靴
ヌメッとした油みたいな水を通り抜けると、階段があった。
上に進むだけの階段で、俺たちの前にドーンとあった。
後ろには、相変わらず壁があるから、どうやっても選択肢は一択だった。
結局、階段を上っている最中、俺たちは箱をずっと見ていた。
すると、彼女があることに気付いた。
「ねえ、これって底がずれるんじゃない?」
箱を裏返し、偶然見つけた隙間に指をそわせてから一気に押すと、箱の底が外れた。
その底ふたを拾って中を見ると、靴が2足入っていた。
「履いてみようよ」
彼女が階段の踊り場で俺に提案してくる。
後ろの壁は俺たちに合わせてくれているようで、俺たちが止まると壁も動くのをやめた。
その間に、俺たちは靴をはきかえた。
サイズは俺たちの足をはかったかのようにぴったりで、履いていないかのように軽かった。
「これ、すっごく軽いね」
彼女が俺の前で飛んでみせる。
そのたびに、俺の腕が手錠に引っ張られる。
「羽が生えたって言うまではいかないけど、一瞬で遠くまで走れそう」
今にも走り出しそうな彼女を、俺はあわててひきとめる。
「どこまで道が続いているかわからないんだから、体力は温存しといたほうがいいって」
「そうかな~」
彼女は、仕方がないといった雰囲気で溜息をついて、走ろうとしていたのをやめた。
「先へ行こう。どうせ後ろには戻れないんだ」
俺は壁に目をやりながら、彼女へ言った。
彼女は床に置いていたフタを再び取り付けて、落ちないか確かめてから、俺の手を握った。
俺の目を見て、彼女は一回だけうなづいた。
俺も、彼女にうなづき返してから、壁は気にせずに、歩き続けた。




