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記憶がない少年少女

目の前には、真っ暗な部屋。

わずかに屋根についている明かり取り用の窓から光が差し込んでくる。

今が昼だとわかるのは、ただその光だけだった。

すぐ左側には、女子が一人いる。

ゆっくりと胸が膨らんだりしぼんだりしているところを見ると、熟睡しているようだ。

俺と彼女を結んでいるのは、俺の左手首と彼女の右手首をつないでいる手錠だけ。

見知らぬ彼女と一緒になったのは、この迷宮に閉じ込められたという偶然だった。

さらなる問題は、俺の記憶が途切れているということ。

自由な右手で俺の首筋を触ってみると、妙な突起ができている。

ニキビでもなさそうだし、なによりも周りの皮膚部分よりも冷たい。

金属のような感覚が、右手を通して伝わってくる。

"起きたようだな"

何処からか声が聞こえてくる。

頭の中に、直接語りかけてくるような感覚が、俺の中を走る。

「誰だ」

横にいる女子を起こさないように、静かにその声に聞く。

"君と彼女は、この迷宮にとらえられた、『眠れる美女』のようなものだよ。ただ違うのは、100年もしないうちに起きるということだが"

「それで」

俺は記憶がないことを悟られないように、慎重に言葉を選びながら聞き続ける。

「ここはどこだ」

"君たちには、少しばかりゲームに付き合ってもらいたい。もちろん、ゴールはここからの自由だよ"

「…失敗すれば?」

"残念ながら、この迷宮から出れないだけだよ。食事はそれぞれのポイントごとに置かれている。さて、ゲームには、常に存在するお助けグッズを君たちに差し上げよう。これを使いながら、迷宮を出れることを願っているよ"

かすかに笑い声が聞こえたような気がするが、それよりも大きな音が、静かな部屋を包み込んだ。

木製の跳び箱5段ぐらいを2階から落とした時のような音が響くと同時に、手錠がガシャガシャ音を立てた。

彼女が起きたらしい。

一瞬だけビクッとしたものの、すぐさま例祭差を取り戻したようだ。

「ふぁ~…」

緊迫した空気など一瞬たりとも出さず、大あくびをしてから目をこすりつつ、俺を見た。

小首をかしげながらも、しかし、思い出すのは諦めたらしい。

「どこかで見たような…でも、思い出せないや」

彼女はそういうと、右手を出して俺に見せた。

「で、これはどういうことなのかな?」

「俺に聞くな、あの箱に聞いてくれ」

明かり取りの窓から一直線に光の筋が出て、箱の全景を照らしていた。

縦横高さが同じぐらいの、俺の膝ぐらいまでしかない箱が、そこに鎮座していた。

「あまり大きくないね」

二人とも立ち上がってみると、俺の方が頭1.5個分大きかった。

まだ小学生らしい彼女は、好奇心たっぷりに箱に近づく。

もちろん、俺もその勢いに負けながらも、恐る恐る箱をよく見ようと接近をしていた。


各辺には呪文や図式が書かれた細長いお札のようなものが張られていて、上面の俺たち側のところに、南京錠がかかっていた。

「合わせて13個の封印だな」

「この箱を使って、どうしろっていうのよ」

「ここから出るのにきまってるだろ。この部屋には鍵がかかっているような感じがないから、すぐに出れると思う。問題は、そのあとなんだ」

俺が指さしたところには、鉄でできたドアがあり、ドアの部の代わりに細長いとってのようなものが突き刺さっていた。

「ねえ、これを見て」

底面に張ってあったうちの一枚の枠が赤色になっていて、文章が浮かび上がっていた。

「細長き棒を抜けば道が見え、左か右かどちらも道か」

俺が読み上げると、もういちど扉を見つめる。

「こいつがヒントなんだな」

俺は確信すると、取っ手のような棒を引き抜いた。

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