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一の三

 俺は覚悟を決め目を瞑ると、目の前からバサッという音とともに頬に微風を感じた。

 恐る恐る目を開けると…少女が頭を下げていた。


「お願いします!何でもするんで私と契約してくださぁぁぁぁい!後生ですから!」


 先程までのプライドとプライドとプライドは何処へやら。

 頭を下げるその姿は、まるで歴戦の戦士のようであった。


「ちょ、ちょっと頭を上げ「お願いします!もう嫌なんです!あんなクソ不味い料理を食べるのはぁぁ」

「あ、あの」

「いやいや期なんだーー!」


 何とか泣き喚く少女を宥めようとするが全く聞く耳を持ってもらえない。

 何か少女の気を引けるものはないのかと周囲を見回すと、とあるものを発見した。

 俺は泣き喚く少女を横目に台所まで歩いて行く。

 そして目的のものを持ち大きな声を出す。


「デザートのぷりん食べる人」


 俺は目的のもの、先程召喚に使ったばかりの焼きぷりんを高らかに掲げると少女は一瞬で静かになる。


(単純だ)


 単純である。


「あのな悪魔。俺は契約してもすることはないんだ、だから「嫌です。契約してくださるまでここに居座ります。それが嫌だったら諦めて契約してください」


 先程から高圧的な態度になったりプライドを捨てて泣き喚いたり急に冷静になったりと忙しいと思いつつ、


(というか冷静になれんのかよ)


と、心の中で突っ込むことも忘れない。


「分かりました。ではこのまま居座らせて「待て待て」


 俺が早く返事をしなかったからか俺を急かすためか少女は居座るということで終了させようとしてくる。


「では契約していただけますか?」

「いや、だって魂取られるんだろ。嫌だよ」

「ふっふっふっふ、甘いですね。砂糖たっぷりの粒餡と生クリームを混ぜたものに練乳やら蜂蜜やらをトッピングしたような甘さですよ。目の前に何でも願いの叶う魔法のランプがあるのと同じなのに、それを手に入れられるチャンスを手放そうなんて…願いが叶うのならば魂くらいパパーっと散らせてもいいじゃないですか。それが嫌でも社会人ならば交渉という術が残されていますしね」


(交渉、か)


「いやいや甘いし、しないし。と言うか粒餡ってところに変なこだわりを感じるな」

「粒餡は譲れません」


 今まで心の内に秘めてきた突っ込みを思わず入れてしまう。


「交渉っても願い事はないし、どうせ魂じゃなくてもお前の体を貰うーってやつだろ」

「いいえ、交渉次第では…あーもーまどろっこしい!」


 少女が突然狂ったかのように机を強く叩く。

 辺りにはドンッという鈍い音が響き渡り、少女は思っていたより強く叩きすぎたのか手を押さえ悶絶している。

 少しすると痛みが引いたのか少女はこちらに向き直り、何処からか取り出した一枚のホワイトボードを手に説明をし始める。


「今あなたはとてつもない力を手に入れられるんです。本来ならば魂をいただくのですが今回は何と!我が儘な貴方の為に…」

「た、為に?」

「何とー!」

「何と?」

「…何とーー!」

「あーもう早くしろよ!」


 つい声を荒げてしまう。そんな俺の変わり様に驚いたのか恐怖したのか、少女は肩をビクッと震わせ小さく、


「す、すみません」


と言った。


「で、では…何と貴方の料理で手を打とうと思います。貴方が私に料理を作れば未来や過去を覗けるんですよ。破格ですよ破格」

「いや、ごめん。でも何で料「よくぞ聞いてくださいました!実は…」


 俺はどれ程の壮絶な物語が待ち構えているのかと身構えるが、彼女の口から紡がれた言葉は俺の想像の斜め上を行くものであった。


「私達は普段魔界と言う場所に住んでおります。魔界は日が照らず植物は育ちませんので魔族、まぁ悪魔やらは食事をしなくてもいいように進化しました。だから本来ならば食事を必要としないのですが、食事と言う文化は廃れていません。逆に嗜好品の一種として進化を遂げています。ですが先程言った通り植物などの食材は育たず、食事は高級嗜好品となっております。あ、高級と言ってもこちらの世界での食材の価格が十倍となっている程度ですので私も時々食べておりました。とても美味しく幸せな気分になれたのですが、ここで事件が起こります」

「事件?例えば食材が完全に無くなったとか?」

「まぁ違います。その事件はほんの数分前に起こりました」

「ん?」

「そうです。私はとある捧げ物を貴方にいただきました。それが全ての元凶です。それを食べると脳が蕩けるような感覚に陥り、今まで食べていた物がまるで腐った生ごみのように感じました」

「ま、待て」

「この世、いや人間界にはこのような物があるのか。とね」


(あれ、待て。これってもしかしなくとも、俺のせい?)


 変な少女に絡まれる原因が自分自身にあったことを悟ってしまい、俺の脳が思考を停止してしまう。

 俺が思考停止しても尚、少女は話を進める。


「酷いと思いますよね。可哀想だと思いますよね。では契約を…」


 少女は涙を拭う素振りを見せ、俺の手を掴もうとしてくる。


「いやいやいや。契約しないし、って止めろ」

「可哀想だと思いますよね、ね!難しいことなどございません。ただ私と貴方の掌を合わせ、私の名を唱えるだけですから。かんたん簡単」

「だから嫌だって」

「では私は契約していただけるまで貴方を眠らせません」

「何でだよっ」


 いくら夢の中だとしても眠れないということは苦痛に感じる。

 ここで俺はあることに気がつく。


(ん?そうだ。これは夢だったじゃないか。契約もなにも起きれば全てが無になるじゃないか)


 気づいてしまった。

 この事実を、これが夢であったことに。

 あまりにも現実味がありすっかり記憶の彼方へと飛んでしまっていた。

 そう考えると次に自分がすべき行動が自然と頭に浮かぶ。


(そうか。そうだよ、そうじゃないか)


「だーかーらー。けーいーやーくーをー」


 少女は口を尖らせうざったく契約を進めてきている。

 そんな少女に俺は初めて笑顔を見せる。


「けーいーや「いいよ。契約しよう」


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