目覚め
ゆっくりと俺は目を開けた。
誰かが、俺の顔を覗き込んでいる。
「意識戻りました」
「いい傾向だ」
その人は、すぐに俺の視界からいなくなり、代わりに見覚えがとてもある顔が二つ、いや三つ見えた。
「ああ、よかった!」
「やっと目が覚めたね!」
女性が二人、男性一人。
どうやら、俺の母親と父親みたいだ。
もう一人は、妹か姉か、どちらかだと思う。
「助けた子も、ほぼ同時に目が覚めたみたいだし、よかったわー」
母親はほっとした表情をしている。
「助けた…子…?」
俺はどうしてここにいるのかすら分かっていない頭で、考えた。
「川和ね、交通事故に巻き込まれたのよ。赤信号に車が突っ込んで、歩いていた子を引きそうになったのよ。そこに、川和が飛び込んで、助けようとしたんですって。でも、結局惹かれてしまった。あ、でも、そのおかげで生きのびれたって言ってたわ」
「交通事故に…」
「ええそうよ、覚えてないの?」
「事故前後の記憶があやふやで…」
自分の名前も、ようやく分かったレベルだ。
これから、徐々に記憶がよみがえってくることだろう。
それから、俺は事故の後のことをいろいろ聞いた。
最初は足を切るということは考えていなかったが、6日目ぐらいに左足が急に壊死をはじめ、ひざの上のあたりから切らざるを得なかったそうだ。
それは、助けた子も同じことらしい。ただ、足は逆だそうだ。
13日間寝ていたとか、途中で内出血を起こし点滴をすることになったとか。
いろんなことを聞いて行くうちに、あの夢となにかつながっているような気がした。
1週間ほどで、リハビリを始めることになり、俺は起きて以来初めて、その助けた子と出会った。
「あ」
その一言で、俺は振りかえった。
「ああ、夢の中の…」
彼女は話通りに、右足がひざ下からなかった。
今は簡単な義足をつけている。
「二人で話をするかい」
作業療法士の人が、俺たちに聞いてきたから、椅子を二脚用意してもらって、座りながら話をした。
「それで、どう?」
「うん、大丈夫。あ、私は鞍井那瀬っていうの。小学6年生。あなたは?」
「俺は木崎川和って言うんだ。中1だよ。あの夢の通りの感じだね」
「手錠が付いてないだけで、ここまで遠く感じるけどね…」
「遠くないさ、こうやって話もできるし、いつでもメールして来てもいいんだぜ」
俺は笑って、彼女の頭をなでた。
サラサラした髪を梳いていると、彼女は恥かしそうに顔を赤らめた。
「でも、ありがとうね。助けてくれて」
「事故のことなら気にするなって。俺も助かったし、那瀬も助かった。それで十分だろ」
「でも、ありがとうって言いたいの」
「そうかい」
そこへ、看護師が何か箱を持ってきた。
「これ、あなた達にって、さっき宅急便で来たわよ」
「ありがとうございます」
俺はその小さな箱を二つ受け取った。
片方は那瀬に届いていたから、渡す。
「ありがと」
その笑顔に、俺は心動かされる。
箱を同時に開けると、これも見覚えがあるものだった。
「手錠の輪だよね…」
手につけるところの輪っかが、箱の中にアクセサリーのように取り外しができるように改造されて入っていた。
そこに、メッセージが書かれた紙が入っている。
「…おめでとう?」
ただそれだけだった。
でも、誰からかはすぐに分かった。
「ま、生きて帰って来られたんだ。それで十分さ」
俺はもう一度そう言って、箱を閉じた。




