表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

くまぜみの鳴く森で

木々の生い茂る森の奥で、僕は奇妙な黒髪の女の子に出会ったんだ。


公式企画『夏のホラー2022』お題:ラジオへの参加作品です。


シィシィシィシィシィシィ…… ジーーーーー……


 どこかでセミが鳴いている。

むわっと、草木のにおいが漂ってきそうな、ふかい森の中だ。

高い樹木にかこまれ、うっそうとしげった草で、まわりが見通せない。

木の枝や葉っぱが頭上に広がっていて、太陽の方向もはっきりしない。

ぼくたちは、道と言えるかどうかも怪しい、ぬかるんだ獣道(けものみち)らしきところを歩いている。


 森で、ぼくは変な少女に出会った。

一緒に来てほしいと頼まれた。『どうしても』と。


 その子はリュックも水筒も持ってない。手ぶらだ。


 迷子かな? それとも……このあたりに住んでいる? けれど、こんな森の奥に集落(しゅうらく)はあったっけ?


 彼女についていくと、森の中にぽっかりとひらけた場所にでた。

そこには()ちかけた小屋があった。



「ここだよ」


 挿絵(By みてみん)


 そう言ったおかっぱの女の子は……たぶん、まともな人間ではない。

その身体が、どこかおかしい。なんとなく()けているようだ。

彼女の向こう側の景色が見えそうだ。


 森の中では気づかなかったが、彼女の足もとに影がない。

もしかして座敷童(ざしきわらし)のお化け?


 木造の小屋はボロボロでくずれかけている。壁のあちこちに黒ずんだ穴が空いている。

いつ倒壊(とうかい)しても、おどろかないぞ。扉は完全になくなっている。


 まさか、ここに入れと?

少女は小屋に、すうっと入っていった。しかたがないなぁ……。僕も慎重に後に続いた。


 ガラクタが散乱している。

汚れた本。こわれた陶器(とうき)の動物。キズだらけの人形。色あせた、おもちゃのお金。

どれもよごれていて、しめった匂いがする。


 時間が、ここだけ取り残されたみたいだ。


 この小屋は、子供たちのかくれ()かな。

彼女はクツを脱がずに部屋にあがっていった。ほこりのつもった床に、少女の足あとはつかなかった。

ぼくもクツのままで続く。


「わたし……生きてた頃は、お兄ちゃんやお友達と、ここでよく遊んだの」


 ……生きていた?

なるほど、座敷童じゃなくて、幽霊(ゆうれい)のたぐいか。

この森って、自殺や心中(しんじゅう)のウワサがあるけど、その一人かな?

ここで死んだとは限らないけど。


「あなたに見てほしいの。これ」


 幽霊の少女が(かべ)の方を指さした。

柱に、古い筆箱(ふでばこ)みたいな箱が付けられている。


 そこから、ねじれたイアホンのコードがたれさがっている。

銅線が天井と床に伸びている。みどり色のサビが浮かんでいた。


 これって大昔の電話機かな……。いや、たぶん自作の鉱石(こうせき)ラジオだ。


「これ、お兄ちゃんが作ったラジオなんだって。完成したら聞かせてくれるって言ってたんだけど……。わたし、聞かせてもらう前に死んじゃったみたい」


 友達に似たようなラジオを見せてもらったことがある。

雑誌のふろくだったか。アンテナ線と地面へのアース線さえあれば、電源もいらない。

イアホンでラジオの音が聞けるとか……。


「わたしには聞こえないの。あなたがかわりにラジオを聞いてくれるとうれしい」


 妙に切実な声だった。

ぼくはそっとイアホンのところに耳を寄せた。


「えーと……よく聞こえないな。ザーっていってるけど。あ……。あれ、なんか言ってるかな?」


 少女の方をチラリと見ると、不安そうな表情でこちらをじっと見つめている。

いつの間にか、セミの声がやんでいた。


「関東地方の天気は……おおむね快晴……夜になっても……熱中症に……注意……」


 ぼくの声をきいて、少女は目を大きく見開いた。

そして、その目からぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。


「……きけた……やっと……ラジオ、きけた……おにいちゃん……やくそく……」


 おかっぱの少女の姿がだんだん薄くなってきた。声も小さくなっていく。


「……ありがとう……ありがとう……」


 お礼の言葉を残して、姿が完全に消えた。

事情はよくわからないけど、彼女の心残りが消えて成仏(じょうぶつ)できたってことかな。


 正直に言うと、イアホンからは何も聞こえなかったんだ。

さっきのは天気予報のマネをしただけ。

ぼくは大ウソつきだ。ろくな死に方はしなかったな。


「ぼくも、早く成仏しなきゃ」


 そっと、手をみた。すけて見える。ぼくもこっち側だった。

誰かの役に立ちたかった。ちゃんと生きたかった。

でも、ぼくがここに残ってるってことは、まだやるべきことがあるのかな。


 セミが声がまた聞こえてた。

あのセミって、ほんとに生きているセミなのかな?


 シィシィシィシィシィシィ…… ジーーーーー……


これってホラージャンルに該当するのかな。

童話かローファンタジー寄りかも。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
公式企画夏のホラー2022

アホリアSSの別作品はこちら
新着投稿順
人気順

童話&ほのぼの系
子狸ポンチキは迷たんてい:短編童話
子狸ポンキチとそびえる塔:ひだまり童話館だより*「たぷたぷな話」
K&K:胡桃ちゃんと暦ちゃんシリーズ
白猿さんと子狸くんのお茶会シリーズ
いちじになったよ、こだぬきはしる:マザーグースの歌
バスに揺られて甲州へ:ブドウ狩り企画

変身ヒーロー&魔法少女&バトルもの
魔法少女がピンチ! 黒衣の玉子様が助けに来た
ヒーローマニアの日常シリーズ
白猿ハヌマーンと星の6兄弟:短編:冬の童話祭2022
むべ山風を嵐というらん:第八回月餅企画
宇宙砂漠の幽霊船:ダイヤル0321:短編:軍服ヒロイン企画

恋愛もの
青いネコとお姉さんシリーズ
チワワ系の女学生:短編:バレンタイン恋彩企画

剣と魔法のファンタジー小説
そしてみんなどこへいった:短編:狭いところで槍企画
神具トゥギャザー ~ゴーレム君のダメ日誌~(連載終了)

あまり怖くないホラー等
くまぜみの鳴く杜で:短編:夏ホラー2022
うみねこの鳴く前で:短編:夏ホラー2022
牛の首:短編:牛の首企画/夏ホラー2022
午の貢 ~うまのみつぎ~:短編:XIの短編企画(1)

歴史もの
最後の勅書(短編:三国志企画)
晴天のへきれき:袁紹対曹操(短編:三国志企画)
― 新着の感想 ―
[良い点] 成仏だけを取ればホラーっぽい童話かも知れないけど、何が起こるか読んでいてハラハラするってのはやっぱりホラーですよね。 それにしても、創作という寝た明かしから、本人も幽霊という畳み掛けは「こ…
[一言] 優しいホラーですね。 ありだと思います! 主人公は成仏できるんですかね? 何かすごく大きなカルマを背負ってそう。
[良い点] おおう。そういうことだったんですね……。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ