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二の四


 少し経つと食卓には二人分の料理が並んでいた。

 今晩の献立はトマトとレタスのサラダ、明太子のパスタといった簡単なものであった。

 何故この献立にしたのかは、俺がただ単に食べたかったからである。

 サラダには俺の独断でフレンチドレッシングを掛けておいた。勿論ドレッシングはお手製だ。

 俺は椅子に座り、少女に飯だと伝える為に部屋の隅を見るがそこに少女は居なかった。

 何処に行ったのかと周囲を見渡そうとすると、目の前から、


「いただきます」


と言う少女の声が聞こえた。

 いつの間にか着席していたようだ。

 

(早い奴め)


 俺も少女の挨拶に釣られ、最後に挨拶をしたのはいつだっただろうかと考えつつ「いただきます」と言った。

 最近は食事をするにも仕事片手であったので挨拶をする気力も残っておらず、挨拶をするなど久方ぶりだ。

 少女を見ると、少女はパスタを食べるところであった。

 昨晩の拙い箸使いと違いフォーク使いはとても鮮やかである。

 俺よりも扱いが上手い。

 少女は麺を綺麗に巻き取ると口へと運ぶ。

 麺に絡みついている一重梅のような明太子は電球の光を受けて、上品に輝いている。

 まだ湯気が立っている少量の麺を少女が口に含んだ瞬間、少女の瞳が銀朱に輝いた。

 どうやら少女の口に合ったらしく、麺を運ぶ手が段々と速くなっていく。

 少女はあっという間に皿の上のパスタを胃の中へと隠し、サラダへとフォークを伸ばす。

 トマトの太陽の光を詰め込んだかのような艶やかな皮とレタスの瑞々しい葉にフレンチドレッシングの完全ではない人工的な白さが覆い被さる様子はまさに自然を雪が覆っているような現実離れした光景であった。

 まあ完全なる白など存在しないのだが此処ではいいだろう。

 俺がそう考えている間にも少女は黙々と食べ進めている。

 ふと、少女の手が止まった。

 そして少女はフォークの先端に刺さっているトマトを凝視する。

 何事かと思えば少女は、


「これ、スーパーで見た奴だ」


とぽつりと呟いた。

 そういえば、と俺はスーパーでトマトを興味深そうに少女が見ていたことを思い出した。

 少女はトマトを凝視するのを止め、口の中へと運ぶ。

 すると少女は先程よりも美味しそうに咀嚼をした。

 少女がトマトを飲み込むと、俺に目を輝かせて、


「社畜さん!これ、何て名前ですか?」


と聞いてきたので、


「トマトだけど」


と答えると少し食い気味に、


「トマト、か。君はトマトちゃんって言うんだね。うんうんいい名前だ」


と独り言を呟いた。やはり不思議な世界観である。

 そして少女はまた黙々と食事を始める。

 少女がサラダを食べている間、俺はパスタをゆっくりと味わっていた。

 パスタを堪能し終え、次にサラダへとフォークを伸ばそうとした時にはもう少女は、


「ごちそうさまでした」


と手を合わせて皿を片付けていたのである。

 少女の皿にはドレッシングも明太子も殆ど残っておらず、綺麗に平らげられていた。

 作り手としてはとても嬉しいことである。

 俺も少女から少し遅れ、手を合わせ挨拶を済ます。

 少女を見ると、丁度冷蔵庫から崩れたぷりんを取り出しているところであった。

 少女の右手にはスプーンが握られており、ぷりんを堪能する気満々であることが伝わってくる。

 だが、そんな少女とぷりんの逢瀬のような時間の邪魔をするように、俺は少女を呼ぶ。


「おい」


 俺の呼び方が雑だったからなのか、ぷりんとの逢瀬を邪魔されたからなのか、少女は俺に対し不快感を顕にする。


「何ですかー」


 少女の声は表情以上に不快感を漂わせていた。


「私はぷりんちゃんとのお話に忙しいので、また後でではいけませんか」

「いけません」

「えー何でー」


 そう駄々を捏ねる姿はまるで幼い子供のようであった。


「話が終わったら食べていいぞ」

「今がいいんです、ぷりんちゃんが私を読んでいるんです…ぶつぶつ」


と、まだぶつくさと文句を言っている少女を俺は半ば無理矢理椅子に座らせ、俺も少女の前に座る。

 俺は一度落ち着く為に深呼吸をし、少女の顔を見詰めるが少女は俺に見詰められて恥ずかしかったのか目を逸らしてくる。

 だが、目を合わせることに拘っていても仕方がないので俺は話を始めることにした。


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