているマーカスに視線を移すと、急に現れた短剣を持った小柄な者が向かってきた。
「やああああああ」
子供? 動きは単純だ。避けると同時に後ろから土魔法でその小柄な者を拘束する。
拘束を解こうと、暴れるその者を鑑定。
エリンシャ・ラヒャハルト
年齢:75
種族:エルフ族
職業:モリヤの奴隷
状態:隷属された者
魔力5
体力3
スキル: 言語、採取、 木登り、弓術、 苦痛耐性、房中術
魔法属性:樹
魔法:生活魔法、樹魔法
固有スキル:
ユニークスキル: 地図
称号:エルフの姫
エルフの姫? え? エルフってあのエルフ?
樹魔法は初めて聞く魔法だ。どんな魔法――
「え?」
急に足元に木の根が絡みつく。ああ、そういう魔法ね。