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4.学園生活スタート

 扉の前で呼吸を整えると、ざわざわとした教室に、一歩足を踏み入れた。

 皇子である私に気がついたのか、教室は一気にシーン……と静まりかえってしまう。


 うぅっ、気不味いっ!


 入寮して早々に倒れ、まさかの入学式を欠席する羽目になった。

 皇族が入学すると、新入生代表挨拶をしなければならない。さんざん準備したのにも関わらず、暗記した挨拶もすることなく、いきなり三日間も休んだ第三皇子。全校生徒が知っている。


 そりゃ、注目の的ですわ。


 学園側とのやり取りや、必要なことは、ルーカスが全て終えてくれている。

 皇子なのだから堂々としていればいい。

 わかってはいるが……。中身が普通のおばちゃんのせいか、若者だらけの教室に場違い感が半端なく、ドキドキが止まらないのは責めないでほしい。


 笑顔を貼り付け必死で平静を保つ。

「お席はこちらです」と、スマートに案内してくれるルーカスについて行く。すると――。


「シャルル殿下」


 品の良い声に呼び止められた。

 内心はビクビクで振り向くと、見覚えのある顔にホッとする。声をかけてきたのは、ハミルトン公爵家の令嬢、クリスティーナだった。


 彼女は、公爵令嬢であり第二皇子の婚約者だ。きっと、大切な行事を休んだ皇子を心配してくれていたのだろう。

 凛とした佇まいで流れるような完璧な挨拶は、さすがとしか言えない。


「よろしくね、クリスティーナ嬢」


 ニコッと笑みを浮かべ、返事をする。


 皇族へ嫁ぐ彼女は、とてもしっかりしていて好感がもてる。第二皇子に相応しいよう、小さな頃から徹底した皇子妃教育を受けてきた。

 数年後には義姉になるのだ。家族になるのだから、学園でもっと仲良くなれたらいいな。


 その後も、爵位順にクラスメイトが挨拶にやって来る。このクラスは、成績もさることながら、高位貴族の子息子女ばかり。貴族社会というか、こういうのは本当に面倒くさいが、マナーは大事だ。


 そして、そんな周囲に目もくれず――ニコニコした女子力全開の、ゆるふわな雰囲気のご令嬢がやってきた。


「シャルル様ぁ〜! もうお加減はよろしいのですか?」


 いきなり親しげに声をかけられて戸惑う。

 えっと……この子は、誰?


「入学式で、お会い出来るのを楽しみにしておりましたのに! 体調崩されたとお聞きし、心配で胸が張り裂けそうでしたわ……」 と、ウルウルした瞳で見つめてくる。


 なんか馴れ馴れしくない? 初対面だよね?


 ルーカスは私に危険が及ばないかぎり、しゃしゃり出ることはない。皇子の側近兼護衛ではあるが、ルーカスは平民のため、余計なことは言ってはいけないとトルソーから指導されている。

 学園では、皇子としての振る舞いも見られる場だからだ。


 どう対応しようかと考えていると、彼女の態度を見かねたクリスティーナが戻ってきた。


「ミア・グレイ様、ご心配はわかりますが。シャルル殿下が驚いてらしてよ」


 柔らかく彼女の名前を呼んで(たしな)める。


「あっ! 心配のあまり、失礼致しました! ミア・グレイと申します」


 顔を赤らめて、微笑んだ。

 周囲の男子生徒の好意的な視線が、彼女に集まる。なんていうか、自分の魅せ方を知っている女子だ。


「こちらこそ、よろしくね」


 私も負けじと、甘い微笑みを返しておく。


「「「きゃ〜ぁ〜」」」と、遠くで黄色い歓声が聴こえてくる。

 どうやら成功したらしい。よし!


 グレイ家は……確か、男爵家よね。

 ミアは可愛いが、おばちゃんの勘がこの娘は信用ならないといっている。

 ふと横を見ると、男爵令嬢に向けられたルーカスの目が、冷え冷えとしていた。


 あ、やっぱりね。要注意人物に認定しておこう。


 


 ◇◇◇




 授業も何とか終えたので、寮に戻り自室でお茶をする。


 やっぱりメアリの入れてくれる紅茶は、すごく美味しい。もともと前世が紅茶派だったせいか……それとも、小さな頃からメアリの紅茶を飲んでいるせいなのか。私にとって、落ち着く癒しの時間だ。


「さて、ルーカス。グレイ男爵令嬢について教えてくれ」


「かしこまりました。父親のグレイ男爵は、かなり黒い噂のある人物ですね。あのミア・グレイは侍女に産ませた娘のようです。ただ、平民の侍女が産んだにしては魔力量が桁外れです。それを認められてこの学園に入り、シャルル様と同じクラスになりました。近づいて恋仲になるよう画策している模様です」


 業務的な説明を聞くと、予想通りな内容に呆れてしまう。


「うん! あまり関わらないようにしよう」

「お任せください」


 ルーカスはミアを敵と判断したのか、冷ややかな笑顔で返事した。頼りになるなぁ。



 ◇◇◇

 



 ひと月余りが過ぎると、皇都は春祭りシーズンに入った。


 春祭りに合わせ、学園も連休になる。

 そして、宮殿では春祭りの恒例行事、ダンスパーティーが開催されるのだ。今までは面倒くさくて、そういった場は避けてきた。


 三男坊のせいか、その辺は甘く許されていたが――今回は特別なので参加は必須。

 皇太子である兄アーサーの、婚約者のお披露目も兼ねているからだ。学園から宮殿に戻り、パーティーに出席しなければならない。親族だから当然そうなる。


 確か……アーサーお兄ちゃんの婚約者は、隣国の姫君だったわよね?


 長女ではあるが、隣国では国を治める資格があるのは、男性だけなのだとか。幸いなことに、とても優秀な弟君がいて、安心して嫁いで来られるらしい。

 結婚式はアーサーの皇位継承が確定し、国民へ正式発表する時に行うそうだ。


 経緯はよくわからないが、二人は政略結婚でもなく、運命的な出会いをして恋に落ちたのだとか。もう一人の兄アンドレが話していた。


 折を見て経緯を詳しく、それは詳しく聞きたい!

 ふふ……おばちゃんは、そういうのが大好物なのよ。




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